私たちは本を読むとき、未知の世界を知ることになります。小説の中の主人公になって共感したり、新しい価値観を得たり、誰かに伝えたいという気持ちに出会ったり…。今回の記事では、北海道大学大学院文学研究科の佐々木亨先生が薦めてくださった本を切り口にお話を伺いました。先生が出会った未知の世界、そして私たちへ伝えたいこととは?『文化の発見』、『研究を深める 5 つの問い』『赤めだか』の 3 冊から先生について知っていきましょう。
(泉しずく・総合理系 1 年/石原里香・水産学部 2 年/三浦高弘・総合理系 1 年)
博物館を知る -『文化の発見』吉田憲司 著(岩波書店/1999)
『文化の発見』とは、著者である吉田憲司氏が博物館の歴史と次世代のミュージアムのあり方について綴った本です。佐々木先生は、この本から次の二つの影響を受けたといいます。一つ目はミュージアムに対する考え方が柔軟になったことで、中でも「歴史的な背景をおさえて展示を見ること」が大きな発見だったといいます。二つ目は、ミュージアムの展示は「単なる客観的な事実の表示」ではなく、博物館側の「新たな意味が加わったものである」ということを気づかせてくれたといいます。確かに、展示を作るスタッフが資料を揃える行為でさえ、その人の意図が入ってしまうことを考えれば、このことには納得がいきます。最後に、先生は私たちに、この本について次のことを教えてくださいました。それは「国が博物館を利用して自国の正当性を主張する場合があるので、不意に自分の気持ちをコントロールされないために、私たちは展示物を絶対視してはならない」とのことでした。
研究を知る -『研究を深める 5 つの問い』宮野公樹 著(講談社BLUEBACKS/2015)
『研究を深める 5 つの問い』は 2015 年に発行された本です。なぜ佐々木先生はこの本を薦めてくださったのでしょうか?そこには我々学生に向けた、先生からの熱いメッセージが隠されていました。はじめに先生は我々にこう投げかけます。「大学に入って、教育というサービスを受けにきている、という感覚がないですか?」と。「研究室・大学はサービスを受ける場所ではないのです。先生と生徒が一緒に学ぶ、同じ方向を向く二者なのです。」また、最近は昔に比べて学問の仕方を教えてくれる本が増えているといいます。このような本のおかげで私たちはあらかじめ明確な基準-自分は研究者に向いているのか?-が作りやすいのです。でもね、と先生はこう指摘してくださいました。
「知識として得るものと実感として得るものは違う、実感を持ちながらこの本を読めるといいですよね。」
『研究を深める 5 つの問い』、これから大学で学問を深めていく私たちに向けた先生のひとつのメッセージなのかもしれません。
佐々木先生を知る -『赤めだか』立川談春 著(扶桑社文庫/2015)
昨年末ドラマ化された『赤めだか』。佐々木先生がこの本に出会ったのはつい最近のことだそうで、中には落語を「人間の業の肯定」と言った立川談志の名言がつまっています。「己が努力、行動を起こさずして他人の弱みを口であげつらって自分のレベルにまで引き下げようとする行為、これを嫉妬という」。このような短い文章で人間の本質を的確に示しています。佐々木先生は浪人して文転、二年次の学部移行で文学部に。そのとき取得した学芸員資格は旅行会社などの民間企業勤務を経て、博物館で活かされることになります。その後、北大の教員になられましたが、またミュージアムで働いてみたいとお考えのようです。「一つのことを極めるのは大切だけど、横の広がりも悪くない。そういう意味で、私は様々なものにおいて二流である自信があります」。二流といっても、これは決して悪い意味ではありません。「添乗員としても、学芸員としても、今でもそこそこやっていける自信があります」と佐々木先生はおっしゃいます。多くのことに精通することで、自分だけの道が切り開けるというのはこれから進路を決めていく立場の私たちにとって、たいへん参考になりました。
今回は 3 冊の異なるジャンルの本についてお伺いしました。
博物館について日々研究なさっている佐々木先生が感銘を受けた本を通して、博物館がより身近に感じられるようになったと思います。実感を伴う知識の大切さ。博物館について深く考えることの新鮮さ。展示に関すること。複数のことに目を向けることで見えてくるもの。先生のお話を踏まえてこれらの本を読むことで、私たちもかつて先生が出会った未知の世界へ近づけることでしょう。
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この記事は、泉しずくさん(総合理系1年)、石原里香さん(水産学部2年)、三浦高弘さん(総合理系1年)が全学教育科目「北海道大学の『今』を知る」の履修を通して制作した成果物です。