地球は宇宙から見れば、まるで青く輝いている宝石のように美しい。この青さは、地球表面の流れている大量の水=海水のおかげでできた色です。海王星の寂しい青とは違う、この生き生きとした色が一体、どこから、どうやってこのになったのか。この疑問の答えは、隕石中に含まれる「流体包有物」が太古から歌っている物語の中に、隠されているかもしれません。
【宋九洲・理学院修士1年】
なぜ地球の水の起源と進化を解明するのか
「地球の水はどこから来たのか?」を解明することは、地球の水の起源と進化の過程を勉強することと言えます。太陽系での惑星たちは、同じ母親から産み落とされた兄弟のように、最初の物質組成はとても近いのですが、地球は現在唯一の生命痕跡のある天体となっています。地球と他の惑星とを比べての最大な違いは、地球表面の水の量とその存在の形です。
「量」:水は地球表面の七割以上をカバーしていて、太陽系の他の惑星に比べて非常に多いです。水はほとんど全ての生物にとって不可欠なものであり、最初の生命体も水の中で存在していました。そのため「生命の源」と呼ばれています。地球の水の研究は生命科学の分野にとっても、非常に重要なテーマです。
「形」:太陽系の中に、地球以外にも水は存在していますが、ほとんどが氷などの状態で、液体では存在していません。
「何でこんなに近くても、火星の水は量も形も全然違うのか」、「生命の起源との関係は?」などの問題の答えは、地球の水の起源と進化の箱に包まれています。その箱の中から研究成果というチョコレートを一粒ひとつぶ味わうように得られてきた情報は、地球全体および太陽系の進化学にとって不可欠なものです。
「流体包有物」って、何?
上記のような箱を開く鍵となる可能性を秘めているのは、隕石中の、数ミクロン程の大きさの流体包有物です。太陽系の中で最も古い種類の隕石であるコンドライトは太陽系進化の影響が及ばず、初期の情報をそのまま保存しています。流体包有物とは、コンドライトの中に存在している液体で、太陽系形成初期の水の情報を持っています。地球を形成した物質もその時期から集まってきていたので、流体包有物の成分は地球の水の初期成分とほぼ同じと考えられています。以前の研究記事で、流体包有物を取り上げた論文も見たことがありますが、その研究方法では再現性①のよいデータが出てきておらず、そこから私の研究テーマが生まれました。この研究で使っているのは隕石の中の流体包有物ではなく、自分で作ったサンプル(流体包有物との存在形が同じ)です。サンプルの中にある人造流体包有物を、以下の文章でも流体包有物と呼ばれています。
(顕微鏡で見た流体包有物の画像)
凍らせて守る、流体包有物の計測
実験で使っているサンプルは、流体包有物を閉じ込めている樹脂②です。室温(25oC)で研究をしている時、もし流体包有物が表面に暴露して(晒されて)いれば、液体は蒸発もしくは爆発をします。暴露しておらず、樹脂の中に含まれている状態であれば、解析装置の解析ビームで流体包有物が表面に暴露するまで掘らなければなりません。
(直接ビームで流体包有物を測れる) (先にビームでエポキシを掘らなければならない)
この堀削は、流体包有物の成分の計測に悪い影響を与え、使えないデータにしてしまうのです。そこで、「冷凍研磨装置」という装置を使い、その計測データの再現性を最適化します。
(冷凍研磨装置)
常温で液体として存在している流体包有物は、凍結研磨装置の中で凍結されることで、空気に触れている状態で解析ビームを当てられても、蒸発や爆発をしなくなるのです。私は今、その冷凍研磨装置の開発をしています。
魔法の代わりに霜を防ぐ「two-hole sample holder」を開発
冷凍研磨装置の中で、流体包有物は固体のままでで表面に暴露するまで研磨されます。低温環境中は霜が生じやすく、サンプルの表面に霜がつきます。この後表面へ金を蒸着させる際、金箔は霜と混ざるとデータの計測に悪い影響を与える黒い金箔になります。魔法や錬金術を使えば、この呪われた黒さを金色に戻せるかもしれませんが、残念ながら私には使えませんので、やはり霜を防ぐ必要があります。そのために、「two-hole sample holder」という装置を開発しました。穴がサンプルのサイズよりちょっと小さい半径を持っているので、空気との接触面積を最小限に抑えられて、霜がつく可能性も小さくなりました。
また金蒸着をしている時に高温になると、流体包有物は蒸発してしまいます。「two-hole sample holder」はサンプルが熱くなりにくい材料で作られているので、この中に置いているままで蒸着をしようと考えています。でもワガママな金箔君たちは、サンプルと「two-hole sample holder」の隙間に入りたいくない!という場面もあって、またまたデータの再現性が悪い状況になりました。その問題を防ぐため、以下のリングサンプルを開発しました。金蒸着のできなかった隙間が金属のリングの部分なので、リングが金箔君たちの代わりにちゃんと仕事をしています。
未来の展望
現在実験で使っているサンプルは、隕石からの本物の流体包有物ではなく、似た特徴を持つ人工的なものです。まだ、この冷凍研磨装置の性能が完全には分かっていないので、いきなり隕石を使ったら、貴重な自然流体包有物を無駄になる可能性もあります。そのため、人工的なサンプルを使って、装置の性能を検証しています。これからも研究開発を続け、これらの装置を信頼して使うことができる時を迎えられば、実際の隕石中の流体包有物を研究して、青く美しき地球の水の謎を解きたいと考えています!
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この記事は、宋九洲(理学院修士1年)が、大学院共通授業科目「大学院生のためのセルフプロモーションⅠ」の履修を通して制作した作品です。