突然ですが、皆さんは最近よく眠れていますか?特に大学生は生活リズムが崩れがちで、十分な睡眠がとれていない人が多いのではないでしょうか。睡眠には、体内にある「生物時計」という時計が深く関係しています。私たちは、この生物時計について研究している山仲勇二郎さん(北海道大学 大学院教育学研究院 生活健康学研究室 准教授)にお話を伺いました。
【志村佳亮・文学部1年/芹澤実咲・総合理系1年/藤井凌・農学部1年】
(山仲勇二郎さん。手に持っているのは実験に使う袋)
皆さんには、以下のようなことがあてはまりませんか?
■ 寝室の照明は昼白色。
■ 仕事や課題を進めるため、夜遅くまでパソコンを使っている。
■ 遮光カーテンを閉めて寝ている。
山仲さんの研究によると、こういった行為は皆さんの体内に備わっている生物時計をずらしてしまうそうです。では、まず「生物時計」と「光」の関係について、掘り下げてみましょう。記事の最後には、よりよい睡眠をとるためのアドバイスをまとめてありますよ!
生物時計を巡る研究
実験室に入ると、面白い照明が目に留まりました。
――この部屋の照明は入口と奥とで色が違いますね。
そう。よく気づいたね。ここ(電球色の照明の下)はオレンジ色が中心の光なんだけど、LEDだから青色の光(ブルーライト)も含まれてる。スペクトルメーターで測定すると、青色の光の波長は480nmくらい。みんなの生物時計は500nmよりも下の波長の光にすごく敏感に反応するから、ここ(電球色の照明の下)はまだ生物時計がよく反応する光になってる。でも、このメガネを通して測ると・・・
(山仲さんが研究で使用しているブルーライト遮断メガネ)
――あ!青色の光がなくなった!
これは、青色の光をほぼ100%遮断するメガネなんだよ。夜に勉強したりパソコンを使ったりするときにこのメガネをかけていれば、朝起きる時間は生物時計がキープしてくれるから、目覚めはいいかもしれないね。
(実際にスペクトルメーターで光の波長を測り、結果を見せてくださいました)
「生物時計」には、光だけでなく運動や遺伝も影響する!
生物時計とは、私たちが毎日昼間に十分活動し夜間に良質な睡眠をとれるように行動と生体内の環境を調節するものです。その周期には様々な外的要因が影響すると考えられています。
――生物時計といえば、光の影響を強く受けるイメージがあります。
生物時計には、光だけでなく運動も関係するんだ。研究によって、光を浴びながら運動することで生物時計をより速くずらすことが可能なことを発見しました。これは時差ボケの克服に活かすこともできて、今セネガルで闘っているサッカー日本代表の時差ボケ解消にも役立っているんだよ。※ちょうどこの日、ワールドカップのセネガル戦でした。
――光や運動以外にも、生物時計に影響を与える要因は他にあるのですか?
実は「時計遺伝子」といって、私たちのからだに備わっているリズムの周期、いわゆる朝型か夜型とよばれる「クロノタイプ」を決める遺伝子があるんだよ。朝型は周期が短い人。眠くなる時間帯が早くて睡眠時間がちょっと短めで、早起きで朝すごく元気な人。それに対して、夜型は周期が長い人。眠くなる時間帯が遅くて、寝起きは悪いけれど夜すごく元気な人。必要な睡眠時間もちょっと長かったりする。よく言われる「22時~2時が睡眠のゴールデンタイム」っていうのは、実は万人に当てはまることじゃないんだよ。その人によって自分の時計に合った睡眠のタイミングや長さがあるにもかかわらず、今の社会ではみんな同じリズムで生活することを強いられるでしょう?だからsocial jetlag(社会的時差ボケ)が生じたり、睡眠負債(潜在的な睡眠不足により体に蓄積する負荷)の状態に陥ったりしてしまう。本当はみんな、自分の睡眠の周期を知って、本当の意味でのフレックスタイムで生活したほうが、仕事で良いパフォーマンスを発揮できるし幸せに暮らせると思うんだよね。そういったことも、研究を通して提案していきたいと思っています。
――自分にあった睡眠のタイミング・長さは、どうやったら調べられるのですか?
