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#176 世界一薄いシートを人工知能の力で発見!

ピカピカ降り注ぐ太陽光のような光から電気を生み出す太陽電池、日常生活に欠かせないスマートフォンやパソコンの電子部品にも使われる半導体など、私たちの生活を豊かにするこうした機器や材料の開発が近年ものすごい勢いで進められています。その鍵となっているのが人工知能(AI)。実は私もこの科学研究を加速させるツールを使った材料開発に携わるひとりです。本記事では、私がAIを使って探索している世界最薄の材料「二次元材料」を例に、材料開発と人工知能の新たな関係について紹介します。

【鈴木創・総合化学院修士1年】

AIの発展で材料開発はこんなに変わった!

従来の材料開発は「理論計算」「実験」「機能確認」の3つのプロセスから成り立っていました。

「理論計算」ではコンピューターによる計算で材料の特性(太陽電池ならある強さの光が当たった時にどれくらいの電圧が発生するかなど)を予測したり、その材料が合成可能であるかを調べたりします。いくつもの材料の計算をし、その中から有用な性質を持つ材料を「実験」で実際につくります。理論計算の結果が必ずしも正しいとは限りません。得られた材料の「機能確認」を行い、実用化できるかを調べることが必要です。有用な材料を見つけるには長い年月をかけてこのプロセスを何回も繰り返し行う必要があります。

(「理論計算」「実験」「機能確認」を経て、材料は実用化されます)

これまで、研究者は既に発見されているデータを参考に、知識や経験、直感に基づいて研究対象となる物質を選択していました。研究者が新素材の候補を見つけてから実用化されるまでには数十年かかることもあります。実際に、     LEDが実用化されたのは開発された1965年から30年後の1995年でした。

しかし、物質と物質を組み合わせて材料を作るときにそのパターンが膨大すぎる場合、候補を絞りきれず、材料開発に限界が来てしまいます。ここで役に立つのがAIです。今まで研究者が行っていた傾向を見出し、材料候補を選択する過程や経験、直感を通さずに行うことができます。

AIを利用した材料開発

いくつもの材料の構造や特性をデータとして学習させることで、AIは材料データの傾向を判断できるようになります。膨大な材料パターンの中から、研究の目的に沿った特性を持つ材料を予測して研究対象を数通りにまで絞ることで、「理論計算」「実験」「機能確認」のプロセスを行う回数が従来の開発方法に比べて大幅に少なくなります。これは材料の開発期間が極めて短くなるということ。実際に、全個体電池という次世代電池の材料開発において、日本の研究グループが5年かけて開発した材料とほとんど同じものを、AIを利用した海外グループがわずか1年で開発したという事例があるほどです。

人間の役割

では、AIに全て任せることはできるのでしょうか?実はそういうわけにはいきません。

材料開発には、将棋や囲碁のように明確なルールや目的がないからです。研究者が専門知識からルールや目的を定める必要があります。例えば、どのような材料を開発するかといった目的が特に決まっていない場合は、太陽電池や半導体に応用できる材料といった目的や、必要な特性(光や電流に対する性質など)を教えるといった具合です。また、一口にAIといっても、さまざまな学習方法があり、研究者が専門知識からどれを使うべきか判断しなければいけません。AIはあくまでも研究を助けるためのツールであり、それをうまく使いこなせるかは研究者の技量にかかっています。

(材料開発の今までとこれから)
私の探索している材料 〜世界で一番薄いシート〜

お待たせしました。いよいよ私の研究についてです。冒頭でも触れたように、私の研究では世界で最も薄いシート状の材料を取り扱っています。物質を構成する最も小さな粒である原子ひとつ分の厚さしかないのです。紙幣の厚さを0.1ミリメートルとすると、その100万分の1ほどの厚さ。     ほとんど厚さがない平面(二次元)ということで「二次元材料」と呼ばれています。その代表例が、炭素原子が蜂の巣状に並んでいるシートである「グラフェン」です。

(二次元物質の代表例「グラフェン」。炭素原子(図では黒いボール)だけでできたシートですが、金属のように電気や熱を通したりする魅力的な材料。太陽電池や半導体などへの応用が期待されています。2010年のノーベル物理学賞の受賞対象にもなりました。)

グラフェンの発見以降、次々に多彩な二次元材料が発見されてきました。例えば、グラフェンの炭素を他の元素に置き換えると異なる性質の二次元材料となります。置き換えられる元素は約60種類あり、これらの組み合わせにより数万 〜 数十万通りのパターンが考えられます。さらに、異なる2つのシートを重ねるだけでまた新しい性質の材料になることや、同じ元素で構成されていても5角形、6角形、8角形などの構造上の違いにより性質が変わることがわかっています。二次元材料の可能性はまさに無限に広がっているのです!

しかし、パターンが多すぎるために人間の力だけでは全ての二次元材料を見つけるのに数十年はかかってしまいます。この問題を解決するために、私はAIにいくつかの二次元材料のデータを学習させ、太陽電池や半導体に使えそうな二次元材料を予測することにしました。膨大な数の材料を地道に探索することなく、ピンポイントで有用な材料を発見することができると考えたからです。

研究はまだまだこれから!

実は、私の研究は始まったばかり……。「機械学習」というAIの学習方法の一種に必要な材料データを集めている、いわば準備段階です。しかし、この準備がとても大変。理論計算から100個ほど集めなくてはいけません。

まだまだ慣れないことも多く、計算エラーと戦う日々ですが、上手く計算が回って新しい材料データを獲得できたときの喜びはかなりのもの。これから     どんどん未知の材料を発掘していくことが楽しみです。

この記事は、鈴木創さん(総合化学院修士1年)が、大学院共通授業科目「大学院生のためのセルフプロモーションⅠ」の履修を通して制作した作品です。

鈴木創さんの所属研究室はこちら
理論化学研究室(前田理教授)

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2021.08.05

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