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#198 社会問題への建築からのアプローチ(2) ~建築で貧困を解決できるって本当?~

前編では、森太郎さん(北海道大学 工学研究院 建築都市部門 空間デザイン分野 建築環境学研究室 教授)に、断熱や換気を味方に快適に健康に暮らす方法についてお話を伺いました。後編では、森さんが建築学を志したきっかけや学生時代に熱中したこと、国や地域による建築スタイルの違い、そして、森さんがめざす建築による貧困問題へのアプローチについて、お話しいただきました。

【今井隆心・総合理系1年/竹中かれん・総合理系1年/原七海・総合理系1年/古久保亜留久・文学部1年/安田大樹・総合理系1年】

 

建築の分野に進もうと思ったきっかけは何でしょうか。進路選択に悩んでいる人もこれを読むと思うので、ぜひきかせてください。

僕の父親が設計事務所をやっていたんです。自宅が設計事務所でしたので、図面が常に身近でした。父は美しい図面を描く人で、それを見ているのが楽しかったんですよね。父はかなり本にお金をかける人で、有名建築家のデッサン集が自宅にあって、そういったものを眺めているのも好きでした。それで父の仕事は楽しそうだな、継ぎたいなとなんとなく思っていました。また、日本は資源国ではないので、省エネルギーという観点からも建物を眺めてみたい、というのが大きな動機だったと思います。

 

日本と海外の建築には違いがあるのですか?

建築って本当に「土地に根ざしたもの」なんですよ。日本の建築技術は優れていると思うけれど、それは一つの技術に特化した職人の方が現場に居て、その土地に合わせた方法や道具で作っていけるという点です。言い換えれば、どんな場所でもどんな大工さんでもうまく作れる、というものではないんです。こういった建築方法は日本特有です。

例えばロシアの極東地域とくらべてみましょう。ロシアの極東地域では韓国や中国の建設会社が活躍しています。かれらの工法はシステマティックでどんなワーカーさんでも建設作業に参加できます。大量生産したコンクリートパネルを現場に持ってきて組み上げる、というスタイルです。監督さんが指示したら、ワーカーさんはその通りに作ることができます。

それに対して日本の建設会社は、現場で型枠を作って、コンクリートを流し込むという作り方をしています。この場合、各工程で細かい技術が必要になるので、誰でもできるっていうわけではないんですよね。例えば、型枠屋さんだったら型枠のことだけを専門的にやる。その分、より正確に綺麗に作ることができる。日本は現場の労働者の方たちの技術力が専門分野ごとにとても高い。そういうわけで、世界の中でも日本の建築の技術力は優れていると言われるんです。しかし、その技術がそのまま海外展開できないということになります。

 

 

省エネルギーの観点から建築に関わりたい、と冒頭でおっしゃっていましたが、詳しく教えてください。

室内環境を良くすることで、貧困という社会問題にもアプローチできると思っているんです。寒冷地の低所得層がかかえるエネルギーに関する問題を、「fuel poverty(燃料貧困)」といいます。特に寒冷地では本当に深刻な問題のひとつです。寒い地域では住環境は食料と同じくらい重要で、いかにエネルギー消費量を少なくできるかがカギになります。

しかし、低所得の人たちの住宅は質が悪くて元々寒い。でもお金がないから燃料が買えなくて余計に寒い。さらに、寒いから換気扇を止めてしまったり、部屋の中に洗濯物を干したりすることもあるでしょう。寒い家の中で換気扇を止めて洗濯物を干すと結露が起きますよね。すると家の中にカビが生えてくる。その空気の中でずっと生活すると、健康にも悪い影響が出る、という悪循環が起きてしまいます。そういう問題を総合的に解決できるのが、断熱の技術なんです。きちんと断熱をして少ないエネルギーで家の中を暖かくすることができれば、貧しくても快適な室温と最低限の健康を維持することはできるかもしれない、と思うんです。

換気や断熱がきちんとできると、気持ち良いだけでなく健康を守ることにもつながるんですね。

そうですね。建築は、単に省エネとかかっこいい建物を建てるとかいうことだけではなく、社会問題解決も含めて総合的に人間の生活に貢献できる分野なんです。そういう視点で見ると、僕たちの仕事は色んなところで役に立っているんじゃないかなーっていう気がします。

(建築環境学研究室の歴代の教授の肖像が、教室に掲げられている)

人生を豊かにする経験

さて、ここまで森さんの研究について伺ってきました。優しい笑顔が印象的な森さんですが、その学生時代はどのようなものだったのでしょうか。

 

森さんはどのような学生時代を過ごされたのですか?

僕はずっとバレーボールをやっていました。高校の時は本当に一生懸命やっていて、そこそこの選手だったと思いますよ。そこでやり切っちゃった感じだったので、大学ではすこし不真面目でしたが、バレー部で活動しました。社会人になってからもずっとバレーボールを続けていました。

それでね、学生にはよく言うんですけど、工学部に来てそのまま建築分野に就職するとなるとその業界の人との付き合いだけになってしまうんです。そうなるとつまんないよって。

僕がバレーボールをしていて良かったなと思うのは、社会人になってからも自分の専門の業界だけにいたら出会えないようないろんな人と知り合えることなんです。それは別にただ人脈を作るとかっていう話ではなくて、友達として。面白いんです。こういう社会もあるんだなっていうね。それは僕の人生をすごく豊かにしてくれたなぁと思っています。だから皆も勉強ばかりやっているんじゃなくていろんな人と出会ってほしいです。

 

勉強や研究にうちこむだけでなく、人生を豊かにする出会いが大事ということですね。

面白いことに、バレーボールが研究とつながったこともあるんです。バレーボール部の後輩が高校の教員をしていて、コロナ対策に関するアンケート調査に協力をしてもらいました。教室の換気の状態が可視化されてしまうことになるので、学校によっては敬遠されることもあると思うのですが、ありがたいことです。

さいごに

前半と後半に分けて、森太郎さんのご専門である室内環境とエネルギーの関係についてお話ししていただきました。ふだんあまり意識していませんでしたが、建物や室内環境を整えることが生活の質を守るのにとても重要な役割を担っていることがわかりました。断熱・換気のコツを教えていただいたことで、これから初めて北海道の冬を迎える私たちも、心強い気持ちになりました。また、勉強や研究にうちこむ一方で、そこだけに視野を狭めずに色々な世界に触れることが、人生を豊かにするコツです。今回のインタビューを通して、心身ともに健康に生きるために必要なことを教えていただきました。ありがとうございました。

この記事は、今井隆心さん(総合理系1年)、竹中かれんさん(総合理系1年)、原七海さん(総合理系 1 年)、古久保亜留久さん(文学部1年)、安田大樹さん(総合理系1年)が、一般教育演習「北海道大学の”今”を知る」の履修を通して制作した成果です。

 

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2022.09.16

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