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#78 ハダカデバネズミから見えてきた、がんを防ぐ二重の防御機構

大きな出っ歯に毛のないピンクの肌。見た目だけでもインパクトのある生物がハダカデバネズミ、愛称「デバ」です。これまでデバは、アリやハチのような女王中心の社会をもつ唯一の哺乳類として、進化学や生態学の観点から注目されてきました。しかし、三浦恭子さん(遺伝子病制御研究所 准教授)は、分子生物学的アプローチから、デバのがんを防ぐ仕組みや長寿命の仕組みを探っています。なんとデバはマウスとほぼ同じ大きさにも関わらず、10倍以上の平均28年も生き、がんになりにくいという性質も持っているのです。知れば知るほどくせになるデバの魅力、そしてデバ研究によって明らかになってきたがんの仕組みについて、三浦さんにお話を伺いました。

【佐竹実菜子・CoSTEP修了生/農学院修士1年】

ハダカデバネズミはどのような生き物なのですか

ハダカデバネズミは、動物実験でよく用いられるマウスと同じくらいの体長約10センチメートルの大きさのネズミの仲間です。東アフリカ原産で、自然界では地下1~2メートルの深さにトンネルを掘って、女王デバを中心に数十から数百匹の大家族で暮らしていますが、実験室では複数のアクリルの箱を通路でつなげて飼育しています。ハダカ「デバ」ネズミという名の通りの大きな出っ歯は、地下の土を掘って運ぶために使われます。デバは自然環境下では主に地下の根茎類を食べますが、実験室ではイモやニンジンを食べるほか、バナナやリンゴも大好物です。

(実験室で暮らすデバの様子。ずっと見ていても飽きない愛くるしさ )
三浦さんとデバはいつ、どこで出会ったのでしょう

もともと「変な生き物」が好きだったんです。特に寿命の長い不思議な生物、例えば不老不死のクラゲといわれているベニクラゲや、なんにも食べないといわれる深海生物のダイオウグソクムシとか…。

(変な生き物とデバについて笑顔で語る三浦さん)

私は、ノーベル生理学・医学賞を受賞されたことで有名な山中伸弥先生の研究室でiPS細胞の研究をずっとしていました。2010 年に博士号を取得した後もそのまま残ってiPS細胞の研究を続けることも考えましたが、ちょっと変わった研究もやってみたかったんです。そこで、まだ分子レベルの研究はないけれども、ヒトに役立ちそうな「面白い」特徴をもっている生き物を、図鑑やインターネットで探しました。

一時期は悩んで、縄文杉やセコイアのような植物の研究へ方向転換することも考えたくらいです(笑)。でも、今までマウスを使って身につけた研究手法を生かすためにも、哺乳類にしようと心を決めました。そんな紆余曲折を経て見つけたのが、ハダカデバネズミです。理化学研究所の岡ノ谷一夫先生からいただいた30匹からスタートして、飼育環境などを試行錯誤しながら繁殖を進め、2011年あたりにようやく慶応大学で研究体制が整いました。そして2014年からは北大で研究をしています。現在デバは270匹に増えています。

ハダカデバネズミのがんを防ぐ仕組みを教えてください

まず私たちは、ハダカデバネズミのiPS細胞を作ることから始めました。マウスやヒトのiPS細胞は未分化状態で生体に移植すると「奇形種」という腫瘍を作ってしまいますが、デバのiPS細胞は移植しても腫瘍を作らなかったんです。「これは何か秘密があるぞ」、と「面白さ」を感じた瞬間でした。

マウスやヒトのiPS細胞では、INK4aとARFというふたつのがん抑制遺伝子の発現が強く抑制されています。つまり腫瘍化のブレーキがふたつとも効かない状態です。これが奇形種を作ってしまう原因の一つです。ところがデバを詳しく調べてみると、INK4aの発現は同じように抑制されていますが、ARFは抑制されずに働いたままであるということが分かりました。デバのiPS細胞を何回作製しても、ARFが働いている細胞ばかりができてくるんです。

また、マウスES細胞には腫瘍の形成に関わるがん遺伝子ERASがありますが、デバでその遺伝子を調べたところ、ERASタンパクが働かなくなる変異が起きていることが分かりました。つまり腫瘍化のアクセルが効かない状態です。

この「ARFの活性化」と「ERASの変異」が、ハダカデバネズミiPS細胞が腫瘍になりにくいことのカギだと思えたのです。

(ハダカデバネズミiPS細胞の腫瘍化耐性メカニズム)〈図提供:三浦恭子さん〉
体のがん化耐性にも関係しているのでしょうか

そうです。がん化やiPS細胞作製は、細胞にストレスをかけます。このストレスに応答してARFが働き出すと、細胞がそれ以上増殖できなくなる、つまり細胞老化するわけです。このARFによる防御機構を乗り越えた細胞だけが、がん細胞やiPS細胞になると考えられています。ところが、私たちがハダカデバネズミ細胞にストレスを与えた状態で、かつARFが働かないようにしたところ、細胞の増殖が亢進するはずなのに、増殖が止まってしまい、やはり細胞老化してしまいました。

(ハダカデバネズミ特有の腫瘍化に対する防御機構)〈図提供:三浦恭子さん〉

つまり、ハダカデバネズミでは、ストレスがかかった際に起こる「ARFの活性化」だけではなく、ARFが働かない状態でも細胞老化によってがん化を抑制することができる、二重の防御機構があることが明らかになったのです。

今後、デバの研究はどうなるのでしょう

ハダカデバネズのがん化耐性は、たった一つのメカニズムだけで成り立っているのではないことが分かってきています。例えば、デバの体温は32度とマウスやヒトと比べて若干低目です。活発に動くものの、意外と省エネな生き物なんです。これも長生きのもと。体温やエネルギー代謝といった生態の違いも含めて、デバの長寿・がん化抑制のメカニズムを明らかにしていかなければなりません。そのためには、いろんな分野の研究者と一緒に研究を進める必要があると考えています。また、デバの研究を通じて、ヒトはなぜがんになるのか、我々の寿命はどのように決まっているのか、ということについても、もっと深く迫れるのではないかと思います。

(研究室に入ってすぐに置いてあったデバグッズ。三浦さんのデバへの愛を感じます)

 

今回紹介した研究成果は、以下の論文にまとめられています。

Miyawaki et al. Tumour resistance in induced pluripotent stem cells derived from naked mole-rats. Nature Communications, 10(7):p11471, 2016.

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Update

2017.09.19

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