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#174 十勝岳のパタパタ現象~見えない火山現象を知る~

北海道のちょうど真ん中にある十勝岳では、山の斜面がパタパタ。それが気になる私は、朝からパソコンをカタカタ。 山に登っても気づかないほどの非常に小さな変化ではありますが、確かに斜面が動いています。きっと私たちの見えないところ、つまり山の内部で「なにか」が起きているはずです。北の大地の火山で何が起きているのか、海辺でしらすを食べて育った私が明らかにしてみせます!

【近内雪乃・理学院修士1年】

私の日常

AM 5:05 起床。
AM 5:30 バナナとヨーグルトを食べてバイト先のカフェに向かう。
**バイト**
AM10:15 お腹がすいた。帰り際の私を店先のドーナツが誘惑してくる。
AM10:30 学生部屋の鍵を開ける。デスクトップPCの電源ボタンを押す。窓を開けてカラスにおはよう。
     リュックを下ろしてクロックスに履き替える。ティファールでお湯を沸かす。
AM10:35 今日のお供はコーヒーではなく紅茶の気分。今日は十勝岳パタパタしてるのかな。
     大規模計算機センターにログイン。今日もがんばるぞ。

(私のデスク。画面中央奥にある黒色の箱は、相棒のデスクトップPC。りんごちゃんと名付けて可愛がっている。)
どうしてパタパタしているのか気になる気になる!

北海道のちょうど真ん中に位置する十勝岳という火山で、山の斜面の傾きがパタパタ変化する「傾斜変動」という現象が起きています。先月は10回パタパタ、今月は1回だけパタパタ。10分で小さくパタパタしたかと思えば、次は1時間くらいかけて大きくパタパタ。さっきはゆっくり斜面が下がって終わりだったのに、今度はゆっくり斜面が下がってから急激に上がったり…。この斜面の傾きの変化は100万分の1°程度と非常に小さいですが、確かに山の斜面が動いています。

私はこのパタパタがどうして発生しているのか気になるのです。「傾斜変動」は地面の傾きの変化なので、地面が動けば火山活動だけでなく地震や地滑りといった他の自然現象でも確認されます。その場合は比較的簡単に傾斜変動の原因を特定できます。十勝岳の傾斜変動も、もし噴火に合わせて斜面がパタパタしているなどの事実があれば原因を想像できそうですが、現時点ではこの変動に対応した火山表面での他の現象(噴煙や火口の様子の変化など)は確認されていないのです。

しかし変動が観測されているということは、きっと私たちの見えないところ、つまり山の内部で「なにか」が起きているはずです。

(傾斜変動の概念図。左の図よりも右の図のほうが山の斜面の角度が急になっている。)
日本は世界有数の火山大国。研究を通して火山防災にも貢献したい。

その「なにか」がどのような現象なのかは未だわかりませんが、マグマの熱で温められて高温になった地下水である「熱水」の動き(熱水が地下の岩石の隙間を流れる、液体から気体に相変化するなど)が関係している可能性が高いと予想しています。その理由は、先行研究で十勝岳は熱水の動きが活発であると報告されていることと、熱水の動きが活発な他の火山でも似たようなパタパタが観測されていることです。

パタパタに深く関係していると考えられる「熱水」ですが、火山防災においても近年注目されています。2014年に長野県の御嶽山で噴火が発生しました。この噴火によって多くの方が亡くなり、日本における戦後最大の火山災害とも言われます。この御嶽山噴火は、熱水が関与して発生する水蒸気噴火であったと考えられています。水蒸気噴火は一般に噴火の規模が小さいですが、規模の小ささ故に噴火の予兆をつかむことが難しいです。そこで水蒸気噴火を引き起こす熱水の動きを理解し、普段から小さな異変を捉えることが重要となります。

予想通りパタパタが熱水の動きに対応しているとすれば、パタパタの研究成果は十勝岳や他の火山における熱水の動きを知るための手掛かりになるでしょう。直接噴火の予兆を捉えることには繋がらなくても、火山活動を評価するための指針の一つになるかもしれません。いや、指針にできるような研究成果を出せるように頑張りたいです。だからこのパタパタがどうして発生しているのかを明らかにできれば、私のようにパタパタが気になって気になって仕方がない人が嬉しいだけでなく、火山防災にも貢献できるのではないかと期待しています。

(実は十勝岳にはまだ行ったことがない。去年2回も悪天候で行けなかった。今年こそ行きたい。)
山の中の「どこか」で「なにか」が膨らんだり縮んだり…?

