前回 いいね! Hokudai で紹介した「キャンパス生きものマップ」はご覧になっていただけたでしょうか。この地図をつくっているのが、北海道大学施設部です。そこで板井義喜さん(施設部環境配慮促進課)と、東泰彦さん(同)に、札幌キャンパスの自然環境の維持についてお話しをうかがってきました。
「キャンパス生きものマップ」をつくるきっかけについて教えていただけますか?
北海道大学は「キャンパスマスタープラン2006」を策定しています1)。これは、サステイナブルキャンパスの実現を目標にする、施設整備の基本方針を定めた計画書です。施設部は、キャンパスの緑化や自然環境の維持、教育普及を目指す取り組みに関わるため、施設・環境計画室の下に「生態環境タスクフォース」を組織しています2, 3)。
構内自然環境の保全や対策を講じるためには、大学の中の希少な動植物の分布や、生態系を把握しなければなりません。そこで「キャンパス生態調査」を2009年から行い、環境アセスメントの一環として、基礎データを集めることを始めました。たとえば、新しい建物を設置する計画を立てるとき、その場所に希少種があることが調査でわかっていれば、移植する作業をおこないます。樹種にもよりますが、必要であれば根回しという作業を行って、新たな新根を出させて生きてけるような条件にしてから、時間をかけて移植することになります。
実際に調べてみると、構内には多くの動植物が生息・生育し、札幌の市街地としてはとても希少な動植物が生息していることがわかりました。しかし、大学だけが、構内の生態環境の調査データをもっていても、もったいないじゃないですか。学外の方に提供すれば、札幌キャンパスに行けばこんな動植物がいるんだなと、興味を持っていただけるのではないかと考えました。これが「キャンパス生きものマップ」をつくるきっかけです。ただ、希少な動植物がいる場所を具体的に明らかにしてしまうと、生態に影響がでることも考えられます。そこで、いくつかの種については、地図で分布情報を出すことは控えています。
生態調査はどのようにして行われているのですか?
毎年、エリアを決めて調査をしています。今年は恵迪の森と北キャンパスなどです。この前の新月の時に、ネットをかけて昆虫を採集しました。珍しい種類の昆虫を捕まえたと聞いています。この動植物の同定には、北大の博物館もかかわっています。
確かに札幌キャンパスには本州の大学には見られない動物が多いように思います
構内にはエゾリスがいます。最近、大野池の周りで見かける機会がずいぶん増えてきました。昨年、交通事故に遭って死んでいたリスを博物館に持って行きました。今は、骨格標本になっています。
それから、キツネのエキノコックス対策もやっているんですよ4)。少し前に、北大の農場でキツネにエサを与えている観光客の様子が、動画サイトにアップされていました。農場で作業する方もいます。大学として、まずエキノコックスに感染したキツネが北大にいる状況をなくすということで、対策を行うことにしました。獣医学部の先生方と、駆虫剤を撒いたあとのフンを拾って、寄生虫がいるか調査しています。薬の効果があって、感染しているキツネは、今ほとんどいません。でも、キツネは北大の内外を問わず移動するものなので、駆虫剤の散布は、毎年継続してやらないとだめなんです。
施設部はキャンパスの安全にも気をくばっているのですね
昨年の9月に北24条通りなどで倒木が発生しました。「生態環境タスクフォース」の中にいる専門の先生の指導で調べてみると、倒れたニセアカシアの木はベッコウダケというきのこに寄生されていることがわかりました。そこで施設部総出で、構内の主要道路に面した樹木に、きのこが生えていないか確認して、きのこが確認出来た木や見た目に倒れそうな木にリボンで印をつけました。
キャンパス全体が研究のフィールドになっているのですね。他に「生態環境タスクフォース」ではどのような取り組みをおこなっているのですか?
例えば、インフォメーションセンター「エルムの森」にある花壇で、クロユリを栽培しています。このクロユリは元々北大に自生していたクロユリに由来します。古い時代に構内で採取された球根が別の場所で育成されていて、その一部を北大に里帰りさせたものです。恐らく純粋な北大のクロユリは今北大構内では、ここでしか見られない貴重なものです。
インタビューを終えて
中央ローンの芝生の緑、キャンパスに流れるサクシュコトニ川、季節ごとに彩りを変えるポプラ並木、そして構内に生息する様々な動植物。自然豊かで美しい学び舎は、施設部の職員さん達が縁の下の力持ちになって支えていることを知りました。施設部は構内循環バス、中央ローンの芝生の管理、冬の除雪、イチョウ並木の一般開放、共用リクリエーションエリアの管理のお仕事もされています。機会があれば、記事に取り上げていきたいと思います。おいそがしいなかインタビューに快く応じていただいた、板井さん、東さんありがとうございました。
参考文献・注:
- 北海道大学『北海道大学キャンパスマスタープラン 2006』(2007)
- 「生態環境タスクフォース」に加え「マスタープラン実現タスクフォース」「歴史的資産活用タスクフォース」の三つがあります。
- 北海道大学『環境報告書2015』(2016)
- エキノコックス:キツネやイヌに寄生する寄生虫。キツネのフンに含まれる寄生虫の卵がヒトの口から入ることで、エキノコックス症を引き起こすことがあります。