みなさん、「英語も完璧でないのになぜ、第二外国語(二外)をやらなきゃいけないんだ! もういやだーー!」となった経験はありませんか? 第二外国語に対するモチベーション、難しいですよね。
今回は、そんな第二外国語(フランス語)を楽しく教え、学生のモチベーションについて研究している堀晋也先生(北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院助教)に「どうして第二外国語を学ばなければいけないのか」、そして堀先生自身についてインタビューしてまいりました。
【山内尊人・経済学部一年/山田こころ・総合文系一年/小野木和志・法学部一年/
榊原竹寅・総合理系一年/松崎亮磨・総合理系一年/地曵光湖・医学部(保健)一年】
寝られない?! 堀先生のユーモラスな授業
先生が授業中に学生を当てるのはどういう狙いがあるんですか? おかげで寝られないんです。いい意味で。
教師が10分も続けて喋ってたら、多分学生は退屈すると思うんです。私は学生が寝てたり、後ろで宿題とかやってても、「けしからん」とか別に思わない。でも、せっかく教室に来てもらったんだったら、「来てよかった」と思ってもらえる時間にしたいんです。週末一生懸命遊んだ人とか、「月曜1限の授業だるいわー」ってなるじゃないですか。それでも、頑張って来てもらったら、「来てよかったかな」っていう時間にしたいんで、文法の問題を一緒に考えたり、何回もフランス語を発音してもらうとか。
それと私の授業、フランスにまつわるコンテンツを紹介しているんだけど、学生からリクエストもらって、紹介して、それ見てね、「なんか面白かったな」って思って帰ってもらいたいんですよ。そういう狙いがあるんです。
授業をする上で心がけていることは何ですか。
私は、皆さんの基礎学力を高く評価しています。北大に入ってくるんだから、世間一般の同じ18歳、19歳の人に比べたら、もう基礎学力が全然違うんです。だから知識的なこと、フランス語の文法のこととかっていうのは、皆さんある程度自分でできると思うんです。
それでも、せっかく教室に来てもらったら、教科書に書いてないようなことを紹介してみたり、学生から来たリクエストをもとに、フランスにまつわるコンテンツを見てもらって、「同じクラスで、こんなことに関心持ってる人がいるんだな」っていうのを知ってもらう。だから、知識とかっていうもののプラスアルファを身に付ける、って言ったらオーバーですけど、感じてもらう。そういう機会にしたいなっていうのは、いつも心がけてるんです。
私、たまにね、役に立つかわからないようなものも紹介するんです。それで、何の役にも立たないことでも「そうか」と思ってもらったら、それでいいんですよ。
どうしたら勉強したくなる? 自己決定と心理欲求
先生がなさっている研究は、授業にも関わる研究ですよね? どうやって授業にフィードバックしているのでしょうか。
私が拠り所としている心理学の理論に、自己決定理論というものがあります。まずはこのスライドを見てください。
フランス語をどうして勉強するのか。内発的動機づけというのは、面白くて、興味があって勉強するという状態です。一方、外発的動機づけというのは、文字通り、動機づけの源泉が自分の外にあります。同一視的調整は他者に影響を受けて、取り入れ的調整は体裁を保つため勉強します。そして外的調整になると学習の意欲がなくなり、最後の無動機になるともう放棄してしまいそうな感じです。でも人はそんなに単純じゃないので、こうした動機づけや調整段階が併存した状態というのがこの理論の考え方です。
じゃあ、どうしたら自己決定度が高くなるのか。理論的には、基本的心理欲求が満たされることで、この動機づけが左にシフトする、と考えられています。
基本的心理欲求というのは?
