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130サイエンスカフェ札幌「学校では教えてくれない土の中のことマメ科と地球の、根深い関係~」を開催しました

2024.3.17

2023年7月23日(日)13:00~16:00、第130回サイエンス・カフェ札幌「学校では教えてくれない土の中のこと~マメ科と地球の、根深い関係~」をクボタ 農業学習施設 KUBOTA AGRI FRONTにて開催しました。今回のサイエンス・カフェ札幌は小中学生合わせて15名の方が参加しました。

ゲストの信濃卓郎さん(北海道大学 大学院 農学研究院 教授)は、「土壌と植物の間でどのような栄養のやりとりが行われているのか」について研究しており、作物と土・微生物の関係を根から明らかにしようと日々研究に取り組んでいます。土壌微生物の研究もその一つで、根・土・微生物が関わり合って栄養を獲得しようとする生命活動の場を、世界で初めて可視化しました。進行役は小松川 修さん(北海道大学 CoSTEP 第19期対話の場創造実習 受講生)が務めました。

話し手:
信濃 卓郎(しなの たくろう)さん/北海道大学 大学院 農学研究院 教授/写真右
聞き手:
小松川 修(こまつがわ しゅう)さん/北海道大学 CoSTEP 第19期対話の場創造実習 受講生/写真左
(自分を野菜に例えて自己紹介)
ダイズの根っこの秘密

ダイズは種から大きくなります。種を水にうるかしておくと数日で根が出てきます。そして段々と大きくなり芽が出てきます。どんどん大きくなると葉っぱに隠れて紫色や白色のとても小さな花が咲きます。花が大きくなると、次第に実ができてきます。この実はスーパーなどで見かける枝豆です。この枝豆を茎についたまま置いておくと枯れて、最後には実の殻の中に種ができます。
ダイズは枝豆にして食べることもありますが、茶色の種を直接煮て、納豆や煮豆として食べたり、粉にしてお砂糖を加えてきな粉にしたり、味噌や醤油にもなります。しかし、ほとんどは特に豚や鳥などの動物の餌になっています。
ダイズをはじめとした作物が畑で成長するには、ダイズも他の生物と同様に呼吸をするための酸素、光合成をするための光、そして土壌から水と養分を吸う必要があります。養分の中で特に大切なのが「ちっ素」「リン」「カリウム」です。

(ダイズの一生)
(作物が成長するために必要なこと)

ダイズを土から掘り出すと根っこがありますが、この根と土がくっついている所を根圏と呼びます。根圏は、根とその周りの環境が互いに影響をし合う空間です。土の中にはいろいろな生物や養分、水分、そして空気もあります。また、土の中には石ころがあったり、同じ土でも硬い土や柔らかい土が色々と混ざっています。根っこは石から養分を簡単には吸えません。また、養分が少ないところで根っこが頑張ってもあまり養分は吸えません。養分がいっぱいあるところで頑張って、石ころだらけのところは頑張らない方が無駄がないはずです。そこで、信濃さんは、​根っこはどこでも同じように頑張っているのかを知るために実験を行いました。

(根のまわり~根圏~)

実験では、葉っぱに、目印になるマーカーの炭素(放射性物質)を含んだ二酸化炭素を光合成で取り込ませ、マーカーの炭素が根の周りの土のどこに行くのかを調べました。その結果、ある部分で集中的に根の外の土に光合成で獲得した炭素化合物が分泌されていることがわかりました。
また、根でも、とても強く放射性物質が集中している場所があることがわかりました。これはマメ科の植物の特徴で根粒です。

このことがわかるまでに10年かかったそうです。

(信濃さんの研究)

なぜ根粒がダイズにはあるのでしょうか。根粒にはたくさん炭素が送り込まれていることがマーカーを使った実験からわかりました。ダイズをはじめとするマメ科の作物が育つには、特にたくさんのちっ素が必要ですが、土の中のちっ素だけでは足りません。そのため、足りないちっ素を空気中から取り入れ、自分の生育に利用しています。このように空気中のちっ素を植物が利用できるちっ素に変えることを「ちっ素固定」といいます。

