登別明日中等教育学校4回生(高校1年生)のみなさんが、がん細胞の免疫反応に関する研究に取り組む林えりかさんの研究室を訪問し、その体験をレポートにまとめました。(インターンシップ(職場体験)で北大を訪問し、研究者をロールモデルにした自らのキャリアパスを考える授業の一環です。)
研究に情熱を注ぐ毎日 【岩崎 真実(登別明日中等教育学校4回生)】
今回、私たちは北海道大学大学院医学研究科博士課程2年の林えりかさんにお話を伺いました。現在、がんと免疫の関係について研究しています。林さんが中学生の時に、母親が乳がんになり「なぜ人はがんになってしまうのか?」と疑問を抱き、以来強い関心を持ち続けていたそうです。最先端の研究でも、その動機は身近にあるというお話が印象的でした。
(左:岩崎 真実さん・右:金子 杏美さん)
大学院での1週間は、基本的に自分の実験スケジュールで動くのですが、火曜日と木曜日はミーティングに参加し研究についてディスカッションを行なっています。週末は仕事量を減らし、ONとOFFを切り替えている林さん。「規則正しい生活をすることはとても大切で、忙しい中でもこれらのことを心がけています」といいます。研究に対して、私は単純作業の繰り返しというイメージを持っていましたが、その方法は多様で、多くの複雑な実験が行われていました。研究に取り組んでいて面白いことは、違いがはっきり出るようなよいデータがとれたり、論文などを読んで好奇心を掻き立てられたりすること。反対につらいことは、研究の成果を出さなければいけないプレッシャーに追われること、実験によっては日付が変わるなどのことを挙げてくれました。また、研究に終わりがないからこそ、林さんはとてもやりがいを感じています。
将来、就職先としては大学や企業の研究所、国際機関を視野に入れているそうです。少しでも早く林さんの研究成果が医療の現場で生かされ、一人でも多くのがん患者さんの治療に役立ってほしいと思います。
がん細胞を自力で撃退! 【金子 杏美(登別明日中等教育学校4回生)】
林さんはどんな研究しているのでしょうか。生物の体には免疫機能が備わり、主に病原体から体を防御する働きを担っています。また免疫は、体に発生したがん細胞の排除にも貢献しています。最近、そのがん細胞に免疫の働きから逃れようとする機能があることがわかってきました。林さんは、がん細胞にその機能があると仮定して、実験を通して検証を試みています。主に皮膚がんの細胞(B16メラノーマ細胞)を使って研究をしている林さん。ある物質ががん細胞に作用すると、ある経路を通ることによって、免疫から逃れる働きが生じると考えられています。その経路でどのような分子メカニズムが働いているのか明らかにするための実験を行っています。いろいろな条件を変えたメラノーマ細胞をマウスに移植し、マウスの腫瘍がどうなるのかを観察しているそうです。
研究を発表する手段は、論文や学会があります。論文にはオリジナリティが要求されるため、これまでの研究論文を読んで調べなければいけません。論文は英語で書き、学術誌に掲載してもらえるように投稿するそうです。自分が研究をしているときに同じ研究をしている人がいて、その人が先に論文を発表してしまうと、自分がしていた研究を発表できなくなってしまうということを聞き、研究の世界はシビアなのだと思いました。
医学の最前線に潜入! 【川口 僚太(登別明日中等教育学校4回生)】
インタビューの後、私たちは林さんに案内されて実験室に行きました。実験室ではB16メラノーマ細胞とiPS細胞の二つを見ることができました。まず、林さんの研究対象であるB16メラノーマ細胞を顕微鏡で見ました。B16メラノーマ細胞は1つのシャーレに100万個以上もあるとのことです。この細胞には、免疫から逃れられる働きがあると考えられています。その働きを抑えることで免疫の働きを促進させることになり、がんの悪性化を防ぐことにつながるそうです。
一般に基礎研究が医療に応用されるには10年以上かかるそうです。林さんの研究が実際に応用されて、がんに苦しむ人々が減ることが期待されます。
(右:医師の神田真聡さん・左:顕微鏡をのぞく川口 僚太くん)
次に、林さんと同じ研究室に所属する医師の神田真聡さんにもお話を聞きました。神田さんにはiPS細胞を実際に見せていただきました。iPS細胞が成長すると大きさは200μmほどとなり、さらに大きくなると肉眼で見られるほどになるそうです。iPS細胞に免疫異常を抑える遺伝子を入れることで、B16メラノーマ細胞とは反対に、免疫異常を抑える効果を持たせようとしています。これらの二種類の細胞を見て、とても感動しました。一日でも早く現場で使用され、病気で困っている人々が一人でも多く減ってほしいと思いました。
(実際のiPS細胞を観察しました)
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この記事は、北海道登別明日中等教育学校のインターンシップにCoSTEPが協力して実施した成果の一部です。
【取材:岩崎真実、金子杏美、川口僚太(登別明日中等教育学校4回生)+CoSTEP】