前回にひきつづき、食品加工工学を研究されている小関成樹さん(北海道大学大学院農学研究院 食品加工工学研究室 教授)のお部屋にお邪魔しました。小関さんは、現職に就かれるまでに、民間企業、出戻り博士学生、国の研究機関、海外留学、と様々な経験をされたといいます。そして、そのすべての節目では常に自分の直感を信じて決断し、幅広い興味をもって徹底的にやり抜いてこられました。この記事では、そんなTHE決断力の漢(おとこ)の半生に迫ります。
【大橋颯人 経済学部1年/長尾渉 法学部1年】
北大のご出身なのですね。
もともと僕は栃木県生まれなのですが、父の転勤で年中から小6まで北海道で過ごしました。だから完全に育ちは北海道なんです。それで少し大きくなってから改めて「北海道ええなぁ」と思って。なんとか北海道に帰るにはどうしたらいいだろうと考えて、「そうだ、北海道の大学へ行こう!」と。それで北大に進学しました。
どんな学生でしたか?
学部生の頃は、北大近くのカレー屋の「自由人舎 時館」でバイトに明け暮れていました。かなりまじめに取り組んでいましたよ。とうとう調理師免許まで取ってしまったぐらい(笑)。
え!そうなんですか!じゃあその頃から食に興味があってこの道に?
うーーーん特段そういうわけじゃないです。当時の北大は入学後に学部学科が決まるシステムだったのですが、大学生活を謳歌しすぎて(笑)行ける研究室が限られてしまいました。でも4年生の時に「野菜を消毒しよう」という研究テーマに出会って、これ面白そうだな!とピンときました。それで食品の生産ではなく加工について学ぶことができる食品加工工学の道に進むことにしたんです。自分で研究を始めてみると、「勉強はつまらないけれど、研究は面白いな!」と思って、それで大学院に行って修士号を取りました。
最初から興味を狭めずに色々やってみたら面白かったんですね!その後はどうされたのですか?
バブル崩壊後の不景気でどこの会社もめちゃくちゃ採用枠を絞っていましたがなんとか就職し、民間企業で研究開発の仕事をしていました。でも1年で辞めました。
えっなんと!素早い決断!
たとえば、2歳年上の先輩は2年後の自分の姿を表しているわけです。10歳上の先輩に将来の自分の姿を重ねたら、「自分が頑張った研究なのに、なんで会社の名義になるんだよ。会社の歯車なんて面白くねぇ」と思っちゃって。自分の研究がしたくなって、それでまた大学院に戻ることに決めたんです。博士課程に進学しました。幸い、上司は「立派になってくれや」と送り出してくれました。人に恵まれていたんですね。
社会に出たあと、研究のためにまた学生に戻られたのですね。
はい。博士課程を修了した後は食品総合研究所(現在の農研機構)の食品研究部門で研究職として働いていたのですが、そこで大きな出会いがあったんです。ある日、予測微生物学の大家であるトム・マクミーキン氏とお話しする機会がありました。それで、海外で研究してみたいなと思ったんですよ。どうせなら、彼のいるオーストラリアに行きたい!と思って、日本学術振興会の特定国派遣制度でタスマニア大学へ留学できることになったんです。
またしても素早く決断したんですね!
そうですね。結局1年しかオーストラリアにはいられなかったんですけど、まあでも2年いたらもう日本に社会復帰できなかったと思う(笑)。そのぐらい良いところでした。その後、北大に勤めることになって今ここにいる、というわけです。
現職に就かれるまでに、ものすごく幅広い経験を積まれたんですね。
僕は運良く転がったという面があるけど、でもある程度、こうやりたい・こうなりたいという妄想をしながら進んでいくのがいいんじゃないかと思う。周りがどうとか、気にしないほうがいい。やっときゃよかったという後悔よりも、やっちまったなぁという後悔のほうがいいかなと僕は思います。残念ながら今のところまだタイムマシンはないから、学生のみんなには、やらずに後悔はしてほしくないなと思います。
学生にむけて、メッセージをいただけますか?
直感を信じて、面白そうと思った方向へどんどん進んでみてほしいですね。途中で違うなと思ったら迷わず次へ行けばいい。それから、勉強だけではなくアルバイトや課外活動を通して貴重な経験を得て、「人間力」を高めてほしいと思います。無駄なことは一つもないと思います。僕は学部生の頃ひたすらバイトをして調理師免許を取るまでになりましたが、そこでの経験が研究にも役立っていると思います。
それから、できれば若いうちに海外へ飛び出て行ってほしいですね。日本ではない国でどういう生活が行われているかを体験してほしい。それに、言葉一つとっても何もかもが「不自由」になるでしょ?そういう日本にいたら感じられない不自由を、若いうちに味わっておくのも良いですよ。僕の研究室の学生も、なるべく海外に出しています。
さいごに
「ポイントポイントで良い出会いに恵まれて、今のところとってもハッピー」と小関さんは語りました。現在の自分となりたい自分のギャップを認識し、だいじなところで決断してこられた小関さんですが、その「決断力」は背中を押してくれる人々との出会いがあってこそなのかもしれないな、と感じました。
この記事は、大橋颯人さん(経済学部1年)、木瀬七海さん(獣医学部1年)、長尾渉さん(法学部1年)、長谷川健太さん・増田友姫さん(総合理系1年)が、一般教育演習「北海道大学の”今”を知る」の履修を通して制作した成果です。