厚生労働省では毎年11月25日を含む前後一週間を医療安全週間と定めています。全国の病院では医療安全の啓発を目的としてさまざな取り組みが行われています。いいね!Hokudaiでは「川柳で 医療安全を 伝えたい」と題した記事で、北海道大学病院 医療安全管理部の川柳の取り組みを紹介しました。
医療安全について詠んだ川柳は病院スタッフから集められ、川柳を見た人から投票を募ったり、意見や感想を書いてもらったりするなど、展示会場は双方向のコミュニケーションを可能にする“場”として機能していました。今回、その仕掛け人である南須原康行さん(医療安全管理部 部長/ゼネラルリスクマネジャー/教授/医師)に医療安全管理部の役割などについてお話を伺いました。
- 医療安全管理部はどのような役割を担っている組織なのでしょうか。
大きく分けて二つあります。医療事故の防止と事故後の対応です。前者がリスクマネジメント、後者がクライシスマネジメントになり、医療安全管理部では両方を担当しています。なにかが起きた時に、患者さんとそのご家族との対応をするのはもちろんですが、再発防止のための会議を開いて方針を整えます。その時のリーダーシップをとっていくのが私たちの役割です。
- 部の設立の経緯や体制を教えていただけますか。
前身の医療安全推進室から医療安全管理部に改組されたのが2005年4月です。そこから数えると今は13年目です。元々は看護職のスタッフが中心だったのですが、厚生労働省の指導で国立大学附属病院から徐々に医師を専従させる流れになっていきました。現在、大学病院においては法律上でも医師専従が義務になっています。私が配属されたのが2007年ですから、私自身はかれこれ11年目になります。
先ほど、リスクマネジメントについてふれましたが、医療安全管理部にはゼネラルリスクマネジャー(以下、GRM)と呼ばれるスタッフが私含め5名在籍しています。GRMは北大病院全体のリスクマネジメントを担当します。各部署のことを担当するのは部署リスクマネジャーといいます。大学病院によっては、部長職はGRMを外れることがありますが、私は現場に出ることを優先しているので、今も続けています。
(医療安全管理部の体制)
薬剤師や看護職までは法律上決まっているので、必ず入れるようにしています。多角的な意見や考え方が必要なので、他職種の方にも声をかけています。私は内科なので、外科の先生にお願いしたり、複雑な医療機器は専門知識が必要なので、臨床工学技士の方に入ってもらったりしています。
また、インフォームド・コンセントも重要ですから、カルテの専門家である診療情報管理士の方にも入ってもらっています。診療情報管理士はカルテはどう書くべきか、どう保管すべきかについて習熟した専門職なんですね。北大病院は研究機関としての役割も担っているので、研究上の事故が起きた場合にも対処できるように研究部門のスタッフもいます。加えて、部全体のサポートをしてくれる、医療支援課医療安全係と呼ばれる専任事務職員がいます。
- 医療安全週間の川柳の取り組みはとてもわかりやすいものだったと思いますが、医療安全管理部の普段の取り組みには他にどのようなものがあるのでしょうか。
重要なものとして、医療安全管理委員会があります。北大病院の医療安全を司る最も重要な会議で、法律で義務付けられていて、毎月一回必ず開催しています。議長は寳金病院長が務めます。委員会の前には、実務的な内容を話し合う医療安全管理部門会議を開きます。この会議で議論したことを医療安全管理委員会で審議して、最終的な承認をしていきます。委員会が北大病院としての最高議決機関になっているわけです。大きな議題は必ず医療安全管理委員会で審議して、その結果を各委員会に伝達する流れになっています。
(医療安全管理部の年間のスケジュール)
現場に近いところだと、病院職員を対象に医療安全に関する研修を年に4、5回やっています。外部の講師の方を招いたり、私が話したりします。北大病院は12月5日を「医療安全の日」として定め、研修の一環として毎年講演会を開いています。今年は講師に狭間研至さん(ファルメディコ株式会社 代表取締役社長/医師)をお招きし、「医療安全における薬剤師の役割 ~チーム医療における立ち位置を変える~」というテーマでお話いただきました。狭間さんは医師でありながら、薬局の経営もされている方で、医師と薬剤師の良好な関係が、患者さんを守ることにつながるのではないかという考えをお持ちです。
- 南須原さんは医療安全管理部を率いる立場として、どのようなことを心がけていらっしゃるのでしょうか。
私が一番気をつけているのは、風通しのよさや相談しやすい雰囲気作りですね。医療安全管理部にとってはそれが最も大事だと思っています。インシデント(患者の診療・ケアにおいて、本来あるべき姿からはずれた事態や行為のこと)が起きると、全国の病院ではレポートを提出することが義務付けられています。レポートが多ければ多いほど現場のことが把握でき、それが再発防止につながるわけですから、以前はレポート文化を根付かせようとしていました。
今はそれに加えて、もっと気軽に相談できるような関係性を病院スタッフとの間に作ろうと心がけています。レポートを読んでいるだけでは把握できないことはたくさんあります。電話でもメールでもいいので、なんでも相談してもらえたらと思っています。些細なことであっても、そこに医療安全につながるヒントがあるかもしれません。