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#201 クマだけじゃない、クマ問題 ~クマを知るには人を知れ~

輝く日差しが降り注ぐ午前8時、青々と茂るまだ若い大豆を農家さんと一緒に収穫する。そして時には町のお祭りに繰り出し、陽気な雰囲気に包まれながら町の人とビールを嗜む。人も動物もお互い幸せに暮らせる未来を目指す私にとって、欠かせないフィールドワークの一面です。

 【伊藤 彩乃・文学院修士2年】

(環境科学院の先輩のヒグマ生態調査に同行する筆者。ヒグマの背こすり木とパシャリ。ヒグマについてもちゃんと学んでいますよ!)〈写真:勝島日向子〉
人も動物もお互いに幸せに暮らせる世の中をつくりたい

小さい頃から自然や動物が大好き。動物のためのお仕事が、幼い頃からの夢でした。高校で将来の進路について情報を集めている中で「野生動物と人の軋轢」について知りました。野生動物がもたらす人への被害と、それが原因になって生じる人からの野生動物への報復など、人にとっても動物にとっても悲しい出来事が世界中で起きているのです。そんな現状をより良くし、「人も動物もお互いに幸せに暮らせる世の中をつくりたい」。自然豊かな北海道でなら、きっとそのヒントを学べるはず。そんな希望を抱き、愛知県から北海道にやってきました。

北の大地でヒグマの研究をスタート

「良い意味でも、悪い意味でも野生動物が身近な場所」。私が北海道で過ごす中で知ったこの土地の一面です。これは、自然や野生動物が大好きな私にとっては天国である一方、農家さんや郊外に住む人びとにとっては、農作物被害や人身被害を引き起こす厄介な存在が身近にいるということ。愛知県では知ることができなかった、野生動物と人のリアルな関わりを体感することになりました。

北海道に生息する多くの野生動物の中でも一番私の興味を引いたのがヒグマ。大型動物が大好きな私にとって、成長したオスでは体長約2.0m、体重約150〜400㎏1)にもなる日本最大の陸上動物であるヒグマはとても魅力的な動物でした。ヒグマと人の関わりについて研究したいと当時の指導教員に懇願し、私の「ヒグマと人の関わりの研究」がスタートしました。

(農家さんの畑にあった、ヒグマによるビートの食害。きれいに食べられ、茎の部分しか残っていない。あの大きな体からは想像できないくらい丁寧な食べ方)〈写真:伊藤彩乃〉
ヒグマ対策は必要だけど、必要じゃない

研究を開始した大学3年生の秋、「北海道ではヒグマの農作物被害や人身被害が発生しており、捕獲に頼らないヒグマ対策を早急に進める必要がある」という事前情報を入手。私は早速、ある町の行政職員さんや猟師さん、学芸員さん、そしてヒグマの研究者など約10名の方に、現在行っているヒグマ対策の現状や課題、今後のヒグマ対策の展望などについてお話を伺いました。そこで浮かび上がってきたのが、現場からの「ヒグマ対策は必要だけど、必要じゃない」の声。特に、小さな町だと人手や財源も少なく、少子高齢化対策や医療問題など、ヒグマ対策よりも考えなくてはいけないことがたくさんあり「ヒグマ対策だけやっている場合ではない」ことが分かりました。

この出来事をきっかけに「そもそも、町の人はヒグマ対策を求めているのか」「町の人が本当に求めるヒグマ対策はどんなものなのか」など、町の人目線からのヒグマ対策を考える必要性を感じるようになりました。これが、私の修士研究の始まりです。

野生動物問題を解決するためには、人と社会を知れ

そこからはできるだけ現場に通い、町の人たちの声に耳を傾ける日々。有意義な聞き取り調査を行うためには、町の人たちとの信頼関係を築くことが大切です。地域のお祭りや農作業のお手伝い、時には小学校の出張授業など様々な地域の活動に顔を出します。

また、ヒグマやヒグマ対策のことだけでなく、町の人たちの生活の実情や他の課題についてもアンテナを張っています。というのも、本州ではコミュニティ関係の活性化や景観の向上、野生動物対策を絡めた草刈りなど、他の課題の解決と結び付けた野生動物対策が功をなしている事例があるためです。私は地域課題の解決と活性化に繋がるようなヒグマ対策のしくみづくりを模索しています。私の研究が結果的に「町の人が本当に必要なヒグマ対策」につながればうれしいです。

(農家さんのお手伝いをする筆者。おしりが土まみれなのはご愛嬌)〈写真:伊藤彩乃〉
最後に。動物の研究を通して生まれた私自身の気づき

研究を通して分かったことは、私は「動物も好きだけど、人も大好き」だということ。それぞれの立場でヒグマに向き合い、ヒグマとのより良い関係を築こうと模索している方々に出会い、お話を聞かせていただくことが純粋に楽しいです。

そして、町の方には美味しいお野菜をいただいたり、「懇親会」で楽しい時間を共有させていただいたりと、お世話になってばかり。でもだからこそ、少しでも有意義な成果を出せるよう研究を頑張ることができています。

「人と動物がお互い幸せに暮らせる世の中をつくりたい」。研究を進めれば進めるほど、素敵な人に出会えば出会うほど、私の当初の思いは膨らんでいくばかり。最近では、本州でもツキノワグマの出没が増加し、人身被害が発生しています。さらに海外でも、ヒョウやトラが市街地に出没するなど、野生動物と人の軋轢は世界中で発生しています。私の研究が少しでも、人と動物お互いにとって素敵な世界に繋がるよう、今日も私は人、そして動物たちと向き合います。

(ヒグマの足跡と、私のフィールドワークのお供の野帳) 〈写真:伊藤彩乃〉

参考文献:

  1. 北海道新聞社 2019: 「ヒグマの基礎知識:生態と行動習性」北海道野生動物基金、北海道新聞社編『となりの野生ヒグマ:いま何が起きているのか』p21 

この記事は、伊藤彩乃さん(文学院修士2年)が、2023年度大学院共通授業科目「大学院生のためのセルフプロモーションⅠ」の履修を通して制作した作品です。

伊藤彩乃さんの所属研究室はこちら
文学院 人間科学専攻 地域科学講座 地域科学研究室(宮内泰介教授)
研究室HP

 

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2023.07.17

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