ここからは、山の斜面がパタパタ変化する傾斜変動をどのように調べていくのかお話しします。

火山は地下深くにあったマグマの地表への出口です。噴火しているときにマグマが地下から上昇してくるのはもちろん、噴火していないときも膨大な熱エネルギーによって熱水や火山ガスが上昇してきます。その一部が噴気や温泉となって地表に放出されています。この流れが地下のどこかで滞ってしまうと、熱水や火山ガスは上昇できずに溜まり始め、周辺の地盤を押し広げようとします。このような場所を「圧力変動源」と呼びます。この圧力変動源という考え方を用いると、熱水や火山ガスが地盤を押し広げようとしている時は圧力変動源の「膨張」、押し広げる力が弱くなっている時は圧力変動源の「収縮」として捉えることができます。

例として、下の図のように山の中に球状の圧力変動源がある場合を考えます。圧力変動源が膨らむと斜面の傾斜は最初の状態に比べて急な角度になり、収縮すれば斜面の傾きは緩やかになります。これで傾斜変動が再現できます。

(圧力変動源の膨張→山の斜面の傾きは急になる。)
(圧力変動源の収縮→山の斜面の傾きは緩やかになる。)

今は一番シンプルな球状の圧力変動源を仮定して説明しました。圧力変動源の形が楕円になったり、四角になったり…形を変えても仕組みは同じです。よく用いられる形の圧力変動源においては、その圧力変動源によって引き起こされる地面の変形を記述する数式が知られています。この数式を用いて「どんな圧力変動源を仮定したときの変形が、観測されている傾斜変動を最もよく再現できるか」を調べると、傾斜変動を引き起こしている圧力変動源の位置や形を推定できます。

今、私が取り組んでいること

私は、ここまでお話しした「圧力変動源と観測される傾斜変動の関係」を利用してコンピューターで計算を行い、十勝岳の傾斜変動を説明できる圧力変動源を見つけようとしています。ただ実際の火山で観測される傾斜変動は、地形の凸凹や地下の不均質構造(場所による地盤のかたさや密度の違い)の影響を受けているため一筋縄ではいきません。そこで私が今取り組んでいるのが「有限要素法」という地形や地下構造の影響を考慮した計算ができる手法です。まだまだ勉強中ですが、コンピューターの画面上で変位を再現したい領域とその材質を決めて、圧力変動源を作って、内部の圧力を変化させる量を設定して…ちょっとパズルみたいです。

(有限要素法計算の操作画面。操作画面中の図は球状の圧力変動源が膨らんだことを再現している。)
まとめ

冒頭でどうしてパタパタが発生しているのか気になるとお話ししましたが、この研究ではパタパタの圧力変動源がどういう形で、どんな大きさで、どの辺に位置していて、どれくらい内部の圧力が変化したか(どれくらい変動源が動いたか)、ということしか推定できません。本当に傾斜変動が圧力変動源内部の熱水の動きを示しているのか、どこから熱水がやってきてどこへ行ったのか、などは先行研究と比較したり、他の観測研究手法を考えたりしなければなりません。修士論文でどこまで議論できるか正直わかりませんが…頑張ります!

日本は火山がたくさんあって度々火山災害に見舞われますが、火山は美しい景観や温泉、地熱エネルギーなど恵みも与えてくれます。私は温泉に入ると日本に生まれてよかった、火山ありがとうと思います。火山現象の理解が進むことで、より安心して火山と共生できる社会になればいいなと思います。

(ゆず湯を楽しむカピバラ。大室山という火山の麓にある伊豆シャボテン動物公園で撮影。)

この記事は、近内雪乃さん(理学院修士1年)が、大学院共通授業科目「大学院生のためのセルフプロモーションⅠ」の履修を通して制作した作品です。

近内さんの所属研究室はこちら
理学院 自然史科学専攻 地震学火山学講座
理学研究院附属地震火山研究観測センタ―(青山裕教授)

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2021.07.28

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