札幌キャンパスの中央通りから恵迪寮のほうに向かっていくと左手(第二農場の北東端)に家畜舎が見えます。バイオガスプラントがあるのは、その一隅です。
家畜のふん尿や生ゴミ、木材など、生物体に由来する物質(バイオマス)を原料に、そこから有用なガスを作り出す設備、それがバイオガスプラントです。いったいどんな仕組みになっているのか、荒木肇さん(北方生物圏フィールド科学センター 教授)に説明していただきます。
まずは、ふん尿を集めるのですよね
牛舎の床には、ふん尿が落ちるような位置に溝が造ってあり、そこにふん尿が溜まります。それを1日に3~4回、水の勢いを利用して貯留槽へ流し込み、大きな羽根でかき混ぜ、とろとろの液にしてから、パイプで発酵槽へと送ります。
送られるふん尿は、牛・豚・鶏などのを合わせ、1日あたり約4立方メートルですが、98~99%は牛のふん尿です。なにせ牛は、1頭で1日に70kgほどの飼料を食べ、30~40kgのふん尿を出すのですから。
つぎは発酵ですか
容積100立方メートルの円筒形の装置内で、酸素がない状態で微生物の働きにより発酵させます(嫌気性発酵)。すると、メタンガスが60~65%、炭酸ガスが35~40%、それに微量の硫化水素を含んだガスが、1日に80~120立方メートル発生します。
硫化水素は有毒なので脱硫装置で取り除き、残りのメタンガスと炭酸ガスを、球形の袋(ガスバッグ)に貯蔵します。袋の容量は20立方メートルです。
そのガスを有効利用するのですね
炭酸ガスも含むメタンガスをボイラーで燃やしてお湯を作り、そのお湯で、さきほどの発酵槽を38℃に保っています。このくらいの温度にしないと発酵がスムーズに進まないからです。お湯はまた、牛乳パイプラインなどを洗浄するのにも使っています。ボイラーの発熱量は、27kWです。
でも発電には、残念ながら使っていません。経費的に難しいので、発電システムは設置しなかったのです。道内の大学で言えば、酪農学園大学のバイオガスプラントは規模が大きく、メタンガスで発電して、牛舎・酪農施設の電力使用量の7%ほどを賄っているそうです。
バイオガスプラントの仕組みを図にすると、このようになります。
このプラントは、いつできたのですか
稼働を始めたのは2004年です。
牛舎はもと、北キャンパスの、いま創成科学研究所がある辺りにありました。当初は良かったのですが、周りに住宅が建つとともに、ふん尿の臭いに対し苦情が寄せられるようになってきました。
悪臭のもとになる成分は、ふん(うんち)ではなく尿のほうにあります。当時は、ふん尿を固形分と液分に分けて、液分は地下のタンクにため、固形分は堆肥場に積み上げたままにしていました。分けたとはいっても、固形分の中に尿の成分がたくさん残っていますので、それが揮発すると、風に乗って近隣に広がっていったのです。
そこで今の場所に牛舎を移転するのにあわせ、できるだけ臭いの出ないシステムを作ろうというので、バイオガスプラントに白羽の矢が当たりました。1990年代の終わり頃のことで、全国的にバイオガスの利用に注目が集まっていた時期でもありました。プラントを設計したのは、当時、農学部の農畜産加工機械学教室の教授だった松田従三先生です。
どうですか、牛舎の中でも、ほとんどふん尿の臭いがしないでしょ。
おまけに、発酵槽でできた液体分(上の図の「消化液」)が、すぐれた肥料として利用できます。・・・(次回につづく)