薬学部が実施している薬学祭(https://hokudaisai.com/event/kakusai/phm.php)では、生薬や漢方についての理解を深めてもらうための実験や展示が行われています。そのなかから、北大祭の期間にだけ参加できる「薬草園ツアー」を取材してきました。
「植物園」に馴染みはあっても、「薬草園」に行ったことのある方は、多くはないと思います。この「北海道大学薬学部付属薬草植物園」は普段、薬学部生のみに開かれており、部外者は立ち入ることができません。ですが、この北大祭の期間中は、屋外に限り一般の方にも開放されていて、栽培されている薬草を見ることができます。
まず薬草園に着くと、個人で自由に回るか、ガイドと一緒に回るかを選んで園内を回ることができます。個人で回る場合、園内の一部の植物は毒性があるため、手を触れないように説明を受けてから自由に回ることができます。そして、ガイドツアーを選択すると、この時期に見ごろの11種類の植物について説明を受けながら、見て回ることができます。
最初に解説を受けたのは、猛毒で有名なトリカブトです。薬草園にはハナトリカブト、オクトリカブトと、トリカブトの中でも最も毒性が高いエゾトリカブトの3種類があります。その毒性の高さから、アイヌ民族には矢の毒としても使われていたそうです。トリカブトは国内の色々な所に自生していて、山菜と似ていることから、誤飲する事故が毎年発生しているそうです。また、触れただけでかぶれることもあるため注意が必要、とのことです。
そこから、杜仲茶(とちゅうちゃ)としても有名なトチュウや、薬酒にも使われるシャクヤクなど、一般的に馴染みがある植物を見て回りました。そして次に目を引いたのは、ビールの原料としておなじみのホップです。
ホップには雄株と雌株がありますが、受精すると苦みや香りが劣化するため、国内では雄株を排除し、雌株が大半だそうです。ホップは現在はビールの原料として使われることが一般的ですが、実はもともと生薬にもなるもので、鎮静効果や食欲増進効果、血圧改善効果、利尿作用といった効能をもっているそうです。
このツアーの中で最も印象的だったのは、かぜ薬にも使用されるマオウ(麻黄)です。マオウに含まれるエフェドリンは、「日本薬学の父」と呼ばれる長井長義によって1885年に発見、1892年に世界で初めてエフェドリンの単離(様々な成分が混ざった状態から、エフェドリンのみを取り出すこと)が成功したそうです。このエフェドリンは、今日ではせき止め成分として広く用いられています。今回、ツアーのガイドは薬学部の学生がつとめていましたが、マオウに関する説明は他に比べて熱がこもっていて、薬学を学ぶ学生の熱意を感じる事ができました。
このほかにも、歯磨き粉などに欠かせないハッカ (薄荷)、砂糖の50倍の甘みを有するグリチルリチンを有効成分として含むカンゾウといった植物を見て回りました。
今回、ガイドツアーで説明してもらった植物は、普段は薬の成分表のなかで文字情報としてしか見る機会が無いものばかりでした。それらを実際に見ながら、薬としての使い方や効能を聞くことで、これまで知らなかった薬の背景を知ることができる、普段の生活にも役立つツアーでした。