睡眠日誌をつけるんだよ。寝た時間と起きた時間、睡眠の満足度などを記録する。実は今、そういうアプリを作っているところです。毎日そのアプリで記録すると、自分の今の体の状態を診断してアドバイスしてくれる、睡眠の先生みたいなアプリを目指しています。
(クロノタイプとは、その人によって異なる睡眠の周期、いわゆる朝型・夜型といったタイプのこと。睡眠に関する19の質問に回答することで診断できる。質問の内容詳細は、次回の記事で紹介する書籍に掲載されています)
研究者への転換 ~自分の経験を活かして~
――なぜ「生物時計」の研究を始めたのですか?
自分が研究者になろうと大学院に入ったとき、皆と同じことをしているとなかなか研究の世界で生き残れないと思ったので、他人がやっていないことを探したんです。何かのパイオニアになりたかった、というのもありますね。生物時計の研究をすることは決めていたんだけど、当時、運動と関連付けて生物時計を研究する事例がまだ少なかったので、それをやろうと決めました。生物時計に関するものなら何でも好きなので(笑)。
――そもそもなぜ研究者になろうと思ったのでしょう?
昔は勉強が苦手で部活を頑張っていました。高校の時から本気でプロのサッカー選手になることを目指していて、大学もそのために国士館大学に進学して。国士館大学は当時大学で唯一日本フットボールリーグ(JFL)というJリーグの下部リーグに参加していて、そこで試合に出れば、プロと戦えるしプロになれるチャンスがあると考えたんです。でも、国士館大学ではトップチームには上がれなかった。そこでサッカーで食べていくのは難しいなと。昔からサッカーのパフォーマンスをあげるための知識が欲しくて生理学の勉強をしていたんだけど、段々、勉強や研究の方に興味が出てきて。当時、私の大学では部活が盛んで図書館にいる人はあまりいなかったから、決まった場所を占拠して論文や本を読み漁っていましたね。その中で「自律神経機能検査」(後ほど紹介)という一冊の本に感銘を受けて、学部卒業後に大学院に進学して自律神経に関する研究をしたいと考えるようになった。この時はまだ、生物時計の研究をやろうとは考えていなかったけどね。
謙虚さ ・ こだわり ・ 柔軟性
――研究者として大事にしていることはなんですか?
謙虚であること。研究者って難しくて、自分の土俵を持ってなきゃいけないんだけど、井の中の蛙になっちゃうと生きていけないんですよ。だから、自分の土俵で戦うんだけど、周りの土俵も見ておかなきゃいけない。で、いいものがあった時にそれを受け入れられる謙虚さが必要。こだわりと柔軟性をバランスよく持ち合わせなきゃいけないんだけど、私もまだできていない。絹ごし豆腐ぐらい柔軟になりたいな(笑)。
さいごに
山仲さんは研究に対して本当に真摯で強い思いを抱いており、インタビュー中の話し方や表情からもその熱意が伝わってきました。
では、ここまで読んでくれた皆さんに、睡眠の質を上げるためのアドバイスを!
■ 寝室の照明は昼白色だ、という人は…
電球色の照明に変えましょう。寝る前は電球色の照明の下で活動するのがよいです。
■ 仕事や課題を進めるため、夜遅くまでパソコンを使っている人は…
ブルーライトを遮断するメガネをかけながら作業しましょう。どうしても睡眠時間を削らなくてはならないときは、いつもの時間に一度寝て、早く起きましょう。寝始めからすぐの数時間に、集中的に深い睡眠が得られるから。
■ 遮光カーテンを閉めて寝ている人は…
カーテンを開けて寝るか、遮光カーテンをやめましょう。朝日を浴びることで、生物時計が調節されて、質のよい睡眠がとれるようになります。
次回は、先生が研究者を志すきっかけとなった書籍について紹介します。
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この記事は、志村佳亮さん(文学部1年)、芹澤実咲さん(総合理系1年)、藤井凌さん(農学部1年)が、全学教育科目「北海道大学の”今”を知る」の履修を通して制作した成果物です。