5月16日の午後、ポプラ並木脇の第一農場で、自動運転車のテスト走行が行われました。実施したのは企業と江丸貴紀さん(工学研究院 准教授)の産学連携チーム。北大構内での自動走行は初めての試みです。
政府が2020年の実用化を発表するなど、最近話題の自動運転技術ですが、実はまだ解決すべきことが多くあります。その一つが冬道での走行です。雪に覆われて白線も見えず、路面状況も刻一刻とかわる雪道には、人間でも神経を使います。雪道走行を可能にする技術を開発するために、どのような取り組みが行われているのでしょうか。
【川本思心・CoSTEP/理学研究院 准教授】
デモの様子
ポプラ並木のそばの農場で、真っ赤なボディのオフロード車が周回しています。安全に留意し、時速は20km以下におさえられています。地面はでこぼこで、車体は大きく揺れていますが、ハンドルが小刻みにうごき、直進を保っています。そして農場区画のすみに来ると、ハンドルが大きく切られ、車は曲がりました。この間、ドライバーは手を離して乗っているだけです。
今回デモ走行をした車両を開発したのは、ヤマハ発動機のチームです。車両自体はオフロードの業務等に使われている一般的なものですが、これに自動運転技術が組み込まれています。屋根にGPSのアンテナがあり、これで位置情報を得ます。さらに1秒間に10回という高速で回転するレーザー測距装置で、周囲をスキャンします。得られたデータは車に搭載されているPCに送られ、3次元の地図が作られます。そしてその地図を元に、どのように走るか判断しているのです。
自動運転技術の課題
このように、3次元の地図の作成と、その地図内での自車位置の決定を同時に行う技術が、自動運転技術の核と言えます。江丸さんも、SLAM(Simultaneous Localization And Mapping)と呼ばれるこの技術を、長年研究してきました。では今回、何が新しい研究なのでしょうか。江丸さんに伺いました。
「実は雪道の走行研究はまだ世界的に見ても行われていません。一般道での自動運転はかなり研究されていて、一台の車が走るだけなら、結構簡単にできてしまいます。ただ、何台も車が走っている時や、天気が悪い時に、どう環境を認識して、安全に運転するか。これはまだ難しいのです。特に冬道は白線などの、運転の目安に使えるものが見えなくなってしまいます。除雪状況によって道幅もかわります。そこでSLAMが重要になりますが、雪道のデータをたくさんとる必要があります」
「自動運転車は、ロボットと同じく、ROS(Robot Operation System)というシステムで開発が行われています。私は主にロボットでROSを使っていましたが、ヤマハさんも自動運転車で使っていました。ROSは世界中で使われています。これから実施しようとしている共同研究を迅速に推進してくれると思います。」
きっかけは広報誌
この産学連携チーム結成のきっかけは、工学研究院が発行している広報誌『えんじにあring』でした。江丸さんを紹介する記事「自動運転を支えるロボット技術」が昨年の407号に掲載されたのです。江丸さんはこれまで屋内で使用するロボット研究をしていましたが、屋外ロボットにも関心をもちはじめていました。そしてこれまでの技術が自動運転車にも応用できることを紹介したのです。
この記事をみて、株式会社ヴィッツ社長の服部博行さんが、江丸さんに連絡をしてきました。ヴィッツとヤマハ発動機は、雪道での自動走行も実現しようとしていました。そのためには高い技術力を持つと同時に、北海道での研究に経験と実績のあるパートナーが必要です。早速、服部さんは関連企業をとりまとめ、今日のテスト走行にこぎつけました。その間3か月。江丸さんも「広報が研究に繋がることがあるんですね」と広報誌の影響力に驚いていました。
注目をあつめるプロジェクト
今回のデモ走行は、学内外の注目を集め、様々な方が研学に訪れていました。自律運転が可能なロボットトラクタを研究している野口伸さん(農学研究院 教授)もその一人です。「私たちは農地・農業での自動運転を目指していますが、共通する解決すべき課題は多いです。雪道は農地と同じく非常に滑りやすいという特徴があります。今後は情報共有など、連携できることもあるかもしれません」とお話していました。
今後の研究について江丸さんに伺いました。
「実際の研究はこれからです。まずは除雪済みの雪道、次に雪が積もった状態と、徐々に条件をかえてデータをためていきたいです。岩見沢にはさまざまなICT技術を開発できる環境があります。そういった場所で、道庁とも連携して研究を進めることもできるかもしれません。また、ヤマハさんが道北の士別市にテストコースを持っています。そこでも実績がつくることができるでしょう」
北海道だからこそできる、雪道での自動運転技術の開発。今後も注目です。