質問です。
あなたは今、人口200万のとある大都市に住んでいます。この街では、野生動物の都市進出がすすみ、人口が集中する市街地にまで姿を現すようになりました。残念ながら、彼らは人間に様々な害をもたらします。さて、次のうちあなたならどの獣害対策を最優先と考えますか?
①キツネ
寄生虫「エキノコックス」を人にうつす運び屋。年間20~30名の患者が手術を受けている。キツネは非常に人馴れがすすんでいるため、人のエキノコックス感染リスクは上昇中。昨年、市内でペットの犬でも感染が確認された。
②クマ
10年ほど前から市街地への出没件数が増加。3年前、それまでノーマークだったエリアに出没して街を走りまわり、4名に重軽傷を負わせるという市街地で初めての人身事故が発生。今後こうした個体が増える可能性が指摘されている。
③アライグマ
特定外来生物であり、在来生物への悪影響を防ぐために積極的な駆除対象に指定されている。人馴れはまだすすんでいないが、トウモロコシ畑を荒らしたり家屋に侵入するなどの被害報告あり。
どうですか?ちょっと迷ったでしょう?
それでも、自分にとってどのリスクがどのぐらい不都合なのかを計算し、マシな順に並べたはずです。そう、私たちは常にリスクを選択して生活しているのです。
【池田貴子・北海道大学CoSTEP】
「都市ギツネ」がもたらすリスクは多様
もうお気づきかと思いますが、さきほどの例は、すべて札幌市とその近郊で実際に起きている獣害問題でした。特に、完全に都市への定着を果たしたキツネがもたらすリスクは上に挙げたよりももっと多様で、市民の大きな悩みの種となっています。
かれらは「都市ギツネ urban fox」と呼ばれています。その姿をとらえようとカメラを背負って集う熱烈なファンがいる一方で、人間社会に不都合をもたらす害獣としての顔も持っています。
さきほどあげたエキノコックスのほかにも、庭や家庭菜園を荒らす、ときには街行く人に吠えておどかす、そのうえ、そんなキツネに餌付けをしてわざわざ呼び寄せようとする人が現れる…といったように、コントロールの難しい多様な問題を抱えているためです。
しかし、都市ギツネ対策の必要性が叫ばれて久しいものの、誰が・どのように対策するべきかについては、実は議論が進んでいません。その背景のひとつに、野生動物問題の「リスク評価」の難しさがあります。
※ 都市ギツネがもたらすリスクについては、こちらの記事でも特集しています。
話題のエキノコックス症。その実態と、キツネとの共存をめざした対策とは
エキノコックスだけじゃなかった!~キツネへの「餌付け」がもたらす弊害とは~
「エキノコックス」ってどんな生き物? ~感染しないために敵を知る~
リスク評価とは
リスク評価とは、どんな被害がどのぐらい生じるかを試算することです。被害の種類と規模が予測できると、とるべき対策の内容と優先順位が見えてきます。
都市ギツネ問題では、この予測が難しいというわけです。さらに、仮に何か良さそうな対策をうつとして、それが他の不都合を生むリスクはないか、特に人間や他の生物に悪い影響を与えないかを考慮せねばならず、それはそれでまた評価が難しい、といったぐあいです。
よく姿を見せる彼らの、見えづらいリスクとは何なのでしょうか。都市で野生動物と共に生きるとは、どんなリスクを選択することなのでしょうか。
サイエンスカフェが開催されます
この見えないリスクを見つめるもどかしさを分かち合えるサイエンスカフェが、北海道大学CoSTEPと日本リスク学会の共同主催で、11月12日(日)に開催されます。都市で野生動物と共に生きることは、獣害リスクを選択することです。残念ながら、これさえあれば全て解決!というような唯一絶対の方法は存在しません。このカフェでは、そのなかでも比較的有効とされる都市ギツネ対策を紹介しつつ、解決しない問題にどう折り合いをつけていけばよいのかを考えます。
都市ギツネが三度の飯より好きな方、親の仇ぐらい嫌いな方、キツネなんていてもいなくてもいいけどちょっとモヤモヤをお抱えの方、どなたでも気軽に参加できます。ぜひサイエンスカフェへ。
【タイトル】 第132回サイエンス・カフェ札幌 × 第36回日本リスク学会年次大会公開セミナー
「キツネをなんとかしてほしいと思ったときに行く会 ~しかし、解決はしない。」
【日 程】 2023年11月12日(日)15:00~16:30(整理券配布開始 14:00、開場 14:30)
【場 所】 北海道大学総合博物館1F「知の交流」(北海道札幌市北区北10条西8丁目)
【対 象】 どなたでも
【定 員】 40人 ※入場には整理券が必要です。
【参加方法】 無料、当日14時より整理券を配布
【詳 細】 https://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/event/28282
【主 催】 北海道大学 CoSTEP、日本リスク学会