皆さんは「生物時計」という言葉を聞いたことがありますか?生物時計は、私たちが昼間に十分活動し夜間に良質な睡眠をとれるように、私たちの行動と生体内の環境を操っています。北海道大学教育学研究院の山仲勇二郎さんは、この生物時計のしくみを解明するために、「時間生物学」という分野の研究を行っていらっしゃいます。今回は、山仲さんの研究人生に影響を与えた3冊の書籍を通して、皆さんに生物時計について簡単に紹介しつつ、山仲さんの研究に対する考え方に迫ります。
【浅嶌ほのか/田中啓暉/四方田優希・総合理系1年】
「時間生物学」とは?
まずは、山仲さんの研究する「時間生物学」とは何か、書籍を通して簡単にご紹介します。
1.『時間の分子生物学』 粂 和彦 著 (講談社/2003)
山仲さんの研究分野である「時間生物学」は、私たちの約24時間の生物リズムを司る「生物時計」の仕組みについて研究する学問です。この本では、これまで時間生物学においてどのような研究が行われてきたのか、その研究によって生物時計の仕組みがどのように解明されてきたのかが、とてもわかりやすく説明されています。
2.『仕事、健康、人間関係 最高にうまくいくのは何時と何時?』
マイケル・スモレンスキー、リン・ランバーグ 著、大地舜 翻訳 (幻冬舎/2003)
この本では、その日から実践できる生活のコツが睡眠の観点からたくさん紹介されています。専門的な予備知識がなくても読み物として楽しめるので、睡眠に関して興味のあるどんな人にもおすすめです。山仲さんの研究でも、「光と運動を組み合わせることで時差ボケを解消できる」ことが明らかになりました。詳しい研究内容については前回の記事「研究に魅せられて(1) ~多方面から「生物時計」を解明する~」をご覧ください。
「時間生物学」に魅せられて ~ゼロからの挑戦~
研究への考え方について伺いました。
――研究者になったきっかけについておしえてください。
修士の時に、お医者さんの本間甲一先生(千葉県循環器病センター)に出会ったことかな。「自律神経機能検査」っていう本を読んでいたときに「起立時超早期脈拍変動試験 ultra early HR response on standing (UEHRS)」っていう検査に興味をもって、その検査法の執筆者だった本間先生に電話で連絡をさせていただいたんですが、そうしたら本間先生から「UEHRSのデータベースを作成してみませんか」と提案をいただいて。その研究をさせていただいたことが、研究者になる一つのきっかけになったと思います。
3.『自律神経機能検査 第4版』 日本自律神経学会 編 (文光堂/2007)
(山仲さんが修士時代に読んだのは第3版。この第4版にはご自身が行ったUEHARS研究結果が反映されている)
――その研究を通して、どのようなことを感じましたか?
研究に協力してくれる人を探したり、心電図を抱えていろいろなところを回ったりと、大変な面もあったのですが、その研究が形になって病院で診断基準として使われたりっていう風になったときに、「研究ってすごいな」と思ったんですね。それまでは学校の先生になろうと思っていたんですが、それからは研究の魅力に取りつかれてしまって。
――もともと教員志望で、教育学研究科にいらっしゃったそうですが、畑違いの医学部博士課程への編入は大変だったのでは?
そうですね。医学研究や動物実験などは全然やったことありませんでしたから、危機感や不安はすごくありましたね。でもやるしかないっていうか、逃げられない状況まで追い詰められちゃったら、逆に頑張るしかないなっていう気持ちになりました。
――博士課程を頑張りきれたのはなぜだと思いますか
研究の魅力に取りつかれてたからかな。それがなかったら頑張れなかったと思います。一つの研究と出会って、初めから終わりまで論文を書いて、実際にそれが社会に普及するっていうのを短い修士の間に経験できたっていうのが原動力になって、なんとか博士課程を乗り越えられたのかもしれないですね。
常に努力、創意工夫を惜しまない
――厳しい環境でも頑張り続けるという精神は今の研究にも活かされているのですか?
そうですね。与えられた環境の中で精いっぱい頑張るということは大事だと思います。与えられた環境が厳しくても、その中でできるだけいい仕事ができるように最大限努力する、あきらめないっていう風な姿勢、モチベーションを失わないっていうところは大事にしています。
(実験に使うライトと、お手製のカバー)
それから、常に創意工夫を惜しまないということですね。例えば、実験に必要なものの中で、自分で工夫できるものは既製品に頼らず自分達で作るということを心がけています。例えばこの赤いカバーは院生さんが作ってくれたものなんですが、ライトにとりつけることで青色の光の成分をカットする役割をしているんですね。こういったものも一つのオリジナルというか。なにか困ったとき、ものを与えられないとできないんじゃなくて、あるもので工夫して解決できるという事が大事だと思います。
大学生へのメッセージ
大学で過ごす期間っていうのは、自分が好きなことに夢中になれる唯一の期間で、自分自身で使える時間が一番多い時期だと思います。今は夢中になれるものが見つからなくても、いつかそういうものに出会えるチャンスはきっとあると思うので、いろんなところにアンテナを巡らせて、好きなことに夢中になるためのきっかけ作りをしてください。そして、もし何か自分が夢中になれるものに出会ったら、もう、とことん、好きなだけやってください。
きっかけ作りの努力をちょっとだけでいいのでしていくと、十年後、二十年後ぐらいに、あの時にやっといて良かったな、あれがきっかけだったんだっていう風に思える出会いが、きっと見つかると思います。
さいごに
3冊の本を通して、生物時計に関する基礎知識を得るとともに、山仲さんの研究に対する一途な思いを知ることが出来ました。研究の魅力にとりつかれ、それから一途に研究に没頭してきた山仲さんはとても楽しそうで、そんな姿を見ていると私たちも夢中になれる何かが欲しいと強く思いました。その第一歩として、この北大で山仲さんのように好きなことに没頭できる「きっかけ」を探していきたいと思います。
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この記事は、浅嶌ほのかさん(総合理系1年)、田中啓暉さん(総合理系1年)、四方田優希さん(総合理系1年)が、全学教育科目「北海道大学の”今”を知る」の履修を通して制作した成果物です。