コロナ禍でマスクをする機会が増えた今日、マスク選びにこだわりを持つ方も多いのではないでしょうか。そこで私たちは、「マスクをすることによって顔の魅力はどのように変わるのか」について、北海道大学の河原純一郎さん(文学研究院・教授)にインタビューしました。河原さんは、文学研究院で認知心理学の研究をしています。
・マスクが顔に及ぼす影響
・どんなマスクをすれば印象がよく見えるのか
これら2点について紹介していきますので、ぜひ参考にしてみてください!
【荒田結衣・医学部保健学科1年/田村有基・総合理系1年/中島直樹・総合理系1年】
「マスク」と「顔の魅力」の関係は…?
Ⅰ.マスクは顔の魅力を上げる? 下げる?
「マスクをした人の顔の方が良く見える。」こんなことを聞いたことはありませんか。河原さんの調査1)によると、半数弱の人が白マスクをつけた方が魅力が上がると答えました。実際はどうなのでしょうか。
COVID-19流行前の2016年、河原さんたちの研究グループは、白マスクが顔の魅力に及ぼす効果を測る実験を行いました。実験は、白マスクを着けている顔の写真と着けてない写真をランダムに見せ、被験者がそれら1枚1枚の顔の魅力度を1~100で評価していく形で行われました。その結果、白マスク着用によって、元々魅力の高い顔の魅力度は大きく下がり、中程度の顔もそこそこ下がって見えることが分かりました。また、元々魅⼒が低い顔の魅⼒度はあまり変わりませんでした(図1・左)。つまり、⽩マスク着⽤時の顔の魅力は、非着用と同じか下回るという結果です。
河原さんは、この結果になった要因を2つ挙げています(図2)。1つ目は、顔下半分の遮蔽による「魅力の平均化」です。魅力の高い顔においては、マスク着用によって左右対称性、肌のきめ細かさなどの魅力を生む要素が隠れてしまい、逆に魅力の低い顔では顔の欠点が隠されます。これによって、魅力の違いを見分けるための特徴が減り、どの顔も平均に近づく、というものです。2つ目は、COVID-19流行以前の、「マスクは不健康的である」というイメージです。不健康っぽいというイメージから、どの顔も魅力度が下がった、と考えられます。この2つの要因が重なることで、魅力の高い顔ほどマスクによって魅力を下げてしまう、という説明ができます。不健康さが関わらない物品(ノート)で隠すことでこの2要因モデルが検証できます。図1右はマスクではなくノートで遮蔽した場合です。ノートは不健康さとは無関係ですので、遮蔽の効果だけが生じます。
Ⅱ.COVID-19流行の今は…?
COVID-19流行によって、マスクを着用することが一般的になりました。COVID-19流行以前と比べると、マスクへのイメージは随分変わったのではないでしょうか。そこで河原さんは、COVID-19流行後にCOVID-19流行前と同様の実験を行いました。
すると、元々魅力の高い顔は、白マスクの着用によって魅力が減少したのに加え、元々魅力の低い顔の魅力は上昇しました(図3)。これは、COVID-19流行によって、マスクは不健康的であるというイメージが薄れ、マスク着用時、魅力の平均化のみが起きたからであると説明できます。
河原さんにインタビュー!
ここで、河原さんにマスクと顔の魅力に関してお話を伺いしました!!
なぜここ最近、黒マスクをする人が増えたのでしょうか?
私たちの研究では、東京と札幌で黒マスクをしている人の割合を計測しています。計測結果から、マスクをしている人の約5~15%が黒マスクをしていることが分かりました。また、われわれは黒マスクでの小顔効果は測定していないのでわかりませんが,黒いからと言って小顔に見えるわけではないでしょう。
それに、黒マスクは顔の魅力を下げてしまうんですよ。黒はネガティブな印象を持ちやすいんです。逆に白はポジティブな印象を持ちます。「闇は黒で、光は白」「お葬式は黒で、結婚式は白」「悪魔は黒で、天使は白」のようにね。私たちは昼間活動する生き物なので、無意識のうちに⿊
どのような色のマスクだと、顔の印象をよくできるのでしょうか?
