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#83 「解剖学」を武器に不妊症へ迫れ! ~卵子をとりこぼす卵管に着目~

不妊症は、新たな命の誕生に立ちはだかる大きな壁となります。実際に不妊症は、ヒトの少子化や希少動物の絶滅を加速させています。特にヒトでは、近年の晩婚化を背景にその件数は増加しています。このままでは、ヒトや動物など地球の住人はゆっくりと着実に減っていくでしょう。そこで私は、地球の未来を脅かす不妊症に立ち向かうべく、「解剖学」的視点から研究を始めました。現在は、雌性不妊症、とくに卵管の「解剖学」的な異常に着目しています。

【細谷実里奈・獣医学院博士1年】

(皆さんの「解剖学」のイメージは、こんな感じでしょうか?)

卵管が卵子をとりこぼす「ピックアップ障害」

生命の誕生。これには「卵巣から排卵された卵子が卵管にピックアップされる」プロセスが必須です。しかし実は、卵巣と卵管はつながっているのではなく、ちょっと離れているのです。排卵された卵子は一度、おなかの中をただようことになりますね。そこで卵管は卵子をおなかの中に落とさないように、とりこぼさないように機能しなければいけません。もしも卵子をとりこぼしてしまえば、卵子は受精の機会を失い、不妊症を招くことになります。この卵子のとりこぼしは「ピックアップ障害」と呼ばれています。しかし困ったことに、ピックアップ障害が起こる原因はわかっていません。


(受精のためにはピックアップが欠かせないのです)

ピックアップ障害の原因をつきとめる!その一歩

ある病気の原因を研究するとき、その病気をもつ動物、いわゆる「疾患モデル動物」を使うのが有効な方法です。そこで、卵子ピックアップ障害の原因を明らかにしたい!と思った私は、ある動物に着目しました。MRL/MpJ-Faslpr/lprマウス(以下lprマウス)です。

lprマウスは、ヒトの自己免疫疾患のモデル動物でもあります。自己免疫疾患とは、本来、細菌やウイルスなどの異物を攻撃する免疫細胞が、自分自身のからだを構成する正常な細胞までをも攻撃してしまう疾患です。関節の炎症や腫れ、変形などが症状の関節リウマチは自己免疫疾患の有名な例です。そして自己免疫疾患をもつヒトは、高い割合で不妊症となることが知られていました。

自己免疫疾患と不妊症に関する先行研究によると、lprマウスでは、自己免疫異常の進行にともなって卵巣の形態が異常になり、その機能に影響を与えているのです。

そこで私は、「卵巣がおかしいのであれば、卵管もおかしい可能性がある」、つまり「lprマウスはピックアップ障害を持つのではないか?」と予想したのです。

ピックアップ障害をもつモデル動物、発見!

しかしこの予想が本当か確かめるためには壁がありました。分からないことだらけのピックアップ障害には、これといった診断法がなかったのです。

ピックアップ機能を評価するいい方法はないか…。そこで私が思いついたのが「卵子ピックアップ効率」を測定する方法でした。マウスの卵巣で観察される排卵の傷跡の数を「排卵卵子数」、排卵され卵管にピックアップされた受精待ちの卵子の数を「ピックアップ卵子数」として数え、その割合として「卵子ピックアップ効率」を計算しました。これは、解剖学を専門とする私ならではの思いつきです。


(解剖学的視点から編み出したピックアップ効率計測法)

すると…予想は大当たり!lprマウスの卵子ピックアップ効率は、正常なマウスと比べて低下していました。lprマウスは、排卵された卵子をとりこぼす「ピックアップ障害」持ちの動物だったのです。

ピックアップ障害の卵管には「解剖学的異常」あり

次に私は、ピックアップ障害があるとき、卵管の形態がどのように変化しているのか?そしてその形態がどのようにピックアップ機能に影響を与えるのか?を明らかにしようと考えました。これは「機能形態学」とよばれ、解剖学で重視される考え方のひとつです。

卵子のピックアップ機能には、卵管が排卵された卵子を迎えに行くために動くことが必要といわれています。加えて、ふつう卵管の表面には線毛という細い毛がびっしり生えているのですが、この線毛が同じ方向に揺れて卵子を卵管の中へ運ぶことも必要といわれています。これを踏まえてlprマウスの卵管の入り口を観察してみると、正常なものと比べて、大きく腫れあがっていました。さらに、lprマウスの卵管の線毛は数が少なく、生えている向きもバラバラでした。このように、ピックアップ障害の卵管には形態の異常があったのです。

(lprマウスの卵管は腫れぼったく、毛が少ない)
 

今回明らかとなった卵管の形態異常を引き起こす原因として最も考えられるのは、lprマウスのもつ自己免疫疾患です。自己免疫異常はどのようにピックアップ障害に影響を与えているのか?はたまた与えていないのか?この疑問を明らかにすることが、次の私の課題です。

解剖学は着実に未来へつながってゆく

科学において解剖学は基礎研究という位置づけです。基礎研究とは、その名の通り科学を支える基礎。基礎がなければ応用はできません。つまり、解剖学のような基礎研究があるからこそ、病気の診断法や治療法を開発することができるのです。

今回ご紹介した解剖学的視点からの研究成果は、ピックアップ障害の原因を明らかにする鍵となるだけでなく、その診断や治療法に応用できる可能性を秘めています。私は解剖学研究者として、不妊症に立ち向かうべく、日々ゆっくりと、しかし着実に歩みを進めています。

(顕微鏡をのぞく毎日。見ているのは100年後の未来?!)

※ ※ ※ ※ ※

この記事は、細谷実里奈さん(獣医学院博士1年)が、大学院共通授業科目「大学院生のためのセルフプロモーションⅠ」の履修を通して制作した作品です。

細谷さんの所属研究室はこちら

獣医学院 獣医学専攻 基礎獣医科学講座 解剖学教室(昆泰寛 教授)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今回紹介した研究成果は、以下の論文にまとめられています。

Hosotani M, Ichii O, Nakamura T, Otsuka-Kanazawa S, Elewa YH, Kon Y. Autoimmune abnormality affects ovulation and oocyte-pick-up in MRL/MpJ-Faslpr/lpr mice. Lupus. 2017. In press.

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Update

2017.08.22

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