産学・地域連携協働推進機構(以下、産地機構)では、北海道大学と地域を結ぶプロジェクトの一環として、2018年10月から北空知信用金庫と連携し、「北空知信用金庫地域活性プログラム」を開始しました。本プログラムでは、北海道大学の学生と教員が地域に入り、地域の方々と共に対話型ワークショップを実施しながら、地域コミュニティのコーディネート人材育成を目指しています。2018年10月21日に実施された開講式では,瀬戸口剛さん(工学研究院 副研究院長)による講演会「住民対話による町づくり~夕張のコンパクトシティからみる,これからの地域マネジメント~」を開催し、対話によって地域の課題を解決する事例が紹介されました。
北大産地機構と地元金融機関が連携して、地域を活性化する、その心は…産地機構の職員である千脇美香さんに、本プログラムの意図や目的を伺い、産地機構が目指す新しい地域連携の形について迫ります。
作る側から伝える側へ
私、短大卒業後、農業生産法人に就職したんです。その時強く感じたのが、酪農って不透明だなってことです。どのような牛舎でどのように搾乳しているのか、消費者の方は知ることはできません。すごくこだわっている酪農家もいれば、そうではない酪農家もいるのですが、その部分は商品からは見えてこないんです。
一方、農業をやっていると、経営のこともあまり学ぶ機会がないし、自分たちが作ったものの流通先についても知る機会もありません。なので、私はまず、知りたかったんです。農業にまつわる他の機関が何をやっているのかを。
そこで、農業を辞めて農研機構に就職しました。農研機構なので当然、農業にまつわる研究をしているのですが、気さくな研究者が多く、研究の話を聞くのはとても楽しかったです。また、同僚の一人が北大の科学技術コミュニケーター養成講座の受講生で、彼が主催する「ワインと気象」をテーマに研究者と生産者と消費者を結ぶサイエンスカフェに参加する機会がありました。その時、初めて科学技術と農業のつながりということを意識するようになりました。
その後、農協の広報部署に転職し、そこで生産者の方向けに分かりやすく農業の技術を伝えるための記事を書くようになりました。その頃から、徐々に伝えることを通して農業と科学技術をつなぐことができないかということを考えるようになりました。
作れないから、売れなくていい
次に、流通の現場も見てみたいなと思い、道内の特産品とか物産品を扱う仲卸の会社に転職しました。そこで、現在の北海道の中小企業や生産者が抱える課題というものを目の当たりにしたんです。
いい商品を作っている生産者や企業に、「この商品売れますよ!」と提案しても、「後継ぎがいないから、たくさんは作れない。」と断られることが多く、北海道はいいものがたくさんあるのに、それを支える力が弱いないと実感しました。地域産業の活性化と一口に言っても、それを実行に移すためには、地域の課題を全般的に見ていく必要があるんです。
目の前の課題を解決するのではなく、より大きなシステムの中で地域の課題というものは解決しなくてはならない。そのためにはより多様なステークホルダーとの連携が必要です。大学というフィールドは、より多角的視点で地域と連携が可能であると考えています。現在の職に就いたのも、そのような可能性を北大に感じたからです。
課題解決型の連携から対話型の連携へ
産地機構は主に北大の先生方の研究を産業化するという支援を行ってきました。その中での地域連携とは、地域の課題を大学側の技術や資源で解決していくという課題解決型の連携でした。しかし、今回北空知地方で実施する「北空知信用金庫地域活性プログラム」は、何が本当に地域の課題なのかを地域の人たちと対話しながら探っていく、対話型の連携を目指しています。
今回の連携の大きな特徴は、産学官金連携(さんがくかんきんれんけい)ということです。通常の産学官連携に、地元の金融機関である「金(きん)」を組み入れた連携です。これまで産学官金連携では、大学と金融機関が連携し、地元金融機関の職員を地域コーディネータとして養成し、地域の課題解決に充てていくというモデルが主流でした。しかし、そのような間接的な連携ではなく、本プログラムでは地域の人たちと一緒に地域の活性化について考えていきたいと思い、北空知信用金庫の職員、北大生、地域の方々が始めから一緒に課題について話し合い、連携の在り方を模索していく、対話型ワークショップを開催することにしました。
そもそも地域に課題なんてないのかもしれないし、課題だと気付いていない場合もあります。ただ、地域の抱えている悩みやニーズを、多様な観点からフラットに話し合う場が必要だと感じています。対話からボトムアップに上がってきた課題を、北大の資源と結びつけていく、このような連携もこれからの産学連携の在り方の一つではないでしょうか。
なので、今回はあえて北大の研究者じゃなく、北大生が地域連携の対話に参加しています。しかも、地域政策やまちづくりを学んだ学生ではなく、科学技術コミュニケーションを学ぶ理系の学生に参加してもらいました。外からの視点、そして科学技術の視点を入れることによって、地域の人々同士の話し合いでは見えてこなかった、新たな課題や解決策が見つかるのではないかと期待しています。