(ダイズの戦略)

根粒は赤色をしています。この根粒の赤色は、人間の血液の中に入っているヘモグロビンというタンパク質の色です。そして根粒の中には、根粒菌という菌が住んでいます。この菌は植物が持っていないニトロゲナーゼという酵素を持っていて、空気中のちっ素を植物が利用できるちっ素に変えることができます。しかし、この酵素は酸素が少なくないと働かないという性質があります。
根粒のヘモグロビンは豆のヘモグロビンということで、レグヘモグロビンという名前がついています。このレグヘモグロビンは人間のヘモグロビンと同じで、酸素をくっつける能力を持っています。人間のヘモグロビンは血液の中で酸素をくっつけて体全体に酸素を運ぶ役割を持っているの対して、根粒のレグヘモグロビンは酸素を運ぶのではなく、根粒菌に酸素が行かないようにする仕事をしています。
植物は、根粒という小屋を作って、その中の酸素がある準備室で元気な根粒菌を育て、次にレグヘモグロビンの酸素バリヤーで酸素を減らし、根粒菌のニトロゲナーゼを働かせて植物が利用できるちっ素に変化させています。

(根粒のしくみ)
観察実験 ~ダイズの根っこを見てみよう~

ダイズの根っこについて信濃さんから解説してもらった後、子どもたちは、4つのグループに別れ、顕微鏡を用いてダイズの根っこについている根粒の観察を行いました。以下の①~⑧は観察実験の手順です。

① 1人1つずつプランター入りのダイズの苗を配ります
② 容器を叩いて、根を土ごと取り出します
③ 根から土を、やさしく取り除きます
④ 水で洗って、根をきれいにします
⑤ 根粒を取り出して、薄く切り出します
⑥ 切り出した根粒を、顕微鏡で観察します
⑦ 根粒を見ながら、スケッチします
⑧ スケッチを見せ合いながら、考察を行います

子どもたちから「すごい!」「おもしろい!」と歓声が上がっていました。実験を通して根粒がダイズの根っこにある、ということがよくわかりました。

(ポットからダイズを取り出します)
(土の塊を優しくもみほぐします)
(水で洗って、根をきれいにします)
(大きめの根粒を一粒選びます)
(根粒をスライスします)
(スライスした根粒をプレパラート上に乗せます)
(顕微鏡で観察します)
(根粒をスケッチします)
(気づいたことをノートに書きます)

観察したダイズに代表されるマメ科植物は土壌からのちっ素だけでは全然足りず、たくさんちっ素が必要です。そこで、マメ科植物は、根粒菌を根粒の中で育て、酸素を与えずに空気中のちっ素をマメ科植物が利用できるちっ素に変え、光合成産物を餌として与えています。まるでマメ科植物が根粒菌を育てているように見えます。実際は、根粒がたくさんついたダイズのように必要以上の根粒菌が集まっても、すべてを利用するわけではなく、必要がなくなると根粒を壊して、中の根粒菌を放り出します。放り出された根粒菌は土の中にいる別の生物に食べられてしまう厳しい世界のようです。

マメ科と地球の根深い関係

今から150年くらい前のデンマーク人のベイジェリンクという人が、根粒を不思議に思って研究していました。最初、根粒は虫が作った瘤ではないかと考えて研究を続け、虫ではなかったということを明らかにし、菌が住んでいることを見つけました。

(根粒菌の発見と歴史)

根粒菌は普段、土の中に住んでいます。根粒菌と根の出合いは根毛という小さな根っこの表面で始まります。植物の根を観察すると、透明で細い根毛が見えることがあります。この根毛は、たった一つの細胞から構成され、根毛の中には核が一つしかありません。
マメ科の根はフラボノイドという化合物を分泌します。これを近くにいた根粒菌が感知して、Nod factorという化合物を合成します。根粒菌が根毛につくとNod factorによって根毛の先端が丸くなって根粒菌を抱き抱えます。そして、根粒菌は、根毛の先から根の方にできた通り道を通って根の中で増殖し、次に根の細胞が増殖して根粒を作ります。

