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#58 「居場所」を見つけて被害を防ぐ! ~ウイルスのいないアスパラガスづくり~

春の短い間だけ登場する北海道のアスパラガス。本州のものと比べてアスパラガスは甘くて新鮮なのが特徴です。美味しくて栄養豊富な、北海道を代表する野菜のひとつです。しかし、ウイルスに感染してしまうと生産量が減少し、品質も悪くなるといわれています。残念なことに、ウイルスのいないアスパラガスを作る効果的な方法はまだありません。ウイルスがアスパラガスのどこに感染するのか分からないためです。そこで私は、ウイルスの居場所をつきとめるべく、捜索を始めました。

【阿部小繭・農学院修士1年】

(実験で使うアスパラガスを準備中)
 

アスパラガスのウイルスって?

「アスパラガスにウイルスが感染する」という話は初耳かもしれません。ですが驚くべきことに、現在私たちが食べているアスパラガスのうち、ほぼ100%がウイルスに感染しているのです。元々の種子に感染しているものもありますが、ウイルスを媒介するアブラムシや、農具からも簡単に広がってしまいます。

アスパラガスがウイルスに感染すると、どのような問題が起こるのでしょうか?通常のアスパラガスは植えてから3~6年で収穫量がピークになり、その後は徐々に減少していきます。しかしウイルスに感染すると、より早い段階から本数や草丈が減って収穫量が少なくなり、品質も悪くなってしまうのです。さらに、生活習慣病やがんの予防効果をもつ機能性成分が減少するという可能性も考えられています。

つまり、アスパラガスがウイルスに感染することは、農家さんにとっても私たち消費者にとっても、都合が悪いのです。ウイルスに感染していないアスパラガスをつくることができれば、生産性が向上し、さらに栄養価が高いという付加価値もつけられるかもしれません。何とかしてアスパラガスからウイルスを取り除くことはできないだろうか・・・そのように考えて、私の研究はスタートしました。

アスパラガスを凍結させるとウイルスが死ぬ?

ウイルスに感染していないアスパラガスを作るため、私はまず、植物体を凍結させることでウイルスを除去できないか調べてみることにしました。細胞分裂が盛んな成長点にはウイルスがいないとされています。アスパラガスを実験室で凍結し、成長点のみを生育させることで、ウイルスがいない植物体を作ろうというわけです。ブドウやバナナなどではすでに成功事例があります。「ウイルスの除去と成長促進」。アスパラガスでもこの2つの効果を期待して、凍結処理実験を行ないました。

(左:無処理のアスパラガス。右:凍結処理を行ったアスパラガス)

凍結処理の効果が出ない…その原因とは?

凍結処理を行なったアスパラガスはどうなったのでしょうか?

上の写真は、凍結処理をしたアスパラガスと処理していないアスパラガスを比較したものです。見ての通り、凍結処理をしたほうは処理しなかったほうと比べて茎が短く、植物体の本数も半分ほどになってしまいました。

では肝心のウイルス除去効果はどうでしょうか。

調べてみたところ、凍結処理をしてもウイルスがほとんど除去できていませんでした。「凍結処理を行なえばウイルスを除去できて成長も良くなるだろう」という予想は覆されてしまったのです。

これはどうしてなのでしょうか?

アスパラガスウイルスの居場所をつきとめよう!

ブドウやバナナでは効果が見られた凍結処理ですが、実は植物によって感染するウイルスは異なります。アスパラガスのウイルスは凍結処理が効かなかった可能性が考えられました。また、アスパラガスのウイルスは植物体内のどこにでもいるわけではありません。もしもウイルスがいる場所がピンポイントで分かれば、それを除去する方法が見つかるかもしれません。

これまでの実験をふまえて、現在はタバコを使った実験に取り組んでいます。なぜタバコかというと、絶対にアスパラガスのウイルスに感染していない個体を用意できるからです(タバコもアスパラガスのウイルスに感染することが分かっています)。

(左:アスパラガスウイルスを接種したタバコ。

右:接種から一週間後の様子。ウイルスに感染すると、葉に黄色の斑点ができる)

ウイルス実験の、その先へ

今の実験はまだ始まったばかり。植物やウイルスという「生きた材料」を実験に使用しているため、思い通りの結果にならないことも多いです。ですが、想像もつかないような結果が得られるからこそ実験は面白いと感じています。私の研究が、これまで未知の領域であったアスパラガスウイルスの感染経路やメカニズムの解明につながることを期待しています。そして、最終的にはウイルスのいない栄養豊富なアスパラガスを多くの人に食べてもらいたいです。

 (北大の圃場で栽培されているアスパラガス)

※ ※ ※ ※ ※

この記事は、阿部小繭さん(農学院修士1年)が、大学院共通授業科目「大学院生のためのセルフプロモーションⅠ」の履修を通して制作した作品です。

阿部さんの所属研究室はこちら

農学院

生物資源科学専攻

作物生産生物学講座

園芸学研究室(志村華子 助教)

研究室HP

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Update

2016.09.20

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