実際、女性に関しては、マスクをした場合、白マスクよりもピンク色のほうが血色よく見えます。魅力が4%とか5%ほど上がったっていうデータはありますね。ただ、それを男性がやると何が起こるのかとか、じゃあ水色や緑にしたら…とかはまだ調べてないです。データからいうと、黒よりは白いマスクのほうが良くて、女性の場合はピンクのマスクだと顔の印象がよくなると思います。
ではマスクで小顔効果を得るにはどのようなマスクをするといいのですか?
実際に小顔に見せるんだったら大きいマスクしたほうがいいんですよ、マスクの色に関わらずね。「対比効果」というのが起こるんです。これは、大きい物で隠した対象物が、対比で小っちゃく見える現象のことです。なので、マスクは大きいほうが顔はちっちゃく見える。だから、色よりは形ですね。顔のサイズよりも少し大きいものを選ぶと小顔効果が得られますよ。
マスクをすると、コミュニケーションに支障はあるのでしょうか?
あります。これはマスクと顔の魅力の研究をしようと思ったきっかけでもあるんだけど…。以前大学の授業中に、マスクをした人と教室で話をしたとき、表情が見えなくて、「話が通じたかどうか分かんないな、やりにくいな」って思ったことがありました。マスクをすると、コミュニケーションが妨げられると感じたし、見た目がなんとなくいい感じがしなかったんです。そこで、マスクの何かが顔に影響してるんじゃないかと思ってマスクと顔の魅力について研究しようと思ったのが最初ですね。
最近、「透明マスク」というものが発売されています 5) 。これを使えば普通のマスクと違ってコミュニ
ケーションの妨げにもならないし、表情も認識できます。そのため,病院や施設で初めてスタッフに会う場面などで不安のある患者さんや⼩さい⼦どもたちに対して、あるいは口の動きを会話理解の助けにしている方にはよいと思います。
まとめ
今回マスクと顔の魅力について研究をなさっている河原さんにお話を伺ってきました。今回の取材で「マスクは顔の魅⼒を上げる場合,下げる場合が解明されてきたこと、マスクが顔の魅力に及ぼす効果はCOVID-19流行によって大きく変わったこと」を理解しました。マスクの色や「透明マスク」など、たくさんの種類のマスクが登場し、その選択肢が広がっています。皆さんもこれらのことを参考にしていただければと思います。
河原さんの研究室では北大生の心理学実験の被験者を募集しているそうです。以下のリンクから予約できます。北大生の皆さま、是非一度体験してみてはいかがでしょうか。
https://twitter.com/f209hokudai (北海道大学認知心理学河原研究室Twitter)
注・参考文献
- ユニ・チャーム株式会社 2015:「女性の85.4%が「今よりも小顔に見せたい 」と回答 小顔に関する調査」、http://www.unicharm.co.jp/company/news/2015/1201796_3936.html.
- Miyazaki, Y., Kawahara, J. 2016: “The sanitary-mask effect on perceived facial attractiveness”, Japanese Psychological Research, 58(3), pp. 261-272, p. 266.
- 同上、p. 264.
- 北海道大学 PRESS RELEASE 2021:「マスク装着による顔の魅力向上・低下効果を検証~COVID-19流行前後での見た目の変化を発見~」、https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/210628_pr2.pdf.
- ユニ・チャーム株式会社 2021:「『unicharm顔がみえマスク』で、保育施設の育児支援を開始」、https://www.unicharm.co.jp/ja/company/news/2021/0715-01.html.
この記事は、荒田結衣(医学部保健学科1年)、田村有基さん(総合理系1年)、中島直樹さん(総合理系1年)が、一般教育演習「北海道大学の”今”を知る」の履修を通して制作した成果です。