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#101 雑草という名の植物はない(1)~緑の多様性が創る未来

東日本大震災により被災した東北の浜には、巨大な防潮堤が築かれています。コンクリート製の防潮堤によって海と陸が分断され、津波被害から回復しかけた海岸環境が再度破壊されました。しかし、失われた海岸環境の回復と保全に尽力する方がいます。松島肇さん(北海道大学農学研究院 講師)もそのおひとりです。前編は、松島さんから、自然資本の多機能性を活用した社会・経済に寄与する国土形成手法として期待されている1)「グリーンインフラストラクチャ」について伺います。後編では、もうおひとかたを迎え、宮城県の海岸で行われているグリーンインフラストラクチャの実践事例をご紹介します。

【成田真由美・CoSTEP本科生/社会人】

(2011年6月、東日本大震災から3か月後、津波を被った宮城県の海岸に咲いていた一面のハマヒルガオ。遠くには倒れた防潮林が見える)

(白砂青松で知られる気比松原がある敦賀市出身の松島さん)

貴重で希少な石狩の浜

松島さんは、北大に入学して、造園学という自然環境の保全と利用に関する研究分野に出会います。日本では、山や川と比べて海は全く見向きもされていないと聞き、海辺の研究を行うことに決めました。当初は調査で訪れた石狩の浜を見て、ただの草っぱらが広がるだけのツマラナイ浜だと思ったそうです。しかし、造園学を学ぶうちに石狩の浜こそが、自然のままの砂浜海岸の姿だと知りました。現在では、離島など限られたところでしか見ることができません。

「二百万都市の近郊に、あんなに自然環境が残っている浜なんてないんですよ。石狩の浜は日本全国見渡してもほとんどない、そのままの自然が残っている貴重で希少な浜なんです」と、松島さんは熱く語ります。

(海から陸への連続した植生の変化を見ることができる石狩川河口付近の石狩の浜。しかし、車などの侵入により轍が裸地化している)

自然環境の力とグリーンインフラストラクチャ

自然の砂浜海岸では、海に近い砂浜は、波をかぶり砂の供給も多いので植物は生えません。丘状に盛り上がる砂丘は波をかぶることが少ないので、潮風に強い海浜植物が生い茂り、波で削られることも少なくなります。もし台風などの高波で砂丘が削られても、植物の根が砂を溜め自然に回復します。砂浜から二重三重に構成された砂丘は高さが10mを超えるものもあり、防潮堤の機能も果たします。また、この砂丘により潮風が遮断されるので、その内陸部には徐々に低木が生え始め、海から離れるにつれて森林が構成されるようになります。この徐々に変わる植生が砂の舞い上がりを抑制し、潮風にのった塩分が内陸部に到達することを防いでいます。

このような自然環境では、砂浜での海水浴や自然観察といったレクリエーション機能を恩恵として受けられます。課題としては、人が恩恵を受ける際に自然環境に与えてしまうダメージが、その回復力を超えない程度に抑えることにあるといいます。

(砂浜海岸の比較。現在は海岸草原と呼ばれる草本や低木のエリアは国内にはほとんどない)

こうした、自然環境が持つ多機能性や自律的回復力を防災やレクリエーションなどに活用する方法として、「グリーンインフラストラクチャ」という新しい概念があります。砂浜海岸の場合は、防潮堤に頼らない方法で私たちの生活を守ることも可能です。

「雑草にしか見えないあの植物たちが、どれだけ環境を保持するのに役立っているのか、自然環境が保持されていることがどれだけ自分たちの生活に役に立っているのか」、松島さんは続けます「知ることからしか守るという意識は育たない」と。海岸草原と呼ばれるエリアは、海浜植物によって守られ、回復するのです。

3.11東日本大震災の津波被害

松島さんは、東日本大震災から3か月後の2011年6月に宮城県を訪れました。その時、津波で何もかも流された浜で花を咲かせている海浜植物を見て、自然環境の自律的回復力に驚いたそうです。早速、調査に取り掛かり、自然環境を保持した持続可能な沿岸域の利用計画を提言しました。しかし、防潮堤建設計画は容赦なく進み、コンクリート製の防潮堤は、花が咲いていたその場所に作られることになりました。

石狩の浜を調査研究している松島さんは、「自然の営みをうまく利用しないと、いくら頑張ってコンクリートで固めても、大きな自然の力には逆らえない」と気付きました。この経験がグリーンインフラストラクチャの価値の再認識に繋がり、改めて自身の研究テーマの中心に据えることになったと語ってくれました。

(2019年2月の宮城県気仙沼市小泉海岸の様子。
津波被害から回復しかけた海岸の自然環境が、防潮堤建設工事によりふたたび失われている。)

<写真提供:松島さんが講演をしたイベント「3.11 SAPPORO SYMPO」>

人の手によって再度破壊される沿岸域の自然環境を見た松島さんは、環境回復をあきらめ、失われていく自然環境を負の側面として記録することにしました。そんな時、以前から顔見知りだった雪印種苗株式会社職員の鈴木玲さん(震災当時)から、被災海岸の復興のための協力を打診されました。それが、海浜植物を育てて沿岸域に植え、途切れた海と陸の連続性を取り戻すための活動団体「北の里浜 花のかけはしネットワーク(通称:はまひるがおネット)」の設立につながりました。

ダイナミックに展開するはまひるがおネットの活動は、後編「民と学が創る未来」でご紹介します。

参考文献

1) 中村太士「グレーインフラからグリーンインフラへ:自然資本を活かした適応戦略」『森林環境』,2015,p.89-98

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Update

2019.05.16

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