今週から始まるさっぽろ雪まつり。しかし今年は暖冬の影響で雪が少なく、本当に雪像は制作できるのかと話題になりました。北海道の冬といえばスキーや雪景色ですが、私たちの日常の冬の風景は未来も持続可能なのでしょうか。佐藤陽祐さん(理学研究院 准教授)は、北海道の雪が将来どうなるのかのシミュレーションに成功しました。将来、札幌の雪が変化するかも?というお話を伺いました。
札幌は世界一位の豪雪大都市
札幌は雪の街、というイメージは定着していますが、実は世界一位の豪雪大都市です。札幌は200万人近い人口を抱える大都市でありながら、世界で最も雪の多い都市の一つです。大都市でありながら、人が埋まるほどの高さの雪が降る珍しい街なのです。札幌市の年間除雪費用は約275億円、都市機能を維持しながら大雪と共存している稀有な都市といえます。
雪が多いながらも比較的寒冷な都市である札幌では、乾いたさらさらとしたパウダースノーが多く降ります。パウダースノーはスキーやスノーボードを楽しむのに適しており、札幌のスキー場には多くのスキーヤー、スノーボーダーが訪れます。地球温暖化が進むと、札幌以外の多くの都市で冬期オリンピックやパラリンピックの開催が難しくなるという研究も報告されており、安全なスノースポーツが開催できる場所として注目されています1)。
また豊富な雪で大きな雪像を制作するさっぽろ雪まつりや、北海道大学や赤れんが庁舎などの雪映えする冬景色は札幌市にとって大切な観光資源です。雪を体験するために札幌に訪れる観光客も増えており、札幌市はスノーリゾートシティSAPPORO推進戦略を掲げ、2030年度には雪目当ての観光客を今の2倍にまで増やす計画をしています2)。
このように雪は良くも悪くも札幌の街を象徴する存在なのです。
札幌の積雪量は変化しているだけじゃない
近年、深刻化する地球温暖化の影響は、札幌市の積雪量にも変化をもたらしているのでしょうか。札幌市の2月の平均気温は40年前と比べ、5年ごとにみても確実に上がっています。
一方、積雪量に関しては、確かに30年前より少なくはなっていますが、5年ごとの推移も凸凹しています。
気温と比べて積雪量の推移は温暖化の影響は受けているものの、年間の降雪量が毎年単純に少なくなるという話でもないようです。積雪の量は冬の気温だけで決まるものではありません。夏の気温や海水温度、気象条件といった複数のデータが複雑に影響しあっています。猛暑の年は大雪が降るという札幌市民の経験則も、気象学的に分析すると夏の気温上昇と積雪の量は関連しているそうです。
また全体の降雪量だけでなく、実は雪の特徴を調べることも、これからの雪との暮らしには必要となってきます。北海道の雪は乾いていて軽いのが特徴ですが、今後はもっと湿って重い雪になる可能性があります。実際に、気温が高い12月頃に降る雪と、2月の時期に降る雪は雪の質が違います。雪の形が変化すると、雪全体の重さや雪崩の発生のメカニズムなどに影響を与えます。
さらさらとした札幌の雪
雲を見て、雪を知る
北海道大学では、これまでの雪の結晶構造や人工雪の開発といった多くの雪の研究が行われてきました。昔は空から降ってくる雪を直接観察し、雪の結晶の形を分類していました。自分の研究は雪そのものを観測する研究ではない、と佐藤さんは語ります。佐藤さんの研究は気象というシステムの中で現れる現象としての雪に着目したものです。
佐藤さんはコンピューターで、雲の中の雪や雲粒の成長プロセスを計算するモデルと呼ばれるシミューレーションコードを開発し、そのモデルに基づいて、さまざまな物理法則を計算機を使って解き、シミュレーションを行っています。昨年、発表した研究では、開発したモデルを使って、雲の中でどのように雪の粒子が形成されるのかを計算し、雲の条件ごとの雪の形状をシミュレーションしました。この研究ではd4PDFという2090年までに地球全体の気温が産業革命の時代から4℃上昇した場合を想定した気温が利用されました。将来、北海道周辺の大気が変化すると、雪雲の条件も変化します。具体的には、雪雲の温度が上昇します。雲の温度が上昇すると、水の分子が雪の結晶に水滴が付着した結晶や霰、融けかけの雪のような、重く湿った雲粒雪の生成が増え、結果的に北海道の雪は湿って重い雪になるという結果になりました3)。雲を見て、雪を知る、それが佐藤さんの研究です。
佐藤さんが予測に取り組む札幌の雪をテーマにしたサイエンス・カフェ札幌「しゃっこい雪の、なまらためになる話 ―北海道の雪を科学する」が、2月10日(月)に札幌市民交流プラザ2FのSCARTSモールCで開催されます。雪の形が私たちの将来に与える影響から、モデルを作ることによる将来の気象予測、さらに佐藤さんの語る基礎研究の魅力まで分かる“なまらためになる”カフェになる予定です。ぜひ、お越しください。
場 所:札幌市民交流プラザ2F(SCARTSモールC)
北海道札幌市中央区北1条西1丁目6 2F
ゲスト:佐藤陽祐(さとう・ようすけ)さん(北海道大学理学研究院 准教授)
聞き手:大内田 美沙紀(CoSTEP 特任助教)
主 催:北海道大学 大学院教育推進機構 オープンエデュケーションセンター
科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
参 加:事前申込制(先着30人)、高校生推奨
参加費:無料
詳 細:https://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/event/31607
参考文献:
- Steiger, R., & Scott, D. (2024). Climate change and the climate reliability of hosts in the second century of the Winter Olympic Games. Current Issues in Tourism, 1–14. https://doi.org/10.1080/13683500.2024.2403133
- スノーリゾートシティSAPPORO
- Sato, Y., Kamada, M., Hashimoto, A., & Inatsu, M. (2024). Future Change in the Contribution of Riming and Depositional Growth to the Surface Solid Precipitation in Hokkaido, Japan. Journal of Applied Meteorology and Climatology, 63(10), 1097-1112. https://doi.org/10.1175/JAMC-D-23-0226.1