コンピューターグラフィックス(以下CG)と聞いてどんなイメージを持つでしょうか? アニメーション、ゲーム機など身近なところでも応用されているため興味をもつ人も多いでしょう。私たち取材班はCG研究の最先端をいく土橋宜典さん(情報科学研究科 メディアネットワーク専攻 准教授)にお話を伺いに行きました。土橋さんは自身の作成したアニメーションを見せてくれ、私たちに大きな驚きを与えてくれたほか、過去の知られざる姿や今後の抱負など存分に語ってくれました。北大受験を考えている高校生、CGに興味がある学生は必読です。
【林大祐・総合理系1年/穂積侑伽・総合理系1年/堂向修央・医学部1年】
ーー現在どのような研究をされているのですか?
CG全般の研究をしています。具体的には流体のシミュレーションの技術を使って、雲、煙、水などの形状変化をコンピュータ上で再現しています。他にはデジタルファブリケーションの応用もしています。これは、レーザーカッターや3Dプリンタなどのデジタル工作機械によって、デジタルデータを実際に物として成形する技術です。
ーー研究に行き詰まるときはありますか?
あります。そういうときはやらないに限りますね。人間は集中できる時間が限られているので、ずっと考え続けるのは無理だと思います。昔は長い時間研究をしないといけないと思っていましたが、それでは生産性が低いということが最近わかってきました。研究室で研究するよりも、普段から考え続けることのほうが大事だと思います。実際に研究に入る前にきちんと何をやるか考えてから始めると、短時間でも完成度の高い作品ができます。早く帰れる時は帰ってしまう方がいいのですよ。
ーー土橋さん一押しの研究を教えてください。
棒を振るときに出る音の研究です。ずっと画像の研究をしていたので音という新しい分野に取り組むことはかなり「面白い」試みでした。しかし、最初は何から手をつけたらいいか分からなくて相当苦しみました。シミュレーションにはプログラミングと複雑な計算が必要です。24時間くらいかけて計算して音を出してみたけど、初めは段ボールを引っ掻いたような音しか出なかった。でもその頃にはすでにSIGGRAPHという学会での発表を申し込んでいたので、こんなのを発表したらと他の研究者からどう思われるかと考えると、かなり焦りましたね。その後試行錯誤を重ねてやっと棒を振る音を完成させることができました。けれどもこれで終わりじゃないのです。本当の音とシミュレーションした音を比較もしなければなりません。大晦日に棒を買ってきて、「俺は何をやっているんだろう?」とか「これで採用されなかったら、絶対文句言ってやる!」とか思いながら誰もいない研究室で棒を振っていましたね。その後2つの音を比べて、同じ波形になることを調べてようやく完成です。思い出が深いぶん、最も「面白かった」ですね。
ーー先ほどのSIGGRAPHとはどのようなものですか?
CG分野には、SIGGRAPHという学会があります。この学会は論文の採用率が20%~25%と当分野において一番厳しいのです。この数字は東大の平均合格率と同じくらいかそれより少し低いです。僕はそこに12本ほど論文を採用されています。
ーー理想の研究はどのようなものですか?
まず、研究を続けるうえで「面白い」ことは一番重要だと思います。しかしそれだけではやはりモチベーションを保つことが難しいのです。いい仕事をするためには発表などをすることで「このままではまずいぞ」と自分を追い込むことも大事だと思います。「面白さ」とプレッシャーの両方が必要なのですね。
日本の研究体制でアメリカと大きく違う点は学生と教授の関係ですね。アメリカでは教員が学生を雇い研究をさせているのに対して、日本では学生は大学にお金を払うことで、研究の機会を与えられています。そのため、日本の大学生はどうしても研究に対して受け身になりがちです。だから僕の研究室では能動的な学生を育てるために研究に関してテーマの強制をしていません。教師との関係についても、もっとお互い意見を言い合えるような環境が欲しいですね。
ーー「面白い」とはどういうことなのでしょうか。
「面白い」ことについて僕は二種類あると思っています。テレビなどを見て笑えてくるような受動的な面白さと、モノを作って興味深いという意味での能動的な面白さですね。でもやはり、研究的な意味ではモノを作った時の面白さが当てはまるでしょう。一番面白いと感じるのは自分でも予想を超えた結果が出たときですね。アメリカの先生と研究を行ったことがありましたが、始めは乗り気でなかった先生に、研究結果が出たとき「すごくリアル!!」と言ってもらえたことがありました、そういうときが一番「面白く」感じます。
ーー最後に、北大生の人物像を教えてください。
やはり“自分で自主的にやる人”ですかね。さっきもいったように、僕の研究室ではCGをやりなさいとは言っていません。アドバイスをする程度、で自分の好きにやってもらっています。そのほうが学生も意見を発信しやすいですし、さらには自主性を高められると思います。よく「リーダーとは」という本がありますが、本当に役に立つのか疑問です。でも、それを読むかどうかも北大生であるあなた方の“自由”で“自主的な”判断でいいのですよ。
~インタビューを終えて~
今回のお話を通してテレビやゲームの向こう側の世界であったCGを身近に感じることができ、非常に良い経験が出来ました。また、私たちがこれから行っていく研究活動の秘訣についても聴けたので、これからの大学での勉強にもに役立てたいと思います。
後編では、土橋さんのお気に入りの書籍について紹介します。
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この記事は、林大祐さん(総合理系1年)・穂積侑伽さん(総合理系1年)・堂向修央さん(医学部1年)が、全学教育科目「北海道大学の”今”を知る」の履修を通して制作した成果物です。