(閉じこめられた根粒菌)

人類は莫大なエネルギーを使って、根粒菌と同じようにちっ素固定する技術を手に入れました。しかし、工場で植物が利用できるちっ素を作る場合にはたくさんのエネルギーが必要となり、温暖化ガスを多く排出します。また、化学肥料を大量に利用すると、ちっ素が土壌から地下水や河川に流れ出て、やがて湖や海にたどり着き、赤潮や藻の発生の原因となり環境汚染が起こります。これに対して、太陽のエネルギーで空気中のちっ素を変えることができる根粒菌は、化学肥料に代わるすごい力をもっているのかもしれませんが、そう単純な話ではありません。

(根粒菌が着目される理由)

根から吸収されたちっ素は、植物内でタンパク質へと変換され、さまざまな機能を果たします。このプロセスを経て、ちっ素は最終的に種子に蓄積されます。例えば、ダイズの種子を含む多くの作物は、私たちの日常の食料となります。人間はダイズや他の作物、肉からタンパク質を摂取し、そのタンパク質のちっ素を体内で分解します。この分解されたちっ素は、筋肉など体の別の部位で新たなタンパク質として組み込まれ、私たちの体を構築していきます。人体の約3.3%はちっ素であり、これは私たちの生命を維持する上で欠かせない要素です。
体内に摂取されたタンパク質由来のちっ素は、そのまま体内に留まるわけではありません。尿中にもちっ素が含まれており、1年間で約5kgのちっ素が体外に排出されます。このため、生命を維持するには、タンパク質を含む食品を通じてちっ素を絶えず摂取し続ける必要があります。
2022年11月に世界の人口は80億人になりました。この人口で必要となるちっ素量を計算すると約5600万トンになります。

・人類が使用しているちっ素量:1600万トン
62kg(世界平均体重 × 3.3%  ≒ 2kg
80億人 × 2kg  = 1600万トン
・人類が尿として排出するちっ素量:4000万トン
30g/日 × 46%(窒素の割合) × 365日  ≒ 5kg
80億人 × 5kg = 4000万トン

・人類が必要なちっ素量(人類が使用しているちっ素量+人類が尿として排出するちっ素量)=5600万トン
※これは東京ドーム(124万トン)約45杯分です。

陸上では、根粒や、同様の機能を持ちながら根粒を形成せずにちっ素固定を行う菌が存在します。これらの生物によって、年間約4400万トンのちっ素が固定されています(生物学的ちっ素固定)。しかし、世界の人口80億人が必要とするちっ素量は年間約5600万トンに上るため、必要量を満たすにはちっ素の供給が不足しています。不足しているちっ素は、土壌に存在するちっ素を利用する方法もありますが、その結果土壌が徐々に枯渇し、弱体化する問題が生じます。さらに土壌に存在するちっ素だけで需要を満たすには不十分です。この課題を解決するために、工場で生産される化学肥料が利用されています。現在、年間約3300万トンのちっ素肥料が生産されています(工業的ちっ素固定)。これを活用することで人間や動物がちっ素を十分に獲得して、生きていくことができます。

(ちっ素と人間)

私たちがどういった環境を望むか、どれぐらい工業的ちっ素固定を使い、どれぐらい生物学的ちっ素固定を使っていくべきか、そのバランスを真剣に考えていく必要があります。

質問・感想(原文そのまま)について、信濃さんにコメントをいただきました。

Q.大豆の使い道でスライドに書いてあった物以外どういう使い道があるんですか。

大豆の使い道は人の食べ物として(納豆、味噌、醤油、植物油、厚揚げ、おから等)、世界的に重要なのは動物の餌。食用にならない大豆は土に戻されることもあります(植物や微生物の餌になります)

Q.大豆以外にちっそはなにでとれるんでしょうか?

