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#215 何がティラピアをオス・メスにさせる?~性分化の解明から目指す効率的な水産業~

現在、世界中では様々な魚が養殖されています。養殖対象になる魚種の中には雌雄で異なる経済価値を持つ種が存在します。 高い経済価値を持つ性のみを生産できれば産業をさらに効率化させ、持続可能な産業を確立することにもつながります。そのため、性をコントロールする技術の開発は重要な課題の一つになっています。しかし、性決定を含む「性分化」開始のメカニズムが明らかになっていません。私の研究ではナイルティラピアをモデルに「性分化」開始のメカニズムの謎を解き明かそうとしています。

【荒井那允・水産科学院博士後期2年】

きっかけ

物心が付いたときから魚に興味があり、時間があると網を片手に近所の川や池で魚を採っていました。将来は魚の研究がしたいと思っていた高校生のときに天然資源の減少や食糧事情に関する問題を知り、養殖に関わる研究をしたいと思うようになりました。

性分化とは?

性決定後、生殖腺が精巣または卵巣に分化することを性分化といいます。性分化には遺伝子発現の雌雄差による「分子的性分化」と生殖細胞数や生殖腺形態の雌雄差による「形態的性分化」の2つの段階が存在します。一般に分子的性分化は形態的性分化よりも前に起こるとされています。分子的性分化は性決定遺伝子を起点として様々な遺伝子が関わっていることがわかっています。性決定遺伝子はヒトも持っており、Y染色体にある遺伝子Sryであると明らかになっています。ナイルティラピアの性決定遺伝子はamh-Yとされていますが1)、この性決定遺伝子が既知の遺伝子2)に対し、どのようにして性分化に関与しているかは明らかになっていません。私はこの性決定遺伝子に着目することにより「性分化」開始のメカニズムの謎を解き明かそうとしています。

(推測されるナイルティラピアの性分化開始メカニズム)
ナイルティラピアについて

ナイルティラピアは、日本人にはあまり馴染みのない魚ですが、世界規模で養殖されている魚です。特に東南アジアやアフリカでは盛んに養殖されています。また、オスの方が大型化するため、オスの優先養殖が好まれています。さらに、水質悪化に強く成長が早いため、研究にも使いやすい魚なのです。

(生まれて半年のナイルティラピア)
昆虫の力を借りて作るタンパク質

一般に遺伝子はタンパク質に翻訳されて機能するため、遺伝子の機能を調べるには、タンパク質の投与実験や培地に添加する培養実験が用いられることがあります。実験には大量のタンパク質が必要になります。「魚から直接取り出せばいいのでは?」と思うかもしれませんが、収量や精製の手間を考えると現実的ではありません。そこで、別の生物由来の細胞からタンパク質を作らせる方法を使います。ヒトやハムスターの細胞を用いるなど、様々な方法がありますが、私は昆虫(ショウジョウバエ)の細胞でタンパク質を作っています。

(培養中の細胞)
タンパク質の大量生産

まず、ティラピアの生殖腺から解析したい遺伝子のみをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で増やし、精製します。次に、予め培養しておいたショウジョウバエの細胞にこの遺伝子を入れますが、遺伝子を入れるまでに細胞を活発に増殖する必要があります。ようやく遺伝子を入れることができても、目的の遺伝子が入った細胞のみを抗生物質で選別する必要があります。十分に選別できたら、目的のタンパク質を作らせます。ここまでの工程に4~5ヶ月を要します。

ついにタンパク質が…

 この細胞は硫酸銅水溶液を添加すると目的のタンパク質を作るようになります。硫酸銅水溶液を添加した1週間後に培養液を回収し解析に用います。上手くいくと目的の分子量にバンドが表示されます。機械の電源を入れ、数十秒後、目的の分子量にバンドが表示されました。

(目的のタンパク質を確認)
実験までもう少し…

ほっと一安心したいのですが、実験に使うには量が少なすぎます。そこで、培養液の量を増やし、さらにタンパク質を作らせます。その後、回収した培養液の一部を同様の方法で解析し、タンパク質が作られたことを確認します。これにより実験に使用できるタンパク質を得ることができます。

(精製途中のタンパク質)
効率的な水産業のために

このような流れで注射実験や培養実験に使用できるタンパク質を作り出すことができました。性分化開始のメカニズムを解明するにはこれからも沢山の実験をする必要があります。このメカニズムが解明されれば、効率的な養殖技術の確立に一歩前進することになります。この研究で得られた知見をチョウザメ類やウナギなどの性分化機構が明らかになっていない有用水産魚種についても解析することで、これらの魚種の性分化開始機構の解明や養殖技術の開発に応用できる可能性が期待できます。効率的な水産業が開発されるよう、これからも研究を続けていきます。

参考文献:

  1. Li, M., Sun, Y., Zhao, J., Shi, H., Zeng, S., Ye, K., Jiang, D., Zhou, L., Sun, L., Tao, W., Nagahama, Y., Kocher, T.D. and Wang, D.(2015)A Tandem Duplicate of Anti-Müllerian Hormone with a Missense SNP on the Y Chromosome Is Essential for Male Sex Determination in Nile Tilapia, Oreochromis niloticus. Plos. Genet. vol. 11, no. 11, p. 1–23.
  2. Ijiri, S., Kaneko, H., Kobayashi, T., Wang, D.S., Sakai, F., Paul-Prasanth, B., Nakamura, M. and Nagahama, Y.(2008)Sexual Dimorphic Expression of Genes in Gonads During Early Differentiation of a Teleost Fish, the Nile Tilapia Oreochromis niloticus. Biol. Reprod. vol. 78, no. 2, p. 333–341. 

この記事は、荒井那允さん(水産科学院博士後期2年)が、大学院共通授業科目「大学院生のためのセルフプロモーションⅠ」の履修を通して制作した作品です。

荒井那允さんの所属研究室はこちら
水産科学院 海洋応用生命科学専攻 増殖生物学講座 淡水増殖研究室(井尻 成保 准教授)

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2023.11.01

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