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#52 米と牛乳とガラスの共通点、みーつけたっ! ~無秩序に固まる現象にシミュレーションで迫る~

米や砂、牛乳や墨汁、そしてガラス。これらは一見違ったものですが、どれも「粒子」に注目すると共通点があります。砂粒、牛乳の中の脂肪粒子、ガラス分子は、自由に動ける状態から、無秩序に固まった状態になるのです。この現象はジャミング転移と呼ばれており、私はコンピュータを用いた数値シミュレーションを武器に、彼ら粒子の振る舞いを決める鍵に迫ろうとしています。

【木村康志・理学院修士1年】

(砂時計がつまるのもジャミング転移のせいなのです)

ジャミング転移をする粒子たち

それではジャミング転移について、具体的に説明してみましょう。砂時計を見てみると、砂がくびれの部分で詰まることなく流れ続けています。ここで砂時計に入っている砂の形を変えてみるとどうなるでしょうか。最初は調子よく流れていきますが、ちょっとしたことで詰まって流れなくなります。イラッとしてちょっと叩いてみると、また流れ始めてくれるかもしれません。くびれ部分から落ちていた粒子たちが動けなくなって固まる、この現象がまさにジャミング転移なのです。ちなみに「Jamming」とは「詰まる」「動かなくなる」という意味です。

次に砂粒よりも小さな粒子に着目してみましょう。牛乳には0.1μmほどの大きさの脂肪の粒子が含まれています。この脂肪粒子が増えてくると、水の中を自由に運いていた脂肪粒子は行き場をなくして、脂肪同士で固まってクリーム状になります。これもジャミング転移です。

ではガラスはどうでしょうか。例えば二酸化ケイ素でできているシリカガラスは脂肪粒子よりもはるかに小さい数十nmほどのガラス分子で構成されています。高温でドロドロに溶けたガラスを冷やすと、今まで動きまわっていたガラス分子たちは、温度の低下と共に動けなくなっていき、お互いに手と手を繋ぎ合って固まります。これもジャミング転移なのです。そしてこの例が示すように、ジャミング転移は温度にも依存しているのです。

(僕達の身近にある牛乳やガラスだってジャミング転移します)

ジャミング転移がつくる無秩序なカタマリの魅力

このように、多数の粒子は、それらの粒子の大きさやその粒子の性質によらず、粒子が占める密度や温度によって、流動的な振る舞ったり、固まったりする性質をもっています。温度によって固まったり流動的になる、といえば、固体・液体・気体の三態変化を思いだすかもしれません。しかし、それとこれとは違う現象です。

ジャミング転移でできる固体は、液体が凝固してできる固体のように、綺麗に揃った結晶ではなく、アモルファス結晶と呼ばれる無秩序な結晶構造をもっています。

((左:格子を組んだ理想的な結晶。右:無秩序な配置をしたアモルファス結晶)

形状記憶シャツなどに用いられる形状記憶ポリマーや、細胞の中に数多あるタンパク質もアモルファス結晶を形作ります。そのため、その結晶化の条件を明らかにすることは、物理学だけでなく、工学や生物学など様々な分野の理解に貢献できると期待されています。さらに、物質だけではなく、交通渋滞や人混みの形成など、もっと粒子(?)の大きな現象に応用できる可能性があるのです。しかし、ポリマーを形成する高分子や細胞中のタンパク質のどのような性質がアモルファス結晶の形成に効いているのか、ということは分かっていません。

何がアモルファス結晶の構造を決めるのか

どのようなアモルファス結晶がつくられるのか。それを直接観測するのは極めて困難です。そして自由奔放に振る舞う膨大な数の粒子たちを手計算で追うことはできません。そこで、私はパソコンを、多い時には10台分ほど使ってシミュレーション計算をしています。

(シミュレーションで圧縮してつくられたアモルファス結晶。左は自由に動ける状態。
右上はジャミング転移をした際のアモルファス結晶。右下は右上のものと圧縮のスピードを変えて転移させたもの)

シミュレーションのためには条件を設定しなければいけませんが、これが一筋縄ではいきません。水が常圧下では0度で氷になることはよく知られていますが、粒子たちがジャミング転移を起こす温度は毎回異なります。冷却される速度が少しでも違うと、アモルファス結晶のできるタイミングも形も異なるからです。

鍵となるのは密度や温度だけではありません。粒子の数が多くなると、形成されるアモルファス結晶のパターンが無数にでてきます。粒子の形が違ったり、他の種類の粒子が混じり合っていると、更にそれぞれ個性豊かに色々なアモルファス結晶をつくります。さらにはスタート時の粒子たちの位置関係までも影響してきます。ちょっとした環境の設定が彼ら粒子の機嫌を左右するといっても過言ではないでしょう。

気まぐれな粒子たちに魅せられて

粒子たちの無秩序な振る舞いには毎度苦戦を強いられていますが、彼らの共同作業が織りなす転移のダイナミクスは私の好奇心を刺激します。逆に言えばデータの取り甲斐があるとも言えます。私はコーヒー片手に紙やホワイトボードを計算式で真っ黒にしたり、パソコンの黒画面をプログラムのコードでカラフルに埋め尽くす日々を送っています。

(紙面と画面を文字いっぱいにして、今日もジャミング転移に迫ります!)

※ ※ ※ ※ ※ 

この記事は、木村康志さん(理学院修士1年)が、大学院共通授業科目「大学院生のためのセルフプロモーションⅠ」の履修を通して制作した作品です。

木村さんの所属研究室はこちら

理学院 物性物理学専攻

物性理論1研究室(根本幸児 教授)

研究室HP

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2016.08.01

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