次のスライドに書いたこの3つが基本的心理欲求です。自己決定理論では、この3つの心理的欲求を生得的なものと位置付けています。
では、それをふまえてどう授業を工夫しているのか。私のアプローチとしては、この3つの欲求を満たすというよりも充足の阻害をしないことを意識しています。有能さへの欲求を満たすために褒めても、必ずしもモチベーションが上がるわけではない。逆に学生さんが間違えれば、教師の立場上指摘はしますが、有能さへの欲求の充足を阻害するようなことは言わないようにするということです。
次に、自律性への欲求です。主体的に取り組むのは望ましいことですが、初修の外国語で初めから「各自考えて好きなようして」と言っても授業にならないですよね。だから、私がある程度構造を作ります。例えばGlexa (北大で利用しているeラーニングツール)に練習問題や補助教材を載せています。ただし、それに取り組むことを評価には入れません。自分で決めるよう仕向けたいんです。学生自身がやるべきだと思ったらそれに取り組めばいいし、アプリや他のコンテンツの方が面白いならそれでもいい。それで、「これいいな」とか、「フランス語がちょっとわかるようになった」と思うなら、全然かまいません。それが自律性です。
最後に、関係性への欲求です。これを満たす、阻害しないためにどうするかというと、1クラス50人もいて学生の顔と名前が一致しなくても、「先生はちゃんと見てますよ」ということをちゃんと伝える。それが授業ノートです。授業ノートへのコメントによって、試験の点数だけではなく、学生のことをきちんと見ていることを示して、学生の関係性の欲求を満たすことに繋がったらいいかなと思っています。授業ノートの中で、教室に来てその時間で何を吸収して、何を感じたのかを、私は見たいんですよね。
語学で培う「なんでやねん」耐性
他の言語ではなく、フランス語を選んだきっかけや理由は何ですか?
私は京大の総合人間学部ってとこにいたんですが、文系で入学しても理系のことが学べるから受験したので、入学した時、第2外国語に何を選ぶかなんて 、正直どうでもよかったんです。英語に近そうなイメージがあっただけで、フランスの映画や文化への興味とか、一切なかったです。それが仕事になるんですからね。人生分からないもんです。
学部に入って、大木充先生(京都大学名誉教授、フランス語学者。堀先生の大学院時代の指導教員)のフランス語の言語学の授業が面白いって思ったんです。何のあてもなく研究室に行くと、先生は言語学よりも教育学の方に関心を持っておられて。だから、私自身が 特別、フランス語教育に関心があったとかじゃなくて、この人についていったら面白いかなと思って、現在に続くような感じ。先生がやっておられたからっていうのが、最初の取っかかりなんですよ。
私たちが外国語学習をする最大の利点や魅力は何だと考えていますか?
皆さんが第二外国語を勉強するときって、 「なんでやねん」の連続じゃないですか。フランス語なら、名詞の性や動詞の活用だったり。私は、若いうちに、その「なんでやねん」を体験しておくのは悪いことじゃないと思っています。「なんでやねん」 に対する耐性、耐える力。そういったことを体験できるっていうのは、私は多分1番、第二外国語が向いてるんじゃないかなって思うんですよね。
それと 、自分がマイノリティになるっていうことをね、体験できる機会にもなるのかな。
マイノリティになる体験、とはどのような意味ですか?
例えば、今フランスから交換留学生が来てるんです。彼の研究指導の一環で、つい先日ここで、同僚のラドレー先生も交えて3人でフランス語で4時間ぐらいお喋りしました。そうすると、ここは札幌なのに、 自分が「外国人」になった気分、「外国人マイノリティ」になった気分になります。そういうことを体験できるっていう。
日本には旅行以外にも、仕事を求めてたくさん「外国人」の方がいらっしゃっていて、彼らには日本語のハードルがあります。だけど私たちは母語話者なので、母語以外の言語を話す人の大変さに思いが至らない。困っている外国人の方に携わるようなアクションを起こす、みたいなことが直接できないとしても、 その大変さに少しでも思いを馳せることができたらいいんじゃないかな、って思います。やっぱり、知識で得られることよりも、体験の方が大事だと思いますよ。
ご自身のモチベーション研究を反映したフランス語教育の理念について、先生は情熱的に語ってくれました。外国語の学習における疑問や挫折を「なんでやねん」ということばでユーモラスに表現したりと、言語体験の価値を強調していらっしゃったのがとても印象的でした。
後編では、2023年に北大の「ベストエクセレントティーチャー」に選ばれたのに、実は学生時代にフランス語が好きだったわけではなかった(?)、そんな堀先生がフランス語教育に情熱を注ぐようになった経緯について掘り下げています。是非お読みください。
この記事は、山内尊人さん(経済学部一年)、山田こころさん(総合文系一年)/小野木和志さん(法学部一年)、榊原竹寅さん(総合理系一年)、松崎亮磨さん(総合理系一年)、地曵光湖さん(医学部(保健)一年)が、一般教育演習「北海道大学の“今”を知る」の履修を通して制作した成果です。