札幌生まれ札幌育ちの樋口真理花さんは、理学部の高分子学科を卒業、ついで生命科学院の修士課程を修了し、総合化学メーカーの三菱化学に就職しました。本社は東京ですが、樋口さんが働くのは岡山県倉敷市にある水島事業所。男たちが多い、製造の第一線です。
その樋口さんから学部1年生へのメッセージ、一部を紹介しましょう。
(教室へ向かう樋口さん)
野球に没頭
私は小学3年生から野球を始め、中学高校でもずっと野球をやっていました。そして北大に入って、ようやく念願かなって硬式野球に参加できました。高校までは、女子は硬式野球に出場できない規定になっているからです。
でも、さすがに厳しい世界でした。週6日の夕方練習に加え、朝練も週3~4回あって、体力的にハードでした。自分の力量にも限界がありました。足が遅い、肩が弱い、打撃力がないなどです。
ですから、ふつうにプレーしてはチームに貢献できません。そこで、視点を変え、いろんな工夫をしました。たとえば、自分よりレベルの高い投手からヒットを打つのは難しいので、自分の打ちたいコースに「投げさせる」ようにしました。打席でラインぎりぎりに立ち、外角球を狙っていると見せかけます。すると投手は、非力な私がまさか内角球を打てるとは思わないので、内角を攻めてきます。でも私は内角球を狙っているので、何とか打てるというわけです。じつは大学野球での初ヒットも、内角球をさばいて打った、サードの頭を越えるライナーでした。
(打席に立つ、樋口さん)
壁にぶつかったときこそ、チャンス
部活動から学んだことの一つは、「壁にぶつかったときこそ成長のチャンス、最大のチャンス」だということです。その壁を乗り越えると新しい道が開けますし、たとえ乗り越えられなくても、挑戦したことで力がつきます。挑戦する過程で、いろいろな角度から試行錯誤するからです。
大学院では、細胞内にイオンを取り込むタンパク質(膜タンパク質)の構造を解析する、という研究をしていました。そこでは、高品質のサンプルを作ることが鍵となります。当時のやり方は、膜タンパク質と細胞膜を1:50の割合で混ぜてサンプルを作るというものでした。でも私は、ほんとうかな?と思い、試行錯誤をくり返して、1:30のほうがよいことを発見しました。当時は認められなかったのですが、今ではこれが学界の常識になっているそうです。
コミュニケーションが大切
その研究では、サンプルこそ北大で作りますが、測定は、毎月1週間ほど大阪大学に出かけ、そこにしかない分析装置を使って測定しました。その際、北大と阪大の両方の教授とよく相談して、限られた時間内で効率的に測定するようにしました。報告や連絡、相談を密にする、コミュニケーションを大切にするようにしたのです。
ここでも、野球部での経験が役だったように思います。野球はチームプレーのスポーツで、声をかけあい、意思を伝え合ってはじめて、最高のプレーが生まれるのです。
それにしても思うのは、face to face の大切さです。会社で、ある部署の人と一緒に仕事をすることになり、メールでお願いしたのですが、うまくいきませんでした。でも、その部署へ実際に行ってみたら、うまくいかなかった理由、先方の事情がわかりました。直接に会ってのコミュニケーションが大事なんですね。「はじめて一緒に仕事をするときは、まず挨拶に行こう」、そう心に決めました。
全力投球してこそ、あとに活きる
大学院の修士課程では、生物化学や細胞生物学、遺伝子工学などを学んでいたのですが、製造現場で必要なのは、熱力学や物理化学、機械工学などです。こんな学問分野があったのか、と思うことさえあります。会社に入って、希望していたのとは違う部署に配属されたというのもありますけど、それにしても思うのは、 もっといろんな分野のことを学んでおけばよかったということ。
大学の4~6年間より社会人生活のほうがずっと長いのです。「これは関係ないかな」と思う授業にも積極的にでて、引き出しを増やしておくことをお薦めします。
何であれ目の前のことに没頭する、全力投球することが大切だと思います。その経験は、社会に出てからも、絶対 役に立ちます。