北海道大学工学部の教員のなかに、現役の建築家として活動している先生がいます。
北大の准教授として、建築をテーマにとても面白い授業を展開する一方、建築事務所で設計も行う。さらに自宅では三つ子の父として多忙な毎日を送っている松島潤平さん。授業では聞ききれなかった面白いお話をぜひもっと聞きたいと、インタビューを行いました。
前半パートでは、松島さんの建築家としてのお仕事や建築観について迫ります。
【池田倖乃・総合理系1年/ 梅津侑奈・医学部1年/金指心・総合文系1年/澤田彩胡・法学部1年/月森裕哉・経済学部1年/渡部佑碧・総合理系1年】

松島さんは最近どのようなことを研究されているのですか?
「建築表記法」という、建築をどう表現するかの研究を行っています。建築は実物をそのまま持ってきてプレゼンテーションできないから、図面にしたり、CGにしたり、模型にしたりといったように、今この世の中にないものを、何かのメディアに変えて伝えなきゃいけない。そのメディアの表記の仕方を研究してるんですね。
最近すごく面白いのはアニメーションですね。特に、空間体験的な動画ではなく、建築がどうやってできているかという成り立ちを説明するアニメーション。そういうのを「モーションダイアグラム」と言いますが、ここ最近、TikTokとかインスタのリール動画で、建築の専門じゃない人も純粋なエンタメとして見ているようです。こうした「どうやって作り方を見せるか」といった表記法を研究すると、裏返って建築のアイデアが生まれてくるんですよ。
建築表記法にはどのような効果がありますか?
建築という存在は、良くも悪くもパワーがすごい。土地や環境を激変させるし、壁があったら人はその先にいけないという、強力なコントロール力があるわけです。あらゆる生き物にとって、建築というのは根本的に「障害物」なんですよ。何もない空間に対して、建築ができるということは、それまでの自由が奪われるので、建築に対して理解が低いほど、基本的には反対されるものだと思っています。お金もかかるし。だから、あらゆる関係者のコンセンサスとか共感を得ないと建築は建ち得ないので、建築表記法の洗練によって建築に対しての理解を深めたり、建築をどう読むかということを、なるべく一般教養として浸透させていくことで、建築の意義をしっかり伝えていくことができると考えています。

建物を建てる際に、はじめに何を考えますか?
配置ですね。その建物を敷地のどこにどうやって置くか、セットするかっていうことが、実は我々の専門性が最も発揮されるところなんですよね。敷地ごとに囲まれている状況も全部違うので、1つ隣の敷地でも建築は変わるんです。風向き、日照、どの方面に空間が抜けているかとか。その土地にまつわる文化的背景とか。プランや間取りは正直誰でも書けるんですが、敷地を読むという行為は、実は多大なる経験と学習が必要で、それに基づく配置計画こそが我々の特権的な専門性だと考えています。
松島さんのこだわりはなんですか?
与えられた条件にどうユニークにリアクションするか。で、それが長い射程で見た時に、正解のひとつとなりうるかというところかな。いわゆる「これが正解」みたいな佇まいの建築にはしないって感じですかね。わかりきった正解の寿命は短いので。建築家ってリアクション芸人みたいなものだという話をよくしていまして。色んなアクションとしての条件があって、それにアンサーするわけです。世の中にはエゴイスティックなこだわりで作る建築の魅力で勝負してる人もいるんですけど、やはりそういったスタイルの建築家はだんだん少なくなってきていますね。

