蝦夷富士こと羊蹄山をバックに、自宅のデッキに立つロブさん(文中)
第87回サイエンス・カフェ札幌は、「未来は自分で変えられる」~ドイツのエネルギー自立に学ぶニセコの挑戦~をテーマに開催します。
「エネルギー自立」という概念は、実は国際的な定義がなく、また1つの定義にしぼることも難しいとされています。ヨーロッパの先進地域での推進プログラムによれば、次のような定義がなされています。
〈エネルギー自立とは、地域で1年間に消費されるエネルギーに対して、
地域内で生産される再生可能エネルギーの量が同じかそれ以上であること〉
ただし、過疎地にたまたまウィンドパークや大型水力発電があり、自動的に 必要量以上のエネルギーを生産しているようなケースは、エネルギー自立地域とは呼ばれていません。あくまでも、地域戦略として社会全体で取り組んでいるようなケースがこう呼ばれます。大切なのは、エネルギーを購入するためのお金が、地域の外に出ていくのではなく、地域の中で循環することです。
アンヌプリのサブピークにできたサスツルギ。厳しい風雪は豊かなエネルギー源でもある
今回のサイエンス・カフェで取り上げる北海道のニセコ町では、町民の生活や観光などの産業で使うエネルギーは、1年間に約25億円。そのうち20億円は町外(電力会社等の本社がある札幌やその他首都圏と、原油産出国など海外)に流出していると試算されています。ニセコ町の一般会計45億円(2012年度)に比べると、その金額の大きさに驚きます。
ニセコ町は一冬の降雪量が15メートルにもなる世界有数の豪雪地で、パウダースノーをもとめて世界中から観光客が集まります。でも雪は、スキー場にとっての観光資源となるだけではありません。
田植えの季節。豊かな水と降り注ぐ陽光はつきることのないこの土地のエネルギー源である
地域を流れる川は豊かな水量を誇り、それを生かした水力発電がなされています。また倉庫内に雪を積み、夏でも米や野菜を冷温貯蔵する施設に使うこともできます。
雪はエネルギーを生む、大きな資源なのです。
雪、温泉、そして降り注ぐ太陽や高原を通り抜ける風を、ニセコの財産として生かすことで、エネルギーに支払うお金を地域で循環させ、環境も地域の経済も、そしてくらしの未来も豊かにしていくことができるのではないか。
ニセコ町は、2014年に道内3番目の環境モデル都市に認定され、ドイツの成功例に学びながらエネルギー自立に挑戦しています。
このサイエンス・カフェでは、ニセコが大好きなゲスト2人をお迎えして行います。
ゲストの酒井恭輔さん
酒井恭輔さん(北海道大学電子科学研究所/助教)は光工学の専門家です。ヨーロッパにおけるエネルギー変革の調査から、 自然エネルギーの利用が、環境問題、原発問題の解決だけでなく、豊かな地域づくりに欠かせないことを知り、木質燃料の燃焼技術、地域のエネルギー自立に関する研究を行っています。夏はサイクリングや登山、冬はスキーで月に1度はニセコを訪れます。
ニセコ町町民センターのヒートポンプについて説明する大野百恵さん。ここで得られたデータは、分析のため、定期的に北大工学部に送られている
大野百恵さん(ニセコ町役場・企画環境課環境モデル都市推進係主任)は、北海道大学大学院で森林政策を学ばれた環境の専門家。自然エネルギーのコンサルタントとしてJICAの事業でネパール赴任後、ニセコ町に勤務し、休みの日には野菜づくりや薪ストーブ用の薪割りなどニセコらしいくらしを楽しまれています。
当日の進行は、ニセコ町在住のCoSTEPスタッフが務めます。このイベントのためにニセコ町ロケを行って撮影した映像をみながら、会場に集まったみなさんとエネルギー自立のためにわたしたち一人ひとりができることについて意見交換する予定です。
ニセコロケでは、すてきな出会いがありました。
アラスカからニセコ町に移住し、10年以上かけて家作りをしているロブ・マクマホンさんです。ロブさんは、アラスカ州シトカ生まれ。フェアバンクスにあるアラスカ大学で海洋生物学などを学び、その後、アラスカ州の首都ジュノーで環境保全の仕事につきました。当時、北大の水産学部附属練習船“おしょろ丸”がシトカの港に入港し、乗組員と交流したこともあるそうです。後にアラスカ大学で、建築工学や造船も教えるようになったロブさんは、ある出来事を機に北海道への移住を決意し、道内各地を旅行した末、ニセコ町に居を構えることにしました。ニセコ町を選んだ理由は・・・
環境と建築の専門家として、ロブさんが作る家のこだわりは、エネルギー自立の取り組みそのものです。ロブさんのインタビューは、当日の映像でご覧ください。
イベントのタイトルにある「未来は自分で変えられる」は、ゲストの酒井さんのこだわりです。
「日本の場合、個人で行うことは簡単に進みますが、組織的な取り組みは苦手なような気がします。自宅への薪ストーブ、太陽光パネルの設置は、お金を払えば出来るけど、地域での協力が必要な、エネルギー組合を立ち上げて、小・中水力、バイオマス・コージェネ施設を導入…などは、実行する地域は限られますよね。
このサイエンス・カフェが市民の方の心に届くようにするために、しっかりと地域のエネルギー自立の概念を伝えた上で、ドイツの事例を個人の取り組みに絞って伝えていくつもりです。そして、エネルギー自立が、再エネ割合の拡大だけでなく、豊かな地域の未来を目指した住民の努力を前提にする点を強調したいですね。今が、チャンスなんだと言うことを。」(酒井さん)
エネルギーや環境をニセコだけの特別な問題ととらえず、北海道にあるすばらしい財産を生かして、私たちひとりひとりが「豊かな未来」をつくることができるはずです。このイベントがそのきっかけになると信じています。
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酒井さん、大野さんが出演するサイエンス・カフェが開催されます。今回のカフェでは、ニセコ町在住のCoSTEPスタッフが、酒井さん、大野さんとともに「エネルギー自立」「環境」「資源」そして「循環」をキーワードに、豊かな未来、豊かな社会について語り合います。ぜひお越しください。
「未来は自分で変えられる」~ドイツのエネルギー自立に学ぶニセコの挑戦~
日 時:2016年2月21日(日) 14:00~15:30(開場13:30)
会 場:sapporo55ビル1階インナーガーデン
ゲスト:酒井 恭輔さん(北海道大学電子科学研究所 助教 / 光工学)
大野 百恵さん(ニセコ町役場 企画環境課環境モデル都市推進係 主任)
参加費: 無料、当日会場にお越しください。暖かい恰好での参加をお勧めします。
詳細は【こちら】
参考図書・関連図書(当日、会場でお求めになれます)
「100%再生可能へ! 欧州のエネルギー自立地域」 学芸出版社 (2012)
「100%再生可能へ! ドイツの市民エネルギー企業」 学芸出版社 (2014)
「キロワットアワー・イズ・マネー ~エネルギー価値の創造で人口減少を生き抜く~」 いしずえ(2014)
(以上、村上敦 他著)
「エネルギー自立と地域創造 森林未来都市 北海道下川町のチャレンジ 」下川町(2014)