「みなと」へ行ったら?
二十数年前に、カナダの東部を家族と一緒に旅し、セント・ジョンという小さな町の宿に着いた時のことです。フロントにいた年配の女性に、「近くに楽しいところはありませんか」と尋ねたら、「みなとへ行ったら?」と言われたことがあります。
まちの中心部に近い「みなと」には赤いタグボートが係留され、中からジャズが聞こえてきました。そこには、やさしい風が流れていました。
現代の大きな港湾のほとんどは、繁華街から遠く離れたところに貨物を取り扱うターミナルを建設しており、コンテナを積んだ大型トラックの交通も多いため、一般の人には近づき難い場所になっています。
しかし本来「みなと」は、半分が海、半分が陸という、他の場所とは異なる地形的な特徴を持つほか、長年外部の多様な文化と交流してきた歴史の重みが醸し出す、独特の雰囲気を持っています。
熊本県の三角西港 築港から百年の歳月が流れている
イラクリオンのみなと
「みなと」は船にのって旅を楽しむ観光客が、到着地で最初に目にする陸地です。このように、人々の印象に残りやすい「みなと」の特徴を生かして、美しく、居心地のよい「みなと」を作ることによって、地域の魅力を向上させることが望まれています。
研究の柱となる3つの「問い」
私の研究には、柱となる3つの「問い」があります。
- 「みなと」の景色
- 「みなと」の景色はどんな要素で成り立っているのか。どの要素が「みなと」の魅力に最も寄与しているのか。「みなと」の景色を楽しむにはどの場所が最適なのか。
- 「みなと」の施設配置
- 「みなと」へ気軽に、安全に行くためにはどうすればよいのか。広場や遊歩道などのオープンスペースをどう配置すればよいのか。
- 観光振興の方策の提案身近で親しみやすい「みなと」をつくるために、制度や仕組みで改善すべき点は何か。
小笠原二見港の展望台からの見送り
[問い」への答えを求めて
一般の人が撮った「みなと」の写真や私が世界の国々で収集してきた「みなと」の広報資料等から「みなと」の魅力の要素を探しだすとともに、フェリー上からの入出港風景の撮影、北海道諸港の現地踏査や関係者への面談調査等を通じて、前記3つの「問い」に対する答えを見つけ出したいと考えています。
世界中の様々な「みなと」を巡って
この研究には二つの特色があります第一の特色は、分析の対象とするみなとの地理的分布の広がりが大きいことです。私はこれまでカリブ海の島国や中東の砂漠の国を含む50か国以上の国々を仕事で訪ね、「みなと」を調査してきました。世界の「みなと」を研究対象とし、これまで見たこと、聞いたこと、及び得られた情報を、美しい「みなと」づくりの研究に活かしたいと考えています。
イタリアのナポリ港の朝焼け 船上から
第二の特色は、先進国の「みなと」から、経済発展が遅れている国の「みなと」まで、幅広い「みなと」が研究対象に含まれていることです。例えば、国によっては今だに木造船が主役で活躍する「みなと」もあります。
北大での「二度目の学び」にかける思い
私は1971年に北海道大学工学部土木工学科を卒業し、公務員として国の仕事に従事した後、建設コンサルタントとして海外の港湾の計画作りに参画しました。延べ42年間のサラリーマン生活を終えた後、再度母校で勉強したいという思いが強くなり、この春、北大の国際広報メディア・観光学院(観光創造専攻)に入学しました。
ゴールデン・ウィークに東京の孫娘と
「観光学」という新しい学問領域に触れて
観光を一つの学問分野としてとらえる考え方はこれまで希薄でしたが、2003年7月に小泉内閣が「観光立国宣言」をしてから、観光の経済的・社会的な意義が認識されるようになりました。それを反映して、2007年4月に、日本の国立大学法人としてははじめて北海道大学に観光学に関わる大学院が設置されることになったのです。
新しい分野、新しい大学院という意識から、学生、教師の先生方、職員の人たち、いずれも仲間意識が強いところです。毎日、和気あいあいと、楽しく勉強しています。
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この記事は、加藤 寛さん(国際広報メディア・観光学院 観光創造専攻 修士課程1年)が、大学院共通授業科目「セルフプロモーション1」を履修するなかで制作した作品です。