本は人を繋げます。たとえば、新渡戸稲造先生が読んだ本を私が読めば、新渡戸先生が本から受けたことを追体験できます。今回私たちは、加藤弘通さんが紹介してくれた本を通して、新たに彼との繋がりを持つことができました。
このパートでは加藤さんが紹介した『ぜひ大学生に読んでほしい一冊』『私の分野で今 Hot ! な一冊』『私の人生に影響を与えた一冊』を紹介します。読者の皆さんにも加藤さんが私たちに伝えてくれたことを繋げていけたらと思います。
【轟木磨舟・教育学部1年/西村諒佑・総合文系1年/鎌田理恵子・法学部1年】
ぜひ大学生に読んで欲しい一冊:『君たちはどう生きるか』 吉野源三郎 著 (岩波文庫/1982)
この本は、中学生のコペルが大学院生の叔父さんとの対話を通じて、ものの見方や人との繋がりを感じていく様子を描いています。私は「コペルが積極的に叔父さんに質問していく態度は、ずいぶん早熟なのではないかと思う」と述べました。すると加藤さんは「彼は一見達観している子に見えるかもしれないが、潜在的には多くの中学生が持っているような能力を体現している。その能力をより引き出すための教育や心理学が必要だ」と答えてくれました。さらに私が「この本は多様な視点を持つことの重要性を述べているのではないか」と質問すると、「今は社会が複雑化していて多様な視点の重要性はみんな言っていること。だからこれからは多様な複数の見方の中から、根拠をもって選択する、あるいは新しい選択肢をつくりだす力が必要になるのではないでしょうか」とコメントしてくれました。「複雑化した社会の中で、たくさんある選択肢の中から、どんな基準で何を選べばよいのか」これはまさに、“どう生きていくか”に関わることです。
あなたもこの本を読めば、“どう生きるか”が見えてくるかもしれません。
(君たちはどう生きるか)
私の分野で今 Hot ! な一冊:『思春期学』 長谷川寿一(監修) (東京大学出版会/2015)
今、心理学を問わず、様々な分野で思春期が注目を集めています。この本は、思春期学の本格的な総合人間科学としての確立を目指しています。加藤さんは「自分の研究から、思春期学とは違う新しい知見を生みだすために、この本を非常に参考にしている」と言います。このコメントを聞いて、加藤さんの研究に対する情熱を感じました。『思春期学』は10~20歳頃の心・からだ・脳とその背景について書かれています。特に、脳科学の最新の知識にもわかりやすく触れられていいます。実際に教育学部のゼミでも読まれているそうです。教育について興味を持っている学生は、一度は目を通しておくとよいのではないかと話してくれました。
(思春期学)
私の人生に影響を与えた一冊:『十七歳だった!』 原田宗典 著(集英社文庫/1996)
著者の原田宗典さんが、十七歳の時を振り返り、自身の青春時代を面白おかしく描いたエッセイ集です。不良に憧れるも上手くいかず、好きな女の子に見つめられているのではないかと勘違いして身悶えする原田クン。彼の泥臭くもどこかキラキラした「思春期像」に加藤さんは親近感を覚えたそうです。加藤さんは「誰もが一度は通る思春期とはいったい何なのか」と考えました。そして、研究を通じて、ちょっとおバカな、しかし、物事や状況を考える力を根底に持った思春期像を明らかにしたいと志すようになったといいます。
「悟り世代」とも言われる今の若者も、実は原田君と同じように自意識過剰で、思い込みで行動してしまうこともあるのではないでしょうか。だとしたら、日々奮闘する原田クンの姿に共感できるところもあるかもしれません。まだ十七歳になっていないあなたも、十七歳真っ只中のあなたも、そして、「十七歳だった!」あなたも。「困ったときはこれを読みなさい!」そんな、元気が湧いてくる一冊です。
(十七歳だった!)
三冊の本を通して、私たちは加藤さんの学者としての顔だけでなく、親としての一面や少年のような一面も知ることが出来ました。このように本はただそれを読んだ人に新たな知識を授けるだけでなく、新たな他者との繋がりを生むことができます。インタビューパートを読んで加藤さんのことをもっと知りたくなった方は、まず今回紹介した本を読んでみてはいかがでしょうか。
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この記事は、轟木磨舟さん(教育学部1年)、西村諒佑さん(総合文系1年)、鎌田理恵子さん(法学部1年)が、学部授業「北海道大学の「今」を知る」の履修を通して制作した作品です。
加藤さんへのインタビューは「発達心理学から考える思春期のいじめ」として掲載しています。