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#28 地下水を浄化する高性能触媒の開発に挑む

生活に欠かすことができない飲み水。30年ほど前から、日本を含めた世界各地で、硝酸イオンによる地下水の汚染が問題になっています。清浄な水を長期にわたって確保するために、高性能な触媒の開発に取り組んでいる神谷裕一さん(地球環境科学研究院 准教授)。北海道大学留学生センターが開講する「一般日本語コース」の上級総合科目「北海道大学を、もっと知ろう」(2014年度後期)の授業の一環で、留学生の華詩雲(カ シウン)さんが、日本語で、研究のこと、教育のこと、アイデアを生み出す秘訣についてお話を聞きました。

硝酸イオンによる地下水の汚染は、どのくらい深刻な問題なのですか

日本では、環境省が毎年5,000か所を対象に調査しており、平均すると5%、およそ250か所で汚染が確認されています。全国的にみると、水道水に占める地下水の割合は1/4程度で、残りの3/4は川の水を利用していますから、汚染はそれほど深刻ではありません。ただし、水道水をすべて地下水に依存している熊本市では、近年硝酸イオン濃度が上昇していて、このままいくと10年後には基準値を超えてしまいます。対策を講じなければいけません。

世界に目を向ければ、ヨーロッパやアメリカの地下水は、およそ50%が汚れているという報告があります。また、中国やインドネシアなど東南アジアの国々では、かなり汚染されていると考えられています。ですが調査は進んでいません。途上国の水道が整備されていないような地域では、地下水をくみ上げて利用しているため、もし地下水が汚れてしまうと飲める水がなくなってしまいます。清浄な水の確保は、深刻な問題ですね。

地下水はどのようにして汚染されるのですか 

地下水が汚染される原因の一つが、農業で使われる窒素肥料です。作物の収穫量を上げるために肥料は欠かせないのですが、撒き過ぎてしまうことが問題です。作物が吸収するのは、撒いた肥料の1%ほど。残りの99%は雨水となって流れて、土壌にたまります。地下水は、川や池と違って分解する微生物がいないため、一度汚れてしまうと元に戻すことはできないのです。化学肥料や機械を使った近代的な農業が盛んな地域ほど、土壌に硝酸イオンが蓄積し、地下水が汚染されています。食糧を確保しようとすれば、水が汚されてしまう。ジレンマですね。

汚染された水をどんな方法で浄化するのですか

浄化する方法には、生物学的方法と化学的方法がありますが、私の研究室では、化学的方法に着目しています。地下水や廃水中に含まれる硝酸イオン(NO₃⁻)を化学的に分解して、無害な窒素ガス(N₂)へと変換します。この化学反応を起こすためには、反応の速度を速める物質、触媒が欠かせません。4人家族が1日に使う10リットル程度の水を、効率的に浄化する固体触媒を開発するために、日々実験を繰り返しています。将来、この技術を使って、地下水が汚染された国や地域で、硝酸イオンを浄化して無害にし、清浄な飲料水を長期にわたって確保したいです。

実験で使用する触媒がはいった小瓶

分析に使うガラス器具

日々の実験データはどのように記録しているのですか

実験の一次データは、ノートに記録しています。パソコンには保存しません。パソコンのデータは消えてしまうことがありますが、手書きだと消えませんから。学生も私も、実験したデータを欠かさず記入します。これらは研究室の大切な財産です。実験ノートを見れば、その学生の実力がわかるんですよ。

実験ノートが並んだ本棚。研究室の大切な財産です。

学生の実験ノート

実験科学者の基本は、自然を理解する姿勢

実験をすれば、触媒の性能が上がるようなポジティブなデータが得られるときも、逆に性能が下がるようなネガティブなデータが得られることもあります。それが自然の姿です。自然を理解することが、実験科学者の基本です。学生は、人の役に立ちたいという思いが強いので、ネガティブなデータだとがっかりします。私自身が学生だったとき、「ネガティブに影響することがわかった。それが、研究として大事だ」と教わりました。社会に出るとポジティブな結果ばかり求められますが、せめて大学にいる間くらいは、もう少し広い目で現象を捉えて、自然現象というものを理解し、学んでほしいですね。

触媒反応実験室で実験中の学生たち

神谷流アイデアの生み出し方

実験でネガティブデータが出てもがっかりしませんが、アイデアがでてこなくなったときには落ち込みます。なんとかアイデアを創出しようと、いろいろなタイプの論文を読みます。日本語では「乱読(らんどく)」と言います。論文を読んだり、学会に参加したりして知識を増やします。すると、あるとき突然アイデアが浮かんできます。研究室の椅子に座って、うーんと唸っているときに出てくることもありますよ。アイデアというのは、真っ白なところから出るものではなく全部コンビネーション。新しいアイデアを生み出す秘訣は、コンビネーションのネタとなる知識を蓄えておくことですね。

 
取材した華詩雲(カ シウン)さん(右端)

※ ※ ※ ※ ※

この記事は、北海道大学留学生センターが開講する「一般日本語コース」の上級総合科目「北海道大学を、もっと知ろう」(2014年度後期)の成果の一部です。

【取材:華詩雲(カ シウン)さん(日本語▪日本文化研修生)+CoSTEP】

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2015.01.14

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