12月25日と26日に札幌市南区にあるアイヌ文化交流センター サッポロピリカコタンで、プラネタリウム、サンゴ礁科学者・考古学者・文化人類学者によるトーク、喜界島を舞台とした演劇、アイヌ音楽とシマ唄のコンサートと、盛りだくさんのイベントが実施されました。この企画『サンゴキャラバン』を主催したのはNPO法人喜界島サンゴ礁科学研究所。理事長をつとめるのは北大の渡邊剛さん(理学研究院 講師)です。
渡邊さんはサンゴ礁などから地球環境の変動を明らかにする研究に取り組んでいます。主なフィールドは鹿児島と沖縄の中間に位置する喜界島。この島はサンゴ礁でできており、10万年前から今も大きくなり続けています。渡邊さんはこの喜界島で単に研究をするだけではなく、地元の人や異分野の研究者やアーティストも巻き込んで、地球環境を学び、考え、未来にむけて実践する場をつくっています。
喜界島をとびだし全国をキャラバンしているこの企画。今回札幌で喜界島とコラボしたのは北海道の礼文島と、そこで発掘をしている考古学者の加藤博文さん(アイヌ・先住民研究センター 教授)です。異分野の研究者やアーティストが協同すること、島を研究する意義について語る渡邊さん、加藤さんらの言葉を、イベントの様子と共にお伝えします。
【川本思心・理学研究院/CoSTEP准教授】
喜界島と礼文島のつながり、島で研究する意義とは
渡邊さん: 7年前から喜界島で研究をしています。キカイカレッジという教育組織をつくって、どうやって研究を島の人に伝えるか、一緒に未来をつくっていくかを考えてきました。その中で、考古学の分野で同じ取り組みをしている加藤先生をお呼びしたら、島の人がイベントにたくさん参加してくれました。今回、北の島である礼文島のお話をしていただきます。昔から人々の交流の場であった南と北の島をつないでいくことが、社会を変える手助けにつながっていくのではないかと思っています。
加藤さん: 島は離れているように見えますが、海で道となり、島は橋となって人と人をつなぎます。また、島は地理的に限られた空間のため、他の地域との交流が見えやすく研究しやすいという特徴もあります。礼文島は南と北の文化の交流路で、4,500年前からさまざまな人が住んできました。喜界島も沖縄や九州との交流の拠点で、これらは「境界域の島」といえます。境界とは国の境であり、この国の境で区切られた歴史が描かれてきました。一方で、アイヌ民族も喜界島の人も境界を越え、交易をしていた人々でした。これからはその目線からの歴史をつくっていく必要があります。礼文島と喜界島の比較、気候変動と社会の変化を研究していきたいと思っています。
島にまつわるプラネタリウムと演劇を上演
2日間の会期中には『アンソロポリウム サンゴ礁から星空へ』と題したプラネタリウムも上映されました。アンソロポリウムとはアンソロポロジー(文化人類学)とプラネタリウムを合成した言葉。企画したのはポリネシアの島々に住む海洋民族の文化人類学を専門としている後藤明さん(南山大学 人文学部 教授)です。ポリネシアの人々は2,000年前から固有の星座をつかって航海をしていました。アンソロポリウムとは星座を通して、地域固有の知と科学をコラボする試みなのです。北緯28度にある喜界島の夜空とその地に伝わる星座、そして北緯45度の礼文島の夜空とアイヌの星座がドームに映し出され、来場者は遠く離れたふたつの地域を感じることができたに違いありません。
喜界島を舞台にした演劇『喜界島inパラレルワールド』も上演されました。25日は『自殺したい男』『ウル神様は突然に』、26日は『貴ヶ島三ッ巴民譚』『サンゴの味方、ヒトの味方』です。監修は著名な劇作家の平田オリザ氏で、演じるのはサンゴ研の研究者や学生たちや、今回の札幌公演だけに参加した方々。直前まで脚本の修正と練習が行われ、本番は一種独特な熱気に包まれました。
演じることで越える、人と分野の境界
なぜ喜界島サンゴ礁科学研究所では、演劇を活動に取り入れているのでしょうか。25日の加藤さん、後藤さん、渡邊さんの対談から抜粋してお伝えします。
渡邊さん: 島にはいろんな研究者が集まってきます。その中で「なにしてるの?」「一緒にやったらおもしろいんじゃないの?」から自然に協同が始まっていきました。でも、始めてみると「あれ?」となることがあります。すごく仲が良くても研究や活動のイメージが一致していないことがある。本当の意味で融合していない。どうしたらよいか、と考えました。島にはアーティストの方も集まって来ますが、人に伝えることを本当に真剣に考えていると感じました。それで方法として演劇をとることになりました。
加藤さん: 礼文島でもアイヌアートプロジェクトの結城幸司さんや、フィギュアアーティスト(人形劇師)の沢則行さんと一緒に活動しています1)。考古学はさまざまな分野の研究者と協同が必要です。そして発掘には世界中の国から研究者や学生も来ます。そもそも言葉が違うんですね。なので共通の「言葉」をつくることが大事なんです。礼文島では沢さんが学生たちを対象にワークショップをやりました。言葉ではなく影絵と自分の体で表現する。今回、渡邊先生にさそわれて自分も演じることになりましたが、これは面白いなぁと感じています。
後藤さん: プラネタリウムの説明も、ある意味演じているという点で共通性があるかもしれません。劇で演じていると面白さを感じると同時に、身につまされることもあります。地元の人とのずれがあったんじゃないかと認識するきっかけになります。
渡邊さん: 演じると対等なコミュニケーションが生まれますよね。学生の方が演技がうまいことがあって、「先生、そうじゃないんじゃない?」と言われたり(笑)。そして、身体性をともなう理解というか、演劇をすることで考え方の違いなどがわかるようになった。人がやる、体を動かすということが重要だと思います。演劇には何が生まれるわからないけど何かがあります。いろんな人に入ってきて欲しいですね。
アートの力
2日間の締めくくりはスペシャルコンサートです。結城幸司さんを代表とするアイヌアートプロジェクトと、喜界島からやってきた川畑さおりさんによる音楽が奏でられました。結城さんは「アートは壁がない世界。アートには人を伸ばす力、前向きにしてくれる力がある」と曲の合間にお話していました。最後は川畑さんの唄に合わせ、参加者全員が踊りだして幕を閉じたサンゴキャラバン。今後も全国をめぐる予定です。
参考文献:
- TERRACE 2018: 「夏の礼文島で、考古学者と人形劇師がコラボ授業を実施」(2021年12月29日閲覧)
- 北海道大学理学部 2021: 「超領域対談:サンゴに学ぶ、学問の新しい形〔地球惑星科学 × 先住民考古学〕」(2021年12月29日閲覧)
礼文島での加藤さんの研究を紹介する以下の記事もご覧ください。
- 【チェックイン】最北の島に集う ~遺跡発掘にかける夏~(2016.08.12)
- 【バトンリレー】#35 加藤博文さん(アイヌ・先住民研究センター教授)(2015.04.24)