建築物を使う人の目線で考えたとき、どのようなことを意識されていますか?
さっきも言ったように、建築は命令的になりやすいんですよ。階段だったら登れ、エレベーターだったら乗れっていう命令なんです。常に我々は建築から命令を受けて動いている側面もあるわけです。こうした形が行動を誘発する概念を「アフォーダンス」と言います。それに対して、「ここで寝てみたらどうだろう?」といった発想が生まれるような、多様な行動の選択肢のアフォーダンスを仕込んでおく建築っていうのが、僕の建築の思想なんです。「トランスオルタナティブ」って言ってるんですけど。「選択肢が集合してできた建築」というのが、僕の建築のテーマです。
松島さんにとって、何ができたら、建築は成功したと思われるんでしょうか?
個人的には、絶対的な正解はないと思っています。「正解はある」っていう建築家もいるけど、社会も変わるし、もしかしたら人間の身体も変わるかもしれないし。風向きとか、地形とか、社会状況っていうものに対する、現時点の最適解っていうのは、もちろんあるんですけど。一方で「50年後に正解になるかもしれない」っていう建築も世の中にあるんですよ。共時的な正解になるべく囚われず、タイムスパンを長くしてみた時の、答えのひとつみたいなものを探してるっていう感じですかね。
長期的な正解とはどういうものですか?
たとえば住宅で考えてみても、暮らし方ってすぐ変わっちゃうんです。家族って一瞬で変わるし、10年経てばうちの子供だって、もう成人するわけです。家を出て行っちゃったりする。子供部屋っていうものが機能するのが、数十年のうちたった10年未満だったりする。社会の変化以上に、家族の形態ってふにゃふにゃなものなんですよね。さらに言えば、その家族がその家からいなくなって、次の家族がやって来たとしてもフィットする要素って何だろう、っていうことまで考えないといけなくなってきてますよね。
これからの建築に必要なことは何だと思いますか?
これまではどんどん人口が増えていき、放置しているとごちゃごちゃカオスになっていく世界でした。工場の中に家があって、排気が垂れ流されてる横で炊事をするみたいなことになっていた。なので、いろんなビルディングタイプをちゃんと分けて、住居は住居地域に、工場は工業地域に、といったように一旦分離しないと衛生的に成立しない時代があったわけです。この「分けて離す」っていうのが、今の都市計画法や建築基準法の基本なんです。
けど、今度は分けちゃった社会になった後で、日本みたいに強烈な少子化が進んでくると、都市はスカスカになって、色んなもの同士の関係性が希薄になってしまいます。商業地域と住居地域が離れているので自動車を使わなければいけない。そうすると以前道端で合っていた近所の人との交流はなくなっていき、孤立や孤独死の問題が出てくる。じゃあ今度は今まで分けて作っていたビルディングタイプをどんどん混ぜなきゃいけなくなる。それで複合施設が増えているわけですね。ただ、その混ざり方はやっぱりデザインしなきゃいけない。ただ一緒くたに投げ込んでも成立しないので、それをこれからの建築家は考えていかなきゃいけない。「一回分かれたものをどうデザインしてリミックスするか」ということが、一つ大きな主題になるかなと思います。
北大ならではの取り組みってありますか?
北大は特に地域連携が強いと思いますね。研究室で地域に入り込んで具体的なまちづくりに取り組めるということは、北大ならではの魅力です。道内で信頼度が高いというのはもちろんあるけど、逆に言えば北海道内に問題を抱えた自治体も非常に多い。実際人口のバランスが極端に悪いし。
例えばどのようなことに取り組んでいますか?
この研究室では、発足時からずっと大樹町(※)という道東の町でまちづくり活動をしています。
※大樹町は「航空宇宙産業基地」の候補地とされて以降、官民が一体となって「宇宙のまちづくり」を進めている。
ロケットは、地球の自転を考慮して東南側に射出する必要があるんだけど、大樹町は東南側に海が広がっていて陸地も国もないから、仮に打ち上げで何か落ちても迷惑をかけない。あと「十勝晴れ」といって晴天率が高いことや、空が渋滞していないこと、また帯広空港を使えば大都市からのアクセスも良い。奇跡的に宇宙港のポテンシャルがめちゃめちゃ高い場所なんですよね。それで、色んな方々が投資してロケット打ち上げてるんです。
ただ、今まで酪農を主軸としていた町に、突然宇宙港ができるって、SFっぽくて極端な話なわけで。そういう場所に僕の研究室の学生が入っていって、その温度差を調整するようなマスタープランとか居場所づくりのデザインを進めています。意外と全然違う産業がエネルギーの観点でうまくつながったりして、すごく面白いですよ。

建築についてお話を伺ったところで、後半では松島さんの素顔により迫っていきます。つづく
この記事は、池田倖乃(総合理系1年)、梅津侑奈(医学部1年)、金指心(総合文系1年)、澤田彩胡(法学部1年)、月森裕哉(経済学部1年)、渡部佑碧(総合理系1年)が、主題別科目「北海道大学の”今”を知る」の履修を通して制作した成果です。