小学生の頃に化石に魅せられた私。大学院生となった今、念願だった古生物の研究をしています。そして今年6月、北海道から発見された恐竜化石についての研究成果を記者発表する機会をいただきました。しかし、ここまでの道のりは決して平坦なものではありませんでした。
【鈴木花・理学院修士1年】
化石との出会い
私が古生物学者を目指すきかっけとなったのは、化石とのある出会いです。小学6年生の頃、北九州市にある「いのちのたび博物館」を訪れました。これが人生初の博物館でした。そこで恐竜や三葉虫の化石を実際に目の当たりにし、はるか昔に死んだ生物が、化石という形で何億年、何千万年という長い時を超えて、いま、目の前にあることに魅了されました。それと同時に、当時の環境や彼らの暮らしぶりに思いを馳せたのです。この体験をきっかけに、私は古生物に興味を持ちました。
しかし、古生物の世界へ進もうとは思っていなかった
高校3年生の頃、周りの友達に影響され、なんとなく薬学部に進もうと思っていました。そんなある日、母に言われたのです。「本当にやりたいことは何?せっかく大学に行くなら、趣味ではできないこと、やってみたいことを学べばいいじゃない」。この言葉を聞いて、ずっと心の奥に隠れていた「古生物を学びたい」という気持ちが大きくなりました。大学探しの末、古生物学の中でも恐竜学の第一人者のいる北海道大学に進学することを決意。「古生物の姿やその周りの環境を現代に復元する方法や、その理論の確立をしたい」という壮大な夢を持って。
衝撃の事実が発覚
地球惑星科学科に入学し、3年間は地球に関するあらゆる分野の基礎を講義や実習から学びました。この3年間で私はふたつの衝撃的事実に気づいてしまったのです。ひとつは、進学を決意したときに描いていた夢を実現するには、何百年という長い年月が必要であること。そしてもうひとつは、自分は山でのフィールド調査が好きではないということです。なぜならば、蜂やクモといった虫が大の苦手だから。なんとか克服しなければ、という前向きな思いと、こんな自分が本当に古生物を研究できるのか、という不安な思いとを持ちながら、学部4年生の時に希望の研究室への配属が決まり、古生物の研究がスタートすることになりました。
試練続々・・・苦痛でしかない研究生活
研究室に配属されてすぐ、担当教員である小林快次さん(総合博物館・准教授)は化石を研究したいという私に、ひとつの化石を手渡しました。そして研究テーマが、その化石の記載と同定に決まりました。同定とはその化石がどの恐竜のどの部位なのかを明らかにすることです。そして記載とは同定するための手法であり、対象物の形態的特徴を細かく詳しく記述することです。
とは言え、まず恐竜化石の産出地である、山でのフィールド調査は欠かせません。でも虫嫌いの私にとってはこれが大変。ほとんどの化石の産出地は山の中にあるのです。やるしかない、と勇気を振り絞り、約2カ月で10回前後のフィールド調査を行いました。しかし、後にそこから得た情報は不十分であったことがわかり、これらのフィールド調査は残念な結果に終わってしまったのです。
ハードルはフィールド調査だけではありませんでした。私が研究する化石は脊椎骨の円柱状の部分、椎体部1つだけ。頭骨や歯、複数の化石から種類を同定することが多い恐竜学の分野において、骨ひとつだけ、しかも椎体ひとつから種類を同定している研究例など、ほぼありませんでした。そのためかなりの困難を極めていました。
加えて、恐竜やフィールド調査に関する知識が不足していた私は、骨の種類や形、現在考えられている系統関係など基礎的な勉強にかなりの時間を使ってしまいました。研究を始めたものの、全く手ごたえを感じられずにいました。想像と全然違う…。研究が楽しいとは全く思えませんでした。とりあえず院試を受けたものの、こんな生活があと2年半も続くなんて耐えられない、と日々の生活が苦痛になっていったのです。
転機到来、軽い気持ちで参加したモンゴルでの調査
そんな中で研究生活を一変させる出来事がありました。それはモンゴルでの調査です。私の研究室では毎年9月に約2週間のモンゴル・ゴビ砂漠での発掘調査を行っています。自由参加でしたが、せっかくこの研究室にいるのだから行ってみようかな、という軽い気持ちで参加しました。
モンゴル、ゴビ砂漠でのフィールド調査は日本でのものとかなり違っていました。その大きな原因はゴビ砂漠に広がる地層の成り立ちにあります。化石を産出する地層とは、礫や砂、泥などが侵食・運搬作用によって広く水平方向に堆積した物です。その地層は、大きく二つの種類にわけられます。当時、海が広がっていた場所に堆積した海成層と、陸であった場所に堆積した陸成層です。日本が海成層であるのに対し、モンゴルは陸成層です。そのため日本と違い、山の中で発掘する必要がないのです。これは私にとってはかなり嬉しいことでした。
このモンゴル行は、発掘調査に加えて、ウランバートルの研究所に保管されている標本を見られる絶好の機会でもありました。そのため、様々な種類の恐竜化石を観察し、種類による化石の大きさや形の違いなどを実物から学び取る標本調査を行いました。化石を見る目を養うにはうってつけの方法です。この標本調査を通して、研究対象である標本と比較できる知識を得たという実感と、100個近い化石を観察したという充実感のようなものを感じました。
心機一転、これからの研究生活に期待
モンゴルでの経験を経て、私の研究への気持ちが大きく変わりました。自分の標本を、すでに発見され同定されている標本や、それらを記載した文献の記述と比較することで、ひとつひとつ事実が分かっていくことに喜びを感じています。また先行研究の少ない尾椎骨の研究を通して、文献を見る視点が変わりました。一見、欲しい情報がないように思える文献でも、考えのヒントや後々つながる情報が隠されていることに気が付きました。
さらに、6月に行った研究成果の記者発表や学会発表を通しては、古生物学を研究できる環境にいられること、そして何よりも研究する際には、たくさんの方とのつながりがとても重要であることを実感しました。
モンゴルでの経験や学会発表、記者発表を経た今、より強く『もっと研究を頑張ろう』と思っています。これからの修士課程の2年間では、より多くの標本を調査し触れること、そして肉食恐竜であるティラノサウルス類の体サイズや生息域の変化などの研究テーマに取り組みたいと考えています。協力・応援してくださる方々への感謝の気持ちも忘れず、今後も研究に励んでいきたいです。
この記事は、鈴木花さん(理学院修士1年)が、大学院共通授業科目「大学院生のためのセルフプロモーションⅠ」の履修を通して制作した文章を、本人が加筆修正した作品です。
鈴木さんの所属研究室はこちら
理学院 自然史科学専攻 地球惑星システム科学講座
進化古生物学研究室 (小林快次 准教授)
研究室HPアドレス 準備中
今回紹介した研究成果と記者発表の概要は、以下のプレスリリースにまとめられています。