9月5日に発表された論文によって、むかわ竜にカムイサウルス・ジャポニクスという学名が付き、正式に学術的な地位がひとまず定まりました。しかし、むかわ竜は単なる学術上の存在ではありません。これまでも、そしてこれからも地域にとって大きな存在です。
前編ではカムイサウルスの新属新種としての特徴を中心にお伝えしました。後編では北海道胆振東部地震から1年を迎えたむかわ町との関わりを軸にお伝えします。
【川本思心・CoSTEP/理学研究院 准教授】
町のあちこちにいるむかわ竜
化石のまちとして地域を盛り上げているむかわ町では、そこかしこでむかわ竜の看板や模型、イラストを見かけることができます。その形態はさまざまです。研究者さえもまだその確かな姿が分からなかった中で、どのようにむかわ竜を描くか。そこからは進行中の科学とまちおこしの関係を垣間見ることができます。
今回の論文で初めて明らかにされたカムイサウルスの外見的な特徴はトサカです。このトサカに注目していくつかの例を見てみましょう。
トサカのある新しい復元モデル
今回の論文で、小林さんらの研究チームはカムイサウルスにトサカがあった可能性が非常に高いと発表しました。カムイサウルスを含むハドロサウルス科の恐竜には、頭にトサカをもつ種が多く知られています。これまでの発表ではカムイサウルスのトサカの有無について特に明言はしてきませんでした。トサカは鼻骨という骨から主に構成されていますが、残念ながらカムイサウルスでは鼻骨は発掘されていなかいからです。
しかし、鼻骨と接続する前頭骨は発掘されています。この前頭骨の形状とトサカの有無には関連があります。トサカがないハドロサウルス類は前頭骨が小さく、巨大なトサカを持つ種類はもっと後方にのびています。カムイサウルスの前頭骨は小さくなく、板状のトサカをもつブラキロフォサウルスのものと類似していました。
これらのことから小林さんらの研究チームは、カムイサウルスにも板状のトサカがあったのではないかと推定しています。とはいえ、トサカがあったかどうかについては「100%ではない」と小林さんは断っていました。実際、両方の姿をいれて描かれた復元図も公開しています。その意味でも、これまでにつくられたトサカの無いカムイサウルスが無駄になってしまうわけではないでしょう。
北海道胆振東部地震からの復興に向けて
会見でむかわ町の竹中喜之町長は「震災からちょうど1年を迎えるこの時期に、過去から復活し、そして復元され学名がつくむかわ竜。復活を目指しているこの街と何か運命的なものを感じます」と語りました。むかわ町は震災で死亡1、重症3、軽症250、体調不良4、全壊151件、建物の被害は大規模半壊12件、半壊158件、一部損壊2287件、そして土砂崩れ7カ所という大きな被害を受けました1)。復興はいまだ道半ばです。
「既に次の研究を行っています。どのような生活をしていたのか、どのような動きをしていたのか、どのような環境に住んでいたのか、今後調べていきたいと考えています。今、ようやく名前としてカムイサウルスはよみがえりましたが、さらに動物として復活させたい。このむかわ町が震災から復活するように、カムイサウルスを町と共に復活させていくことが今後の研究のテーマになります」と小林さんは会見を結びました。
むかわ町とむかわ竜を紹介しているこちらの記事もご覧ください
- 【クローズアップ】むかわ竜に会える穂別博物館(2018年05月31日)
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