免疫機能に異常をもつマウスの卵巣や精巣の研究に取り組んでいる大谷祐紀さん(獣医学院解剖学教室 博士課程1年)に、北海道登別明日中等教育学校4回生の5人がお話を聞き、レポートにまとめました。
(標本を手に研究内容を紹介する大谷さん)
実験室で、見て、触って、学んだこと
【高谷縁・登別明日中等教育学校4回生】
実験室ではじめに目に入ったものは、動物の臓器や骨の標本で、すごく丁寧に作られていました。まず臓器から水分を抜き、心臓などの臓器には、その後にシリコンを入れて作製するのですが、完成までには二週間もの期間が必要とのことです。用意されていたのは、主に牛と馬のさまざまな臓器や骨の標本で、手にとって触らせてもらうことができました。どちらも同じくらいの大きさなのですが、ところどころ違った部分があります。同じ大きな動物でも、骨の違いによって体の動きが変わってくることなど、実際に見たり触ったりして学ぶことができました。一部の骨だけでも、かなりの数の部分に名称があり、そのひとつひとつに機能がついていて、覚えることが大変そうだと感じました。
その後は、細胞に生えている毛が動いている様子を顕微鏡で観測している現場を見学したり、マウスの肝臓や膵臓などの細胞に色をつける過程を解説していただき、それを実際にプレパラートにのせて顕微鏡で見たりすることができました。普段は入ることができない実験室には、様々な発見がありました。
(大谷さんからは練習問題も出されました。標本を手にとって、みんなで考えました)
解剖学の魅力
【久居由茉・登別明日中等教育学校4回生】
北海道大学大学院獣医学研究院には、19の研究室があります。その分野は、臨床獣医師になるための内科学、外科学や、病気に関する病理学など様々です。中でも大谷さんが所属する「解剖学」は、すべての医学の基礎となる分野です。どの研究を行うにも、動物自体のことがわかっていなければ進みません。では、解剖学の面白さはどこにあるのでしょうか。解剖学教室の准教授である市居修さんにお話を伺いました。
「解剖学と実験は切っても切れない関係にあります。実際に動物を解剖して実験することは、つまり、結果が「目に見える」ということです。その「目に見える」ところに解剖の面白さがあるのです。その「目で見たもの」を数値化・データ化し、論文にしていきます。解剖学は最古の医学と言われています。しかし同時に、解剖学は最先端の医学でもあります。つまり、医学における最初の行うべき研究であると同時に、まだ証明されていないことを追究し続ける学問なのです。獣医学においても、研究論文は今もなお発表され、その成果は更新され続けています。」
(解剖学教室の准教授である市居さん。実験の合間に熱くお話いただきました)
大学院生の生活
【羽根秀和・登別明日中等教育学校4回生】
大谷さんが在籍している大学院の博士課程では、学部の学生と比較して授業が少ないため、時間の使い方は自由です。その中で大切なのが「自分で計画を立てて研究する」ということです。自分の知りたいことを明らかにできる研究ができるように、複数のことを並行して進めていきます。また、論文は英語で書きます。そして、英語で発表してディスカッションをします。英語の会話で特に大切なのが、自分の意見を英語にすることと、他の人の話を聞き、そしてまとめることです。それができるようになるために、友達や他の学生何人かで集まって、1つのトピックに対してそれぞれが英語で発表してまとめたりする会を開いています。
他には、学会といういろんな研究者が集まって発表する場があります。大谷さんは、2017年は1年間で国内の学会に2回、国際学会に2回参加してきました。学会を通じて、同じ研究をしている人と仲良くなることができます。そうすることで、研究に対するアドバイスをもらったり、高度な機械のある研究室を利用できたりします。このように、やはり世界に向けて発表するということは、考えて行かなければいけないのだということがわかりました。
(院生のみなさんの机や資料などが集まる研究室にて)
獣医師と研究者
【新木玲皇・登別明日中等教育学校4回生】
大谷さんのように、獣医学を学んだ後、多くの人は獣医師になります。獣医師は、飼い主さんと関わる機会が多く、きちんと説明をしないと、必要な治療に納得をしてもらえません。そのため、飼い主さんに治療法を伝えるコミュニケーション能力が必要になってきます。これは、研究者も同じです。例えば、自分の研究を論文にまとめ、発表をすることなどです。獣医師と研究者では考え方に違いがあると感じることもあるそうです。獣医師は「病気を治す方法」や「どのようにしたら病気がよくなるのか」などが気になるそうです。対して研究者は、「なぜ病気が起こるのか」や「病気を起こらなくすること」などが気になるそうです。けれども、獣医師にも研究者にも共通しているのは「動物の病気を治したい」という思いです。
実は、獣医にかかわる仕事はさまざまなものがあるそうです。町の獣医さんのほかに、インフルエンザの研究者や馬・牛など畜産の獣医などがあります。また、地方公務員としての獣医師になる人も多いそうです。
(色を付けた細胞を顕微鏡で観測)
大谷祐紀さんについて
【米谷はづき・登別明日中等教育学校4回生】
大谷さんに、ご自身についてお話を聞きました。大谷さんは2009年に北海道大学獣医学部獣医学科に入学しました。大学受験の際には、一年間の浪人生活を経験したそうです。私は浪人生活をしても志望校に受かる人は少ないと聞いていました。しかし、大谷さんは「もしも私があの時北大に来ることを諦めていたら、今も10年後も20年後も、ずっと後悔していると思う。だから絶対受かってやる!という気持ちで頑張りました。目標を持っている人はとても強い。想いが強い人は浪人生活を乗り切ることができると思いますよ」と話しました。私は、大谷さんの強い想いにとても感動しました。
2015年に卒業して、神奈川県の動物病院に入社します。しかし2年後の2017年に、勤めていた病院を退社してしまいます。大谷さんは「動物の病気について、今もまだ分かっていないことは多いのです。獣医をしている中で、繁殖と免疫という二つの機能が深く関わっていることに関心を持って、そのことについて研究をしたいと思い、再び北海道大学に戻ってきました」と話します。他にも、「獣医師がこの動物には治療が必要だと言っても、飼い主の中には治療をするという選択をしない人もいます。獣医師が知識だけをならべても伝わらないことを実感しました。だから、『サイエンスコミュニケーション』が大切になってきます。飼い主に治療をしようと思ってもらえるように、CoSTEPでコミュニケーションについて学びたいと思ったのも、もう一つの理由です」とも。
他にも、病院で働く獣医師と研究者の間にある意識や考え方の違いについても触れ、「獣医師からしてみれば、私達研究者の研究が無意味に思われてしまうこともあるし、逆に研究者の立場から見て思うこともたくさんあります。サイエンスコミュニケーションを通してその格差をなくせたらなと思っています」と語りました。
最後に今後の夢について大谷さんは、「自分の研究で、動物にもヒトにも役に立てるようなことを世間に提供できたら良いなと思う。また、獣医学は幅広いので、サイエンスコミュニケーションで学生や一般の人にも伝えることができたらとも思う」と語りました。
今回、大谷さんから話を聞いて、獣医についてはもちろん、普段は触れることができない「大学」「研究」についても考えることができました。本当に有意義で楽しい1日でした。
(前列(左から):大谷祐紀さん、米谷はづきさん、久居由茉 後列:高谷縁さん、羽根秀和さん、新木玲皇さん)
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この記事は、北海道登別明日中等教育学校のインターンシップにCoSTEPが協力して実施した成果の一部です。
【取材:高谷縁、久居由茉、羽根秀和、新木玲皇、米谷はづき(登別明日中等教育学校4回生)+CoSTEP】