1分間で全身を1周する血液、死ぬまでずっと動き続けている心臓、その道となって体の隅々まで血を巡らせる血管。その大切さを知らない人はいないでしょう。
その血管研究に20年以上取り組んでいる研究者、樋田京子さん(北海道大学 大学院歯学研究院 血管生物分子病理学教室 教授)に、血管研究のきっかけからこれからについて、お話を聞きました。
所属は大学院歯学研究院、いわゆる歯医者の樋田さんが、なぜ血管研究に取り組むようになったのでしょうか。
よく聞かれます。血管研究をするようになったきっかけは、たまたま子どもたちを育てながら研究をしたかったことに遡ります。ハーバード大学に夫が留学に行く際に、私も当時1歳の双子の子どもも一緒だったので、私も同じラボの方が子どもが熱出した時に交代で実験ができる、という現実的な理由から始まりました。ただ、がんの研究はずっとしたかった思いはありました。歯学部でも口腔外科でずっと臨床をやってきたので、口の中にできる癌を含め、親和性はありましたね。
最初から血管研究に取り組みたいということではなかったですね!
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はい、最初から、当時何が何でも血管じゃなければいけない高尚なビジョンを持っていたかというと、決してそんなことなかったですね。置かれた立場で何とか研究をするっていうことをかなえるには、血管研究を始めよう、と言う気持ちでした。最初から絶対この道に行こうという夢とビジョンを持って研究している人もいるでしょうが、私は必ずしもビジョンを想定し、若い頃から決めた通りのキャリアパスを描くことは、まずほとんどなかったです。どっちかの道にまず行ってみようって行ってみたら、その場所で頑張っていると何か面白くはなってくる。血管研究も、やってみたらとてもおもしろかったので、今まで続けられてきています。
血管の大切さはなんとなく分かりますが、もっと詳しく知りたいです。
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血管はさまざまなところで、病気と健康に関わっています。歯医者の私がその血管研究にハマってる人間の一人ですよね。血管は言うまでもなく、健康には大事な働きをしています。血液は1分間で全身を1周しますし、心臓は死ぬまでずっと動き続けています。血管が狭くなったら流れが悪くなるから高血圧になり、動脈硬化も血管の働きと深く関係しています。
血管研究とがんとの関係について、研究されていると聞きました。
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そうですね、がんの血管新生と言って、がんが呼び込んでくる新しい血管の異常性は、私の研究の一つのトピックになります。がんは大きくなるために、栄養や酸素を供給する血管に依存しています。がんは血管から一定距離離れると生存できないので、血管新生を阻害することで、がん細胞を兵糧攻めにし、がんの縮小や転移を阻害するという考えのもと提唱された、新しいがんの治療法である血管新生阻害療法を研究しました。
最近研究されていることはどんなことですか?
がんの研究をしていたら、新型コロナ感染症の研究に繋がったのが、最近の大きな出来事ですかね。血管研究を進めていくうちに、あの2020年のパンデミックがおこり、今まで見てきた血管の性格とこの感染症の血管が非常に似ているのではないかと気づいたのですね。でも、誰も血管の細胞にウイルスを感染させるとどうなるのかという研究は、その当時やられていませんでした。最初はそのウィルスの受容体を含め、未知なること多かったですが、それにチャレンジしたのが私たちの仕事であり、多くの人々と協力して、その関わりについて解明することができました。
新しい研究に出会う楽しみも大きいでしょうね。
そうなんです。まさか、自分が新型コロナ感染症の研究をするようになるなんて、想像もしていなかったことでした。自分もまだまだ研究を続けるので、今後どんなものが見えるだろうか、楽しみでもあります。
一つの研究をしていると、次々と見えなかった道が見えてくると語る樋田さん。樋田さんの研究や研究者像を通して、今後血管研究の先に見えてくるものについて話し合う場があります。詳しくは、以下の第35回三省堂サイエンスカフェin札幌 CoSTEPシリーズ19「血管研究の先に見えるもので話を続けます。ご興味ある方は、こちらへぜひお越しください。
日 時 2024年3月6日(水)18:30-19:30
会 場 三省堂書店札幌店内 ブックス&カフェ UCC (JRタワー札幌ステラプレイス5F)
参加費 500円(飲み物とお茶菓子込み)
ゲスト 樋田 京子さん(北海道大学大学院歯学研究院 教授/日本学術会議第二部会員)
聞き手 朴 炫貞(北海道大学CoSTEP 特任講師)
主 催 三省堂書店 札幌店
共 催 北海道大学CoSTEP、日本学術会議北海道地区会議