空気中の窒素ガスを利用できるのは大豆だけではありません。大豆が含まれるマメ科の植物(例えば小豆、インゲンなど)も同じです。それは窒素固定細菌を利用しているからです。窒素固定をする微生物は他にもいて、実はマメ科以外にも窒素固定が可能な植物もいます。でもほとんどの植物は土壌中の無機窒素(アンモニアや硝酸)を利用しています。そのことに昔の人は気づいて無機窒素の元となる栄養分やさらには肥料を開発しました。

Q.なぜ、ちっそはそれほど、人間と植物に大切なんですか?

生物の中で窒素はまずタンパク質として大切です。タンパク質は体のさまざまな機能を担う酵素などに重要です。その他にもDNAにも窒素は使われています。窒素がなければ人間も植物も生存することはできません。

Q.しなの先生は他にどのような事をしているのですか?

仕事では福島県での放射性物質によって汚染された農地の復興や、植物の根と土壌の関係(物理的、化学的、生物的)を調べています。

Q. マメ科の植物には他にどのような菌がいてどんなはたらきをしているんですか

窒素固定細菌が有名ですが、窒素ではなくてリンを吸収するのを助ける菌根菌も重要な微生物です(菌根菌は最近ではなくてカビ(真菌)ですが)。その他にも多くの役割が不明な微生物が植物の体内や表面に生存していることも知られています。

Q.えいようのある土とえいようのない土のちがいとは何ですか

植物に養分をきちんと供給できる土が栄養のある土だと考えています。

Q.しなのせんせい どうして豆はでっかくてもこんにゅうきんはでかくないのか

根粒菌は小さな細菌です。そのため先日の実験の時のように顕微鏡を使わなければ見えませんでした。この小さな細菌が集まって根粒を作っています。根粒にもいろいろな大きさがありましたが、根粒自体は植物の根が変形した植物の組織です。その中に小さな細菌が住んでいる仕組みです。豆は根粒で根粒菌によって作られた窒素を使って植物が作り出した種です。なので、大きくなっているのです。

Q.ほかの植物にも根粒はあるんですか?

マメ科であれば小豆、インゲンなど。変わったマメ科の植物ではセスバニアという植物があり、この植物は茎に粒が出来てそこで窒素固定を行います。なので茎粒(けいりゅう)と呼ばれています。

Q.こんりゅうを作るしょく物はほかにありますか?

上と同じ回答です。

Q.信濃さんが工業的ちっ素を0にしたくて、何でもできるならどうしますか?

人や動物が排出している窒素を全て土壌に戻します(もちろん病気などが起きないように綺麗にして)

Q.こんりゅうができる種物は他に何こくらいありますか。

2万種類くらいはあると思います。

Q.1本1本の根に、根粒きんがいっぱいついていることにびっくりしました。

もっと細かく観察すると根粒がたくさんある場所、ない場所があるのもわかると思います。それぞれの根粒には根粒菌がたくさん住んでいるので、そのことは一本の根でも根粒菌がたくさんついている場所とついていない場所があるのです。それもまた面白い研究になります。

Q.根粒などをしれてよかったです。根粒ってなんで角々してないんですか?

根粒は植物の組織なのであありカクカクしていないのかなと思いますが、はっきりとはわかりません。もっといろんな形があっても面白いですね。多分、根粒の中で根粒菌の役割や機能が少しずつ異なっていて、それらが連続的になっているので丸い方が効率が良いのかなと思います。

Q.小さい根粒がいっぱいついている大豆と大きい根粒が少しついている大豆ではちがいがあるのかな?何かちがうところがある?すごく面白かったです。

良いところに気がつきましたね。一般に言われているのは大きな根粒の方が窒素を固定する能力が大きいとされています。でも小さくても数が集まれば大きな能力を持つので一概にどちらが良いとは言えないようです。根粒にもほとんど窒素固定をしない根粒も時々あって、そうすると植物はその根粒には光合成産物をあげないという仕組みも持っています。

ご参加いただいたみなさん、信濃さん、ありがとうございました!

CoSTEP 19期 対話の場の創造実習:
小松川修、崎野希実子、永田泰江、中村明日香、奈女良実央、宮下諒太