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#158 未来の地球を考えるヒントは過去の地球にあり 〜古気候学にみるこれからの気候変動の進み方〜

地球の長い歴史を振り返ると、気候は決して一様に保たれているわけではなく大きな変動を伴ってきたことがわかります。例えば、地質時代で第四期と呼ばれる、約258万年前から現在にいたる期間には、寒冷な氷期と温暖な間氷期が周期的に繰り返されてきたことがわかっています。古気候学は地球のさまざまな場所に刻まれた過去の気候に関する痕跡から、さまざまな時間スケールの気候変動の実態を明らかにしていく学問です。この古気候学に「未来のための手がかりを求めて」取り組んでいるのが北海道大学 低温科学研究所 准教授の関宰さんです。過去の気候の復元が未来のための手がかりになるとはどういうことなのでしょうか。関さんにうかがいました。

【田中文佳・CoSTEP本科生/社会人】

(関宰さん(北海道大学 低温科学研究所 准教授)。栃木県出身。専門は気候システム学、古気候学。2009年より現職。登山やみんなで楽しくお酒を飲むことが趣味。最近は息子さんとサイクリングに出かけていろんな川を見に行くのにはまっているとのこと。)
「気候の復元」とはどういうことですか?そして、具体的にどのように行うのでしょうか。

海底堆積物や極地の氷床から採取された柱状の堆積物や氷には、古い時代の気候の痕跡が保存されており古気候アーカイブと呼ばれます。それら古気候アーカイブから過去の気候情報を抽出し、さまざまな時間スケールでの気候変動を復元することです。そして得られたさまざまなデータの解析から気候システムの全容を明らかにしていきます。現在よりも温暖化、または寒冷化した場合の気候はどうなるのかという問いに応えるためにも過去の気候の復元は重要です。

極域の氷床に閉じ込められた空気から当時の二酸化炭素濃度など、湖底の堆積物中の花粉からは当時の植生の変化がわかるといった具合に、その手法はさまざまです。私は主にそれらに含まれる過去の生物由来の有機化合物を分析し気温、水温、降水量、海洋循環、エアロゾルや陸海の生産量の変動などを解明しています。堆積物は、古い時代のものほど入手困難な上に、連続的に堆積している場所から採取する必要もあるので、残されている手がかりはわずかです。

(北海道猿払村の湿原でのフィールドワークにて、2mの泥炭コアを採取した様子(2021年7月)。堆積物中から炭が発見され、過去にこの地域で森林火災があったのではないかと輝かせながら議論が行われたとのことです。〈写真提供:関宰さん〉)
遺跡や恐竜化石といった結果が物の形で見えるような復元とは異なり、古気候学での復元とは数値データとして表せるようになるということなのですね。ところで、この学問の魅力はどんなところですか?

推理小説のような謎解きの面白さがあることです。なによりもまず、海底や氷床の堆積物から過去の痕跡を採取することも一苦労です。そして、その手がかりを実際に分析すると、予想と異なる結果になって頭を抱えることもあります。まさに推理の連続です。探偵が事件を解明していくような、そんな面白さがあります。

また、多くの研究者たちが協力しあわないとならない壮大な研究であることも魅力です。気候変動の研究の最終的な目的は、地球全体の気候の振る舞いを明らかすることなので、世界各地で得られた痕跡をさまざまな角度から分析する必要があります。つまり、何人もの研究者がそれぞれの得意とする手法から取り組み、それを地球全体で行う必要があるのです。自分一人では決してできない研究です。壮大さが面白いですね。

(南極半島の近くのスコシア海で海底堆積物を掘削した国際プロジェクトでのひとコマ。船の食堂で乗船メンバーとくつろいでいる時の写真とのこと。左から4番目が関さん。〈写真提供:関宰さん〉)
推理小説だと一人の天才的な主人公が事件を解決していきますが、古気候学には何人もの主人公がいるのですね。それにしても楽しそうな写真です(笑)
関さんは、現在よりも温暖だった時代に注目しているそうですね。

今よりも温暖だったとされるおよそ12万年前、40万年前、300万年前に注目しています。実は、今よりも地球が暖かだった時代の詳細な知見があまり得られていないのです。

第四期のほとんどが寒い時期で、今はつかのまの暖かい時期です。最近の研究から、今よりも6℃ほど気温が低かった時期の気候は比較的安定していましたが、3℃程度低い時期は気候がとても不安定で激しく変化していたということがわかってきました。気温によって気候の安定性が変わるかもしれないのです。ちょっと寒冷だった時期に起きたことが、いまよりも温暖な時期にも起きていたのかもしれない。しかし、寒い時期の気候の動きをそのまま当てはめることはできません。だから現在よりも温暖だった時代の気候を解明したいのです。

(7月に研究室を訪れた際には、気候の不安定性について熱い説明がありました。)
温暖な時期の気候の解明はどう未来につながるのでしょうか。

地球温暖化した時に何が起きるかは、今生きている我々は誰も経験していません。これから温暖化がどのように進むのか、そして未来の温暖化した地球の姿を知る唯一の方法が古気候学による温暖期の解明だと思っています。

私が知りたいのは、温暖期、温暖化が進行している時期に何が起きていたかということです。例えば、海水面がどのくらいまで上がったのかといった情報に加えて、それはどのくらいのスピードの変化だったのか、といったことですね。変化が緩やかだったのか、急激な変化があったのか、まだぼんやりとしている部分の解像度を上げることができれば、これからの温暖化による影響予測の精度を上げられるはずです。

人間は欲望のままに生きていく生物ですし、未来のことを長いスパンで考えることは苦手ですよね。みんな自分が生きている間は、気候はさほど急激に動かないと思っていますが、本当にそうなのでしょうか。我々の研究によって、温暖期の気候の振る舞いの解像度が上がれば、人類は、具体的な対策を準備することができます。若い世代の人たちはSDGsや気候変動への関心が高いと聞きます。そんな若い人たちに期待する気持ちを持ちながら研究しています。

一人の力では完結できない壮大な研究に、熱い思いで取り組んでいる関さんの、その想いの根底にある推理を楽しむ気持ち、未来世代への責任感や期待を感じることができました。古気候学の面白さはもちろん、関さんのユーモアのセンスや笑顔に触れられたひとときでした。ありがとうございました。

 

今回お話しいただいた関さんが、ゲストとして参加するサイエンス・カフェが開催されます。「古気候学は推理小説のようなものだ」という関さんを名探偵とした、推理小説仕立て60分のイベントです。現在よりも6℃寒かった時期から3℃暖かった時期で起こった気候変動の捜査に基づいて、関さんがこれからの温暖化の進み方に関して抱く「ある懸念」についてお話しされるそうです。

第120回サイエンス・カフェ札幌「コキコウガクシャの事件簿〜未来の地球のヒントは過去にあり〜」

 日  程 : 2021年10月8日(金)18時30分~19時30分
 場  所 : オンライン配信
 ゲ ス ト: 関宰さん(北海道大学 低温科学研究所 准教授)
 聞 き 手: 北海道大学CoSTEP 対話の場の創造実習受講生
主  催: 北海道大学 高等教育推進機構 オープンエデュケーションセンター 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
対  象: 一般市民(内容としては高校生以上を想定)
募集人数: 人数制限なし
 参 加 費: 無料
 言  語 : 日本語のみ
申込方法: 申込不要。こちらのページ上で参加用のアドレスをお知らせします。

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2021.10.01

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