主に海洋に生息している小さな生物、渦鞭毛藻(うずべんもうそう)。その光合成色素の多様性や葉緑体の進化によって変わる進化について研究している山田規子さん(理学院 博士課程3年)に、北海道登別明日中等教育学校4回生の2人がお話を聞きました。
渦鞭毛藻とは?
渦鞭毛藻は、いびつな形をした単細胞生物です。主に海洋に生息する小さな藻類で、鞭毛で回転しながら動く特徴をもちます。
見たことのない研究設備
研究室におじゃまして、今まで見たことのない規模の大きな研究機器に驚きました。それは、電子顕微鏡と培養室です。電子顕微鏡は高倍率で観察ができるため、肉眼では見えないような小さな生物でも正確に映し出すことができます。培養室は、室温と日照条件を調節して藻類を育てることができる部屋です。藻類は種類によっては育てることがとても難しく、そこで育てられた藻類は必要な方に売ることもあるそうです。
山田さんの研究室の学生は現在11名在籍していおり、そのうち4名が留学生です。ブラジルやドイツ、中国、タイなど様々な国の出身者がいるため、研究室内で話される言語は英語です。とてもグローバルな研究室ですね。
実際に電子顕微鏡を使わせてもらっている様子
観察した渦鞭毛藻の写真
渦鞭毛藻のなぞに迫る研究
単細胞生物で葉緑体を持つ渦鞭毛藻は、長い年月の中で進化をとげてきました。例えば、ある種は普段、動物プランクトンとして生きているのですが、葉緑体を持つ生物を食べることで一定の期間だけ植物プランクトンになることができます。例えばミドリムシ(ユーグレナ)は、もともと動物プランクトンとよばれる葉緑体を持たない生物でした。しかし、私たちが野菜を食べるように、水中の植物を食べたときに、消化しないで体の中で維持することを選んだのです。
一番驚いたのは、餌を取りに行かなくてもいつでも食べ物を食べることができる種がいることです。それは、体内にある膜の中に、餌であるシアノバクテリアを飼います。そうすると、光合成で増殖したシアノバクテリアを、いつでも自由に食べることができます。とても便利で賢い生物だと思いました。山田さんの研究の目的は、これらの顕微鏡でしか観察できない単細胞生物を分類したり、彼らの葉緑体の起源を探ったりしてそのなぞを解き明かすことです。最近の研究では、新種の渦鞭毛藻から新しい光合成色素を発見されました。
面白い研究をするには
山田さんは研究室の中だけで研究しているのではありません。研究に必要な生物を採るために、単細胞生物のサンプリングに自ら足を運びます。カナダ、ロシアや南アフリカなどの海外に行ったことがあり、ひたすら車で移動し沿岸をめぐることもあれば、船に乗ることもあります。長い時で1ヶ月間もサンプリングを行います。「目的のサンプルはなかなかとれないため大変で、採れるかどうかは運です。」と山田さんは言います。サンプリングが大変な一方で、良いこともあります。それは海外にいくことで、野生のペンギンなど、普段は出会えないものに出会えることです。研究で大切なことは何かと聞くと「面白い研究をするには、誰も持っていない生物を見つけることが一つの大きな手です。」と述べられました。研究というのは人と同じことをするのではなく、人とは違ったこと、また人とは違う視点で物事を見ることが大事であるとわかりました。
沖縄沿岸でのサンプリングの様子
研究に夢中になったきっかけとは?
学生時代、美術部、演劇部に所属していた山田さん。数学、生物、物理が得意だったそうですが、大学1年のときに今の先生の論文と出会い、生物のおもしろさに感動しました。普通なら1年生で自分の進む研究室を決めるのは時期が早いそうです。しかし、山田さんはその時に今の研究室へ行くことを決めました。また、「今行っている研究は決して人の役に立つ研究ではないけれど、新たなことを突き詰めていくことにやりがいを感じているのです。」と笑顔で話して下さいました。自身の研究の話を生き生きと目を輝かせながら話す姿に、大学生活への魅力を感じました。
南アフリカの海岸にて
単細胞生物の魅力
多細胞生物の体は複雑な仕組みでできており、姿や生き方を変えることは困難です。たとえば木は1度ある場所に根を張ると、そこから動くことはできません。それに対して、体のつくりが単純な単細胞生物は、生き方を自由に変えることができます。こうした多細胞生物にはない単細胞生物の自由自在で柔軟な生き方は、魅力であり、うらやましくも思います。
【取材:早川直美さん、穴澤悠吾さん(北海道登別明日中等教育学校4回生)+CoSTEP、レポート指導:上海一輝(CoSTEP10期ライティング・編集実習)】