現在、北海道大学総合博物館では、小林快次さん(総合博物館 教授)らの研究グループの発見した新属新種「ヤマトサウルス・イザナギイ」の化石標本のレプリカが展示されています。残念ながら、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、博物館は5月3日~31日まで臨時閉館を余儀なくされています。現在は展示に足を運ぶことができませんが、化石標本は7月4日まで展示される予定です。一日も早い博物館の再開が願われます。
先日「いいね!Hokudai」では、そのヤマトサウルス・イザナギイの新発見にかんする記者会見の様子をお伝えしました。小林さんの研究グループでは、日本国内の研究者はもちろん、海外の研究者も含めた国際的なネットワーク、そして、ビッグデータの共有による世界に開かれた研究が進められているそうです。「最近では、個々の情報だけではなくて、ビッグデータを世界中の研究者と共有しながらよいものをつくっていくことが可能になりました。研究者がお互いに情報を共有しながら、それを蓄積していき、周りの情報が増えてきたことが、より深い研究を可能にしました。それが今回よい成果を残せたことの一つの要因です」と小林さんは記者会見で述べました。
ですが、今回の発見を支えたのは、こうしたワールドワイドなプロの研究者だけではありません。その背景には、兵庫県のアマチュア化石家・岸本眞五さんの貢献がありました。岸本さんは、発見を公表した記者会見にも同席され、発見時の興奮した様子について話されていました1)。
岸本さんについて博物館での記者会見で小林さんに伺ったところ、次のように語ってくれました。「岸本さんは兵庫古生物研究会の代表を務めており、価値のある標本を発見された場合には、それを研究機関に寄付するといった形でご協力いただいています。今回の発見にかんする論文が出ることをお伝えした際には、泣きそうなくらい喜んでいらっしゃいました。こういったアマチュアの収集家の方は増えてきているのですが、彼らの喜びというのは、自分で収集するというところにもあるのですが、それとは別に、研究に寄与するということも含まれます。今回、岸本さんの成果を記者会見などで全面的に出すことによって、研究者がすべてクレジットをもっていくのではなくて、岸本さんには社会貢献という面で、私たち研究者にとっては研究成果を出せるという意味で、ギブ・アンド・テークの関係が成り立っています。」
小林さんはこれまでも、カムイサウルスの発見の際に、むかわ町の方々との良好なコミュニケーションを築きながら研究を進めるなど、地域の方々とのつながりをたいせつにしながら、最新の発見を実現してきました。私たちは一人の研究者にだけ焦点を当ててしまいがちです。そして、研究のグローバル性が重視される中、ともすると、その発見を支えたローカルなつながりを見過ごしてしまうこともあります。しかし、その偉大な発見の背景には、その発見が行なわれた地域で生きる人々の協力が隠れていることがあるのです。
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参考文献:
- 神戸新聞NEXT 2021:「淡路島で発見の恐竜化石 新種の植物食恐竜と判明」(2021年5月19日 閲覧)