私たちは本を読むとき、著者の価値観・主張など多くのことを学ぶことができます。今回、北海道大学農学研究院教授の石塚敏さんが薦めてくださった本を切り口にお話を伺いました。推薦された本の著者から石塚さんはどのような影響を受けたのでしょうか?また、伝えたいことはどのようなことでしょうか?『雪』『脂質栄養学 『日本人の健康と脂質』の理解を求めて』『考えの整頓』の3冊を基に、石塚さんにインタビューを行いました。
【可児涼真・医学部1年/宮川寛希/神谷尚輝・総合理系1年】
『雪』中谷宇吉郎(岩波書店/1994)
『雪』は人工雪の実験成功から雪の生成条件を明らかにするまで丁寧に語られている本です。石塚さんが高校生の頃、研究内容を一般人向けに書いてある本はあまりなかったそうですが、『雪』は一般人向けに書かれていて、すぐに興味をお持ちになったようです。
-『雪』に書かれていた「専門家が研究したいことを研究して、一般に普及させるのか」「一般の人の要求に対して、専門家が応ずるのか」について、石塚さんはどちらの立場ですか?
どちらも大切だと思います。そもそもこちらが情報を発信しないとみなさんに面白いと感じてもらえるきっかけがない、と思います。だからこそ専門外の人に対しての説明はできるだけしようと心がけています。子どもたちや一般の方々はどんなところに興味を持つのか、どんなところを主張するとそういった方々に興味を持ってもらえるのか、を考えるのが大切なのではないでしょうか。
-石塚さんが考える専門家の姿勢はどのような姿勢でしょうか?
面白くないことには没頭できないですよね。自分の興味のないことを研究しろといわれてもなかなかできません。自分の興味があって、なおかつそこに人と社会に対する接点がある研究を探すことを常に意識しています。
『雪』から石塚さんに、研究者の研究に対する姿勢や人に伝えることの大切さを教えていただきました。研究者の道を考えている人にとって、とても参考になるお話を伺うことができました。
『脂質栄養学『日本人の健康と脂質』の理解を求めて』菅野道廣(幸書房/2016)
『脂質栄養学 『日本人の健康と脂質』の理解を求めて』に関して石塚さんはこの本が学問知識の堆積の過程において役割を果たすとおっしゃっています。
-この本をなぜ推薦されたのですか?
栄養科学にはもともと古典的な部分として、ある程度できあがったものがあります。つまり、授業で教えていく部分です。この本はそういったところを分かった上で読むものなので、本の中では「分からないないことがあります」という書き方がされている部分があります。結局、我々はある時点でこういった「分からないこともある」状況をまとめていかなければなりません。それである程度確定してきた事柄については堅い知識になって授業で教えられるようになっていくのですが、この本はその過程の中間段階みたいなものなんですよ。
-今後、研究を担っていく学生が身につけておくべきものは、やはりこの本の冒頭で触れられているような専門的知識なのでしょうか?
まず、大学に入ってすぐくらいの今の時期は、どんどん知識を入れていく時期だということはお伝えしておきます。ただ、ある程度のレベルまでいってしまうと、保有すべき知識の量は膨大なものになります。なので、そういう部分はもう人間のできることではなく、ハードディスクに任せるべきなのではと思います。人間は、知識の吸収よりも色々な問題への対処に取り組むことになるのですが、それでもある程度の知識はベースとして必要になります。知識を踏まえた上で、それをどう使うかが次の課題でしょうね。
『脂質栄養学 『日本人の健康と脂質』の理解を求めて』に関するインタビューで、学生が学問に相対していくにあたって身につけるべき姿勢についてお話を聞かせていただくことができました。
『考えの整頓』佐藤雅彦(暮らしの手帖/2011)
『考えの整頓』は雑誌「暮らしの手帖」での作者の連載をまとめたものです。メディアクリエイターとして活躍する作者が身近な生活の中で感じたことや、作者自身の独特な考え方について書かれている本です。石塚さんは作者の物の見方や考え方に注目しながら、この本を読んだそうです。
-本では、考えをつなげることについて書かれていましたが、石塚さんは研究において結果と考察をつなげる時は何を考えていらっしゃいますか?
考えをつなげることに関して、結局分かっている情報の中でしかつなげることはできないですよね。まったく異なる専門分野をつなげる試みをするのも大事なのではないかと考えています。
-考えを共有することについても書かれていたのですが、石塚さんは他の研究者と研究を進める上で、意識していらっしゃることはありますか?
研究対象そのものだけでなく、それに関わる人についてもよく観察することが大切ですね。やはり見ていないとわからないし、見ていても分からないことはたくさんあります。周囲の人たちに興味を持つことが必要です。また、自分の考えを伝えることも大切です。伝わらないとやっている意味もない。使ってもらえなければその技術も無駄になる。そうするとどう伝えるべきか、できる限り分りやすく伝える努力はしなければいけないと思います。
『考えの整頓』から石塚さんの考え方について迫ることができました。私たちも常に何を考えるべきか意識して行動しなければならないと思いました。
3冊のインタビューの最後に石塚さんは「若い人たちに興味を持ってもらえるようにすることが、自分の今の仕事です。若い人たちもある程度の土台があれば、そこからスタートできますよね。ある程度の立ち位置からスタートすることで、そこからまた違った見え方に気づくはずです」と述べられました。私たち学生は受け身で行動するのではなく、色々なことに興味を持ち、積極的に行動することが大切なのだと感じました。
石塚さん、ありがとうございました。
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この記事は、可児涼真さん(医学部1年)、宮川寛希さん(総合理系1年)、神谷尚輝さん(総合理系1年)が、全学教育科目「北海道大学の“今”を知る」の履修を通して制作した成果物です。