妊娠・出産を見据えた心と体の健康づくり。これは「プレコンセプションケア」を簡単に定義する言葉です。妊娠・出産は、人生の大きなイベントでありながら、前もって考えることは多くないかもしれません。少し恥ずかしかったり、面倒に思ったり、自分とは遠いことだと思ったりすることも少なくないでしょう。若い人だけでなく、女性だけでなく、みんなで考えていく必要がある「プレコンセプションケア」。どのように考えていけば良いのでしょうか。
そこで2024年8月1日 SCARTSで、札幌文化芸術交流センター SCARTS(札幌市芸術文化財団)、北海道大学CoSTEPと札幌市後援札幌市教育委員会が主催したオープントーク「SCARTS×CoSTEPアート&サイエンスプロジェクト「時間展望-もっと先の自分へ」」が開催されました。2人の専門家と2人のアーティストが、これからプレコンセプションケアについて考えていくための切り口となるトークでした。
前田さんはプレコンセプションケアの定義について語ってくれました。
「プレコンセプションケア」。聞きなれない言葉かもしれませんが、プレ(pre-)は「~の前」、コンセプション(conception)は「受胎・妊娠」を意味する英語で、妊娠前から健康づくりをしていこうという取り組みだと、前田 恵理さん(北海道大学大学院医学研究院公衆衛生学教室)は語ります。妊娠してから健康に気をつけていくのではなく、もっと先に健康に気をつけることで、健やかな妊娠と出産にする、人生全体のデザインが必要とのことです。
具体的な行動としては、「バランスの良い食事をとる」、「太りすぎや痩せすぎに気をつける」、「お酒は飲みすぎない」、「タバコは吸わない」など、保健体育の授業で習う健康づくりが多いです。国立成育医療研究センターが公開しているチェックシートを見ると、分かってはいるものの、なかなか実行するまでに難しさがあるような内容であることが分かりました。
国立成育医療研究センターのチェックシート。女性用と男性用でそれぞれの項目の差があることが気になります。
佐野さんは豊富な臨床経験から学べるプレコンセプションケアの幅広さを語りました。
また、佐野 友宇子(北海道石狩振興局 保健環境部保健行政室(北海道江別保健所))さんは、臨床での経験から、プレコンセプションケアにおける教育の必要性や、行政での対策の必要性を語りました。特に、かかりつけの産婦人科医を持つことは、妊娠・出産に限らず、健康づくりのためにも大事だということを、改めて確認できる時間でした。
専門家の話を聞いてから、参加した高校生と大学生、社会人のみなさんで集まり、10年後の自分の姿や夢、それに障壁となっていることをカードに書き込み、話し合いました。年代によって、立場によって、多種多様な意見が出ました。人生のあり方は、人それぞれ。だからこそ、自分から積極的に人生について考えていくことが大事だと思いました。前田さんはが最後に語った「性と生殖の健康と権利」は一人ひとりにあり、それらを決めるのは自分なのです。」という言葉が心に残りました。2人のアーティストの作品からも、プレコンセプションケアについて幅広く、新しい切り口で考えられました。
プレコンセプションケアは、もっと自分事として考えてみるのが大事だと言われます。ただ、自分の人生についていきなり考え始めるのは、ハードル高いと感じるかもしれません。そこで、「もしもし、未来のわたしへ」と題したサイエンスカフェでは、ある人の人生を想像しながら、人生の各場面で関わるプレコンセプションケアの選択や、そこに向けての準備や心構えなどについて考えます。立場の異なる3人の専門家と一緒に、自分、もしくは自分の周りの人を考えながら「もしも」を考えて、「もしもし」と、声掛けをする場に、ぜひ参加してみませんか。
第138回サイエンス・カフェ札幌
「もしもし、未来のわたしへ」
日時:10月29日(火)18:30~20:00
場所:札幌コンベンションセンター
共催:2024第83回日本公衆衛生学会総会
ゲスト:馬詰 武さん(北海道大学病院産科・周産母子センター)
佐野 友宇子(北海道石狩振興局 保健環境部保健行政室(北海道江別保健所))
前田 恵理(北海道大学大学院医学研究院公衆衛生学教室)
聞き手:北大CoSTEP 対話の場の創造実習の受講生
参加:無料、事前申込なし