この記事では、私たちが大学の先生方に聞きたかったことを紹介します。大学の研究者になるきっかけや、研究することの面白さについて、前編に続いて堀之内武さん(大学院地球環境科学研究院 地球研科学部門 大気海洋物理学分野 教授)にお話をうかがいました。他にも大学の1年生へ求めることや、大学の勉強についてのアドバイスについて紹介します。この記事は「金星のスーパーローテーションの謎を解明する」の後編です。金星のスーパーローテーションについて解説した前編を読んでいない方は、前編も一緒に読んでください。
【廣木健人・医学部保健学科1年/屋敷祐奈・総合理系1年/飯塚舜・総合理系1年/岩田陸・総合理系1年/村上知広・総合理系1年】
研究者となるきっかけは何だったのですか。
もうわりと流れでという感じでしたね。昔の話にはなりますが、子どものころの夢は、宇宙飛行士でした。でも、高校の頃にはもう宇宙飛行士になることは考えていなくて、なにか世の中の役に立つ仕事に就きたいと考えていました。核融合の研究をしたいと思ったこともありましたが、実現できないかもしれないと言われていることを知りました。そこで、とにかく面白いことをやろうという考えに変わりました。それが、理学部に入ったきっかけです。そのあと大学3、4年と進むにつれて研究者になるのも悪くないなと思い始め、修士課程、博士課程へ進んだという感じです。
堀之内さんにとっての研究の面白さとはなんですか。
ぱっと短い言葉では出てきませんが「未知のことを知る喜び」というのは大きいです。「未知のこと」には、自分にとって未知のことと、誰にとっても未知のことの二つがあります。プロの研究者として仕事をする場合は、自分だけにとって未知のことではなくて、誰にとっても未知であることを明らかにするために取り組むわけです。もちろん、実際に調べてみたら、もうすでに原理が知られていたなんてことはあります。それでも、それも自分にとっての未知が明らかにはなりますよね。
あともう一つ、研究には「作っていく喜び」というのがあります。たとえば、工学部の研究のように、何か具体的にモノを作っていく場合は、わかりやすいですね。私の研究のように、紙と鉛筆とコンピューターを使う研究の場合でも、新しい手法を考え出したり、実際にプログラムを作ったりする、そのプロセスが面白いと思います。
(地球環境科学院前、画面奥側から見るとベンチが世界地図のように見える)
研究において、今のコロナ禍で苦労したことはありますか?
もちろん細かな苦労はいっぱいありますけれど、私自身の研究についていえば、苦労というほど苦労はあまりないように思います。すでにあるプロジェクトを続けて行っていくことについては、今までの研究で培った関係性があるので、オンラインでも何とかなっています。今のところ、そういった「貯金」がある人は半年くらいはそれで何とか研究を継続していける状態なのではないでしょうか。ただ、長期的にこのようなオンラインだけの状態が続くと、研究を支えているいろんなものが堀り崩されてしまうので良くないと思います。
では、コロナ禍で一番変わったことはなんですか?
今のところ、私については、すごく変わったということはないです。ですが、学生を見ていると、新入生がどこも一番割を食っていると思います。それはもう間違いないですね。これはもう本当に気の毒で心を痛めています。
大学院進学について、学生になにかアドバイスはありますか?
私の所属している環境科学院地球圏科学専攻の大気海洋物理学・気候力学コースは、理学部地球惑星科学科、水産学部、工学部などの様々な学生を受け入れています。なので、学部の研究とその先がぴしっと繋がっている必要はありません。理系だと4年生に卒業研究しますが、そこで本当に自分のテーマを持ってじっくり取り組んで何かをするという経験をすることになります。一つの研究をずっと続けていくのもありですが、比較的浅いキャリアで研究テーマを変えるのも悪くないです。私自身も4年の卒業研究と大学院は同じ地球科学科でしたが、分野は変えています。
堀之内先生が学生に求めることは何でしょう?
いろんな人が居ていいと思います。何に没頭出来るか、何が好きなのか、そういうとこが重要。結局、好きで、時間を忘れて出来るようなことだったら、能力も伸びます。ここだったら、自分は没頭出来る気がするというところへ進むのがいいと思います。
最後に、堀之内さんの、これからの展望や目標を教えてください。
金星の研究に関して言うと、金星大気でまだ解明されていない「未知のこと」はいくつも残っていると思っています、その中には非常に大きな謎もあるので、その謎を明らかにすることに取り組んでいきたいです。ただ、私自身の全体的な方針としては、専門の地球大気の研究を中心に進めていくつもりです。これからだとアジアや太平洋付近の降水過程にかかわる大気の力学の研究、あとは最近比重が高まってきた台風の研究にも取り組んでいきたいと思っています。
記事執筆を終えて
今回、私たちのグループは二人の方にインタビューを行いました。大学1年の私たちは全員が、高校までに本格的にインタビューをしたような経験もなく、拙い聞き方になったりもしましたが、お二方とも丁寧に話を聞いてくれて、質問に答えてくれました。少し話は変わりますが、今年の大学の状況はとても特殊で、1年生は入学したにもかかわらず、前期の半ばの7月まで大学の構内にすら入れないという状況でした。そんな中、この「北海道大学の「今」を知る」の講義では、大学の研究者へのインタビュー、さらには大学院の研究室訪問という、コロナ禍という状況では、簡単にはできないような経験をさせてもらいました。この経験を通じて、オンラインだけではなくて、実際に人にあって、聞いてみないとわからないことがあるということを強く実感しました。そして実際にやってみて経験をすることの重要性も体験しました。もし、この記事を読んだ方で、北大に入学した方がいたら、この講義を選択することを勧めたいと思います。
この記事は、廣木健人さん(医学部保健学科1年)が中心となり、飯塚舜さん(総合理系1年)、岩田陸さん(総合理系1年)、村上知広さん(総合理系1年)、屋敷祐奈さん(総合理系1年)が、全学教育科目「北海道大学の「今」を知る」の履修を通して制作した成果物です。
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