ジオパークって、なんでこんなに面白いのだろう。ジオパークとは大地のジオに公園のパークを足した言葉で、過去の地球が生み出した独特な地形や地質からそこに住む生物や環境、そしてそこで人間が営んできた文化が存在する場所だ。もしかしたら君も行ったことがあるかもしれない。だって、日本には46か所もジオパークが認定された地域があるのだから。何がそんなに魅力的なのかって? もちろん地学が好きな私にとってはジオパーク自体めちゃくちゃ面白いフィールドだ。でも実は、そこで生まれるコミュニケーションが魅力的なのだ。
【荒木藍・理学院修士1年】
地球科学的な価値を過去から知り、持続可能な未来へ
世界でジオパークが生まれたのは2004年。地球科学的な価値がある遺産を保全しながら、教育やツーリズムに活用して、持続可能な社会を開発していこうとユネスコが「世界ジオパークネットワーク」を設立したことが始まりだ。日本では独自の日本ジオパークネットワークも存在していて、これを書いている2022年7月の時点では、日本ジオパークに認定されている地域が46地域ある。そのうちユネスコが認定している世界ジオパークが9地域あるのだが、北海道にはアポイ岳・洞爺湖有珠山の2地域が認定されている。またこの2地域を含めた三笠・白滝・とかち鹿追・十勝岳のエリアが北海道にある日本ジオパークだ1)。あ、やっぱり君も行ったことあったみたいだね。
様々な人が関わっているジオパーク
日本のジオパークは主にそこのエリアに住んでいる人々が活動している。自然に詳しい専門員や、ボランティアでガイドをしている人、またそこを管轄している行政で働いている人もいる。ジオツーリングといった、ジオをフィールドにした地域観光を促進する活動が行われていたり、そのエリアのジオパークについて詳しい説明が展示されているビジターセンターの運営もしていたり、ガイドさんがジオサイトをめぐるジオツアーをやってくれたりする。それから、その自然に関する地域の方々への教育活動や、減災・防災活動、そのエリアの研究も継続的に行っている。さらには、他エリアのジオパークと協力してイベントを行ったり、案内してくれるガイドさんを養成したり。と、ジオパークでは様々な取り組みを行っていて、そこに多くの人が関わっている。
ジオパークに惚れた
昔からジオパークに興味があったわけではなく、普段の生活の一部だった。私の出身地(宮崎県)からは”霧島山”も見れるし、”桜島”から流れてくる灰も日常生活の一部。さらに、”阿蘇山”や”豊後大野”の自然も馴染のあるものだった。これらの場所をジオパークに認定されているエリアだと意識して見るようになったのは、大学生になってからだ。
少しずつ自然科学に対する知識が蓄積されていき、様々な角度から地質や地形を見られるようになってくると、何年もかけて地球が創り上げた大地を理解できるようになった。だから、これまで学んだことを直に地球が創った大地で見られるジオパークが面白くなったのだ。
いつも見ていた川は50 km離れた山の噴火の溶岩でできていて、それが地質の特徴の一つにある柱状節理であることによって、滝ができていったなんて聞いただけでワクワクする。更にその溶岩が柔らかいおかげで、壁に仏を掘る磨崖仏の文化が発展していって今でもその名残がある、なんてロマンが詰まっているのだろう。
その大地が創った環境とそこに住む人々の生活や文化が密接に関わっていることを知ってから、ジオパークの魅力に取りつかれるようになった。そこにしかない”ジオ”がその地域の”エコ”と”ヒト”と密接に繋がっているって当たり前のことかもしれないが、そのジオが創った過去や現在を知ることでこれから未来の持続可能な社会をつくるための材料としていることが、とても素敵なことだと感動したのだ。
私と科学技術コミュニケーションの始まり
半年前まで私は、大学生をしながら大分の体験型科学館で働いていた。ここに来る様々な分野の外部講師の補助をしながら、科学と生活を繋げて小学生から中学生に教えるのが仕事だった。その仕事が楽しいと思うと同時に、人々が地球に直に触れながら過去を知り、そこからもっと未来について考えてもらえないか、と思うようになった。それが私の科学技術コミュニケーションを勉強するきっかけだ。
この分野の新参者のため、科学技術コミュニケーションを説明するのは正直難しいが、私なりの解釈では「科学や技術と社会の関係を明らかにし、さらによりよい社会を目指すための双方向的なコミュニケーション」だと思っている。では、どこで自分の求めるコミュニケーションが行われているのだろうか。そこで思いついたのが、私が惚れた『ジオパーク』だった。ここだったら、学術的にも研究されている地球の大地という自然に直に触れられる場所であり、その大地を活かした文化が生まれた地域である。そして何より、それらを伝えるために様々な人が関わっていて、沢山の科学技術コミュニケーションが生まれる場所なのではないだろうか、ってね。
ジオパークで科学技術コミュニケーションを探す
北海道に来てから3か月、科学技術コミュニケーション研究室で本格的に活動してから2か月と半月が経った。現在は地域性を重視するジオパーク職員と、最先端の研究をする専門家・研究者の分野との双方向性の科学技術コミュニケーションに注目して研究していきたいと考えている。しかしまだ、どこでどんなコミュニケーションが行われているのか、また誰と誰の間で生まれたコミュニケーションなのか、目を光らせながら探している最中である。
2か月ちょっとの間、北海道の六つあるジオパークの内、四つのエリアを見学した。ジオパークで働いている人にお話を聞いたり、地域のお店を覗いてみたり、パンフレットを読み漁ったり。そんなこんなしながら、ジオパークを運営する凄腕職員や、めちゃくちゃその地質や地形に詳しい専門職の方、またその地域で農業や商業を営んでいる人たち、地域の高校生とジオパークとのコラボ商品開発をしていたり等、様々な人がジオパークを通じて魅力あるコミュニケーションを取っている情報を得ることができた。
これから
ジオパークをフィールドに科学技術コミュニケーションを研究するためには、ジオパークに関わっている人に直接インタビューすることも必要だ。研究室で文献を読む事ももちろん、現地に行くことが必要になってくるため、大学院修士課程1年のうちは何度もジオパークに足を運んで関わっている人とのコネクションを作ることが重要となってくる。同時に、様々なネタの中から研究対象とするジオパークの科学技術コミュニケーションを絞っていき調査を進め、分析を行っていくことになるだろう。
まだ、科学技術コミュニケーションにドップリつかり始めてから日が浅い。しかしそんなことを言い訳にしていられないほどモノにしていかなければならない知識が多く、毎日が目まぐるしく過ぎている。研究方法についても概念についても新しいことの連続であるのだが、こんなにも充実した大学院生生活を送れていて本当に幸せな事だと、最近頻繁に思うようになってきた。これから私が研究することが、一人でも多くジオパークを使って地球に直に触れて過去を知り、そこから未来について考えて貰えるような、将来のジオパークを活性させる一つの種になったら嬉しい。
参考文献:
この記事は、荒木藍さん(理学院修士1年)が、大学院共通授業科目「大学院生のためのセルフプロモーションⅠ」の履修を通して制作した作品です。
荒木藍さんの所属研究室はこちら
自然史科学専攻 科学コミュニケーション講座 科学技術コミュニケーション研究室(川本思心准教授)