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#202 鳥たちのなわばり防衛ソングバトル

北海道でも少しずつ寒さが和らいできた5月、石狩川河口に広がる湿原は鳥たちの声で賑やかになってきます。石狩川の土手上の道を歩くだけでも、横に広がる草原の中から「チチッ、チチッ」と、あちこちから微かに鳴き声が聞こえ、時々ヒバリが飛び上がって、上空で忙しなく「ピチュピチュピチュ」と歌い始めます。草原の間にところどころ飛び出している枝や人が立てた杭は、小鳥たちに人気のさえずりスポットです。草原と石狩川の間には林とその間に湿原が広がる地帯があり、そこからはウグイスの「ホーホケキョ」、カッコウの「カッコー」といった声も響いてきます。一見、ならぬ一聴するとのどかなこの風景。しかし、その裏では仁義なき鳥たちのなわばり防衛競争が起こっているのです。

【岩﨑美穂・理学院修士1年】

(石狩川の土手上の歩道からの様子。左手に草原、その向こうに林と湿原が広がる)〈写真:岩﨑美穂〉
なわばり防衛ソングバトルの実態

「なわばり」とは、ある1個体の動物が、その中にある餌や繁殖相手などの資源を守っている空間のことです。資源が豊かな良いなわばりを持っていたら、生存や子育てが成功しやすくなる上、良いなわばりはモテる雄のステータスにもなります1)。一方で、油断するとたった数日で他の個体になわばりを取られてしまうこともあります2)。だからなわばりの持ち主たちは侵入者からなわばりを必死に守るのですが、毎回体をぶつけ合うような闘争を仕掛けていては、怪我をしたり、最悪死んでしまったりしてしまいます。

そこで、自然界の厳しい損得勘定の末、多くの鳥はなわばり防衛に「なわばりコール」というさえずり声を使うようになりました。つまり、さえずり声によって自分の存在や実力を周りに伝え、無駄な争いを避けているのです。石狩の湿原の草や木の先っちょで一生懸命さえずっている可愛らしい小鳥たちも、実はさえずりの実力で他の個体を退けてきた、立派な競争者たちなのです。

(強風吹き荒ぶ中、なわばりコールを歌うノゴマ。紅い喉が美しい)〈写真:岩﨑美穂〉
ソングバトラーたちの戦略を分析せよ

なわばりコールをしている鳥たちは、ただ暇な時に歌っているだけではなく、なわばりを守るという目標を最小限のコストで達成するための戦略を持っています。例えば、他の個体が侵入してきたら歌い始めるだけでなく、その侵入者がなわばりのご近所さんであれば強い防衛行動は取らない「親愛なる敵効果」、同じ資源を使う他の種に対しても防衛を行う「種間競争」といった戦略をとる鳥もいます3)。

このようになわばり防衛やなわばりコールについて多くの研究がされてきました。しかし、所変わればなわばり事情も変わってきます。石狩川沿いにある湿原は、なわばりの境界になるような山や川がない、平坦な土地です。加えて、草原、湿原、林といろんな地形がモザイク状に隣接しているから、それぞれに棲む鳥たちも、お互いに顔を合わせたり、なわばりが近くなったりすることも多いでしょう。そんな中で、果たしてなわばりを持つ鳥たちのご近所付き合いや、他種とのなわばりコールのやり取りはどうなっているのでしょう。そこで、彼らのなわばり防衛ソングバトルの戦略の実態を捉えるべく、私は石狩の湿原の鳥の分布や鳴き声、行動のデータを集め、分析しています。

(捕獲され、足環をつけられたノゴマ。以降は、この足輪の色で個体を見分けられる)〈写真:岩﨑美穂〉
鳥たちに会いに出かけよう

さあ、以上の文章を読んで、少しでも鳥の鳴き声について興味が惹かれた方は、もしお持ちであれば双眼鏡など携えて家のご近所を回ってみてください。鳥の種にもよりますが、時間帯は朝方か夕方、曇りで風が弱い日がおすすめの観察条件です。どうでしょう、大きな声でカァカァ鳴くカラスも、群れでチュンチュン鳴きかわすスズメも、歩きながらポッポポッポと呟いているハトも、なんだか逞しく見えてきませんか。

(北大の農場にて指導教員と野鳥観察) 〈写真:北海道大学理学研究院〉

私はそういった鳥の魅力に10年以上取り憑かれており、未だに飽きる気配がありません。鳥の声に反応して急に立ち止まって木や電柱の上を見上げたり、カラスのゴミ漁りや、雌にすげなくされる雄のハトさえ微笑ましく眺めている人間がいれば、おそらく私か、同好の士でしょう。さて、右手に記録用のスマホ、左手に録音用のマイクを引っ提げ、雨にも負けず風にも負けず、今日も今日とて私は湿原を練り歩くのです。

(人間が鳥を視る時、鳥もまた人間を視ているのかもしれない)〈写真:岩﨑美穂〉

参考文献:

  1. Nagata, H. 1986: Female choice in middendorff’s grasshopper-warbler (Locustella ochotensis). The Auk, 103 (4): 694-700
  2. Krebs, J. R. 1982: Territorial Defence in the Great Tit (Parus major): Do Residents Always Win? Behavioral Ecology and Sociobiology, 11: 185-194
  3. Jedlikowski, J., Polak, M. & Rek, P. 2022: Dear-enemy effect between two sympatric bird species. Animal Behaviour, 184: 19-26

この記事は、岩﨑美穂さん(理学院修士1年)が、2023年度大学院共通授業科目「大学院生のためのセルフプロモーションⅠ」の履修を通して制作した作品です。

岩﨑さんの所属研究室はこちら
理学院 自然史科学専攻 多様性生物学講座III 野外鳥類学研究室(高木昌興教授)
研究室HP

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2023.07.20

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