日本の果実輸入量第5位と、非常に人気で栄養価が高い「森のバター」こと、アボカド。
みなさんはアボカドをスーパーで購入した時、カビが生えていた経験ありますか?
「スーパーで良い品質の食材を見分けられたら……。」そう思いませんか?
アボカドだけでなく色々な食品にも応用できる可能性を秘めていて、しかもフードロスも抑えられる。そんな夢の研究をしている小山健斗さん(農学研究院 准教授)のお話を伺いました。
【安藤汰真・総合理系1年/古舘咲季・総合理系1年/大島隆史・法学部1年/杉井美咲・法学部1年/堀川拓磨・水産学部1年】
まず、どのような研究をされているのか、簡単に説明をお願いします。
僕は「エックス線を使って、破壊せずにアボカドの中のカビ被害を見つける」という研究をしています。
アボカドは毎年たくさん輸入して最近増えていっているんですけど、日本ではどういう性質があるのかというのがあまり分かっておりません。
アボカドをスーパーでたまに買ってみたりすると、中がカビていることがあります。アボカドの中がカビていると何件かクレームが入ると箱ごと廃棄になってしまう場合があります。事前に悪いやつといいやつが分かれば、悪いやつだけはじいていいやつだけスーパー売ることができます。実際には、選果場の人が事前に悪いやつを弾いているんですけど、中身が切ってみないと分からないので、アボカドを選別する選果場の人も実はあまり良くわかっていないんです。
もしアボカドを切ることなくカビがわかれば、アボカドのカビ被害に対するクレームもなくなっていいですよ、というような話です。
アボカドがカビているかどうかは、どうやって調べるんですか?
実は、この研究、最初は、スーパーで売ってるアボカドっていろんな色があるんですけど、いつが食べごろかわからないよっていうので、食べごろを写真で判断できないかという研究をしていました。
その時、たくさん切って硬さを調べていくうちに、カビ被害があるのも出てるんだという話を輸入業者としました。そして、「いや、実は何これ結構起こるんですよ」っていうところから、アボカドのカビ被害の研究が始まりました。
研究をやっている内にアボカドを400個くらい切ってたんですけど、アボカドの写真撮ったりしてるとどうもカビ生えてるってところって空洞があるよね、なんかカビぼけしてるんじゃないかな、といったところで、X線を使った撮影を研究に取り入れました。X線ってよく使われている言葉だとレントゲンがあるんですけれども、簡単な骨折なのか複雑骨折で時間がかかるものなのか、とか見る機械です。なぜそういうのが見えるかというと、X線を通すことで物がどれくらい密度があるのかということを見ることができるからです。
そのような原理がアボカドのカビている部分に使えるかなということで、使ってみました。
今はアボカドが緑から茶色になる時、いつ腐敗が始まっているのか、どういう保存条件で腐敗のスピードを抑えられるのかとか、食品のロスを抑えていけたらいいなというところで研究を進めています。
うちのラボは結構収穫後の農産物の品質保持を扱っているっているんですけど、カビを押さえようとすると圃場まで出向かないといけないというのが最近思っていることですね。
研究室は食品加工工学っていって、収穫した後の話なんですけど、実は収穫する前からずっと繋がっていて、研究テーマというのが一つじゃなく、その背景とかも調べていくと結構広がっていくんです。
どこに研究でつながるかなんてわからないので、常にアンテナ張れるっていうのはなかなか研究をやっていく上で大事だなと思っています。
(小山さんの後ろの機械を見て)これがX線装置ですか?
はい、X線検査機は、片側からX線の光を出して物体に光が当たって通過する部分を反対側で受け取って、それでどれくらい光が通過したかっていうのを見るような機械です。
アボカドだと密度が濃いところが黒くて、空洞のところが白く出てきます。
アボカドにカビが増えれば増えるほどだんだん白くなっていきます。
アボカドはいつ頃X線機械に通すんですか?
いつカビが増えるのか今はまだ分かっていないので、毎日アボカドを機械に通しています。アボカドが少しやわらかくなったときに、腐敗が見つかります。
毎日アボカドを機械に通して「あ、ちょっと白い部分が増えた、また白い部分が増えた」とやっています。
そうして分かったことが、他の部分がちょっと柔らかくなって来ると、カビがすごく入りやすくなるんです。
この研究で、いつカビが入るかというのが分かると、手で触る時にいつ触ったらいいのかとか、いつ検査したらいいのかがわかりますね。
アボカドと似たものでマンゴーというものがあると思うんですけれど、この研究とかはマンゴーに応用できたりしますか?
はい、マンゴーも実はカビが発生する過程がアボカドと一緒です。腐敗するパターンも同じなのでいけるかと思います。
アボカドとかマンゴー以外にどういう食品に応用できそうですか?
今後、やりたいなと思っているのは白菜の内部障害の検出です。
商品だからなかなか切れないし白菜の中身がわからない、けど切らないまま白菜の中身を知りたいっていうものは、時々白菜農家さんの需要として出てきています。ただ、そういうのは市場やスーパーとかに出回らないので、普段生活していると全然わからないんです。
研究へのアプローチで、農学部に特有のことってありますか?
農学部で研究課題があるとすれば、それは社会で困っていることだって言うことです。例えばアボカドの場合だと腐敗が起きるので食品ロスに繋がる、それを防ぎましょうとかっていう課題があります。研究室にある道具も、社会でこういう問題があってそれに対してどういう解決をしましょう、っていうものがすごく多いなって思います。
以前数学科の先生から、数学分野では研究課題が自分の内側にあり、自分が知りたいとかこれが分かったら面白いというものが研究テーマとなると聞いたことがあります。農学部はそういった他の学部とちょっと違ったりしていて、研究課題は外側にあって、社会でこういう問題があるから解決しましょう、というのがわりと多いんだなというのが、研究で最近気づいたことですかね。
同じものを見ても、全然見方やアプローチが違ったりして話してても面白いし、そういうのがいいかなと思ってます。なので、僕は個人的な興味でいろんな話を聞くのが好きかなというところがありますね。皆さんもそれぞれ違う分野に行くと思うけど、数年後に話してみるとすごい面白いかもしれないですね。
さいごに
身近にありつつも不思議な食材、アボカド。その謎に迫ろうとする小山さんのお話を伺うことで、より一層アボカドが身近に感じるだけでなく、研究の決まり方まで知ることができました。卒論や研究、テーマ決めに大変参考になるお話でした。アボカドだけでなく、他の食品への応用が待ち遠しいですね!
次回は小山さん自身のことを深掘りしていきます。やはり小山さんは学生時代から真面目だったのでは?と思いきや……?
この記事は、安藤汰真さん・古舘咲季さん(総合理系1年)、大島隆史さん・杉井美咲さん(法学部1年)、堀川拓磨さん(水産学部1年)が、一般教育演習「北海道大学の“今”を知る」の履修を通して制作した成果です。