2013年から2016年にかけて西アフリカで発生したエボラウイルス感染症の大流行は、まだ記憶に新しい出来事でしょう。私たち学部1年生からなる取材班は、エボラ研究の第一人者である高田礼人さん(人獣共通感染症リサーチセンター・教授)を訪ねました。高田さんは、ザンビアでの研究のことはもちろん、現地研究者との交流や北大での学生時代など、多岐にわたる質問に答えてくださいました。これからどのように大学で学び、研究を進めていくか悩んでいる学生も必見です。
【小野実央/窪田恵之/平野紘太朗・総合理系1年】
――先生が研究する上で心がけていることは何でしょうか
誰も思いつかないことをやろう、と心がけている。エボラウイルス研究の始まりは、北大での博士課程を終えた後、アメリカに留学していた1996年頃に、そこの河岡義裕先生に「エボラウイルスやろう」と言われたことなんだ。でも、その時エボラウイルスを取り扱える安全度が最高レベルの施設にアクセスする方法が自分にはなかった。だから、エボラウイルスの表面のタンパク質を、人に病原性を示さないウイルスの表面と交換して病原性を弱らせた「偽エボラウイルス」を開発した。それで、安全度が低い施設でも研究ができるようになった。
でも偽エボラウイルスは僕の完全なオリジナルアイデアってわけじゃない。近くの研究所に偽エボラを作るための技術を持ってる人がいて、その人と共同研究やりましょうって始めたんだ。だから、きっかけは与えられたものだけど、着手した瞬間からはもう受動的じゃない。そこから何を見つけていくかは自分で全部考えてやり始めてるね。
――ザンビアで研究を進めていますが、現地の人と交流する中で大事なことはありますか
現地のやり方を聞きながら、サポートに徹するっていうスタンスでやる方がうまくいくんだな。特に政治的な話になると、現地のカウンターパートがしっかりしていると、ここに顔出ししなきゃいけないとかアレンジしてくれて、話が進むんだ。信頼関係ですよね。
(エボラウイルスの宿主候補として夜間にコウモリを採取)<写真提供:高田礼人さん>
例えば、今は名古屋議定書という国際的な取り組みができている。要するに、その国の資源はその国の物だと権利を主張できるようになったわけだ。今までは、先進国が取るだけ取って持って帰ることが普通に行われていた。そういうのを取り締まるには、名古屋議定書は確かにいいんだけど、実は研究にはデメリットにもなり得るんですよ。純粋に学術研究目的なのに、サンプルが持ち出せない。そういう時に、現地の人たちのサポートという位置付けが大事になる。そのためにも相手国の考え方とか文化的なことを学びながらやっています。
――ザンビアからの期待も大きいでしょうね
僕たち以前の1980年代から北大は獣医学部設置などで協力しているから、向こうも期待しているでしょうし、こっちも期待に応えなきゃっていう思いはあります。2013年末からのエボラ流行の時も、ザンビアでは感染者はいなかったのですが、疑い例はその後もよく出るんです。診断はザンビア国内の施設ではできないので、ザンビア大学に僕らが設けた実験室で診断をしています。それもザンビア政府から正式な依頼を受けてです。長く信頼関係を構築してきたから可能になったことだと思います。
(ザンビア大学の実験室にて。試薬等は手に入りにくいものの、機材は北大の協力で十分に整備されています)
<写真提供:高田礼人さん>
――北大で学んでよかったことはなんでしょうか
結果論になるけど、エボラウイルスのような人獣共通感染症の研究に関しては、日本の中でも北大が一番で、そこに入ってよかったと思う。獣医学をベースに人獣共通感染症の研究をずっとやって、2005年にこの人獣共通感染症リサーチセンターをつくる時に北大に戻ってきて、一緒にやってきた。その流れが僕にとって良かった。いろんな研究がすすめられたからね。
あと精神的な部分もある。北大のスピリッツは昔からずっと好きだしね。強いじゃない!絆が。学生は大体大学の近所に一人暮らしで、しょっちゅう皆でつるんで飲みに行ったりする家族みたいな感じでさ。僕は剣道部だったし、その時の絆は強いと思う。今は外務省に行っている奴もいれば、企業に行ってる奴もいる。そういう学生時代の繋がりが、いつか何かの時に頼りになる。北大の環境はそういうつながりが生まれやすいかな。
(調査を終えて、ザンビア大学獣医学部長のアーロン・ムウィネさんとロッキンバー国立公園の湖畔にて語らうひと時。
アーロンさんは北大留学時代に高田さんと共に学んだ仲)<写真提供:高田礼人さん>
――学生にはどのような資質が必要でしょうか
そりゃさ、すごく優秀で体力もあって、そういうのがいいに決まっています。だけど… 僕らのところは研究所だから、そこに所属できる大学院生で、研究者になろうとしている人についての答えになるけど、研究の面白さをわかっている人、かな。科学の本質は、不思議な現象を「なんでだろう」と解明することだと思うから、素直な疑問をちゃんともって研究に取り組める人がいいかな。もちろん、研究をやりつつ実用化も目指さないといけないから、そういうアピールもできないといけない。
あと相手の気持がわかる人。これはスポーツやるにしても、相手の立場で考えると、攻略が見えてくるのと同じなんだけどね。研究も相手が何を求めているかを意識すると進むんだよ。そういうことができる人が「優秀な人」ってことかな。あとやっぱり体力は大事だよ(笑)。
———
科学者は科学的知識が豊富なだけでは務まりません。エボラウイルスを研究するきっかけを作った河岡先生、ザンビアの方々、そして学生時代の友人など、高田さんは他者との関係も大切にしていることがお話から伺えました。私たちも学生のうちから、様々な人と積極的に関わっていくべきだと思いました。
後編では高田さんお勧めの本を紹介します。
※ ※ ※ ※ ※
この記事は、窪田恵之さん(総合理系1年)、小野実央さん(総合理系1年)、平野紘太朗さん(総合理系1年)が、全学教育科目「北海道大学の”今”を知る」の履修を通して制作した成果物です。