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第36回三省堂サイエンスカフェin札幌 CoSTEPシリーズ20 「火星の月から探る水惑星誕生の謎―火星衛星探査MMXの挑戦」を開催しました

2025.3.28

2025年3月13日(木)18:30~19:30、第36回三省堂サイエンスカフェin札幌 CoSTEPシリーズ20 「火星の月から探る水惑星誕生の謎―火星衛星探査MMXの挑戦」を三省堂書店札幌店内 ブックス&カフェ UCC にて開催しました。コーヒーを片手にお菓子を食べながら、科学について語り合うサイエンスカフェにぴったりな雰囲気の中で12人の参加者に話題を提供してくれたのは倉本 圭(北海道大学大学院理学研究院 教授/JAXA宇宙科学研究所 特任教授(兼任)/日本学術会議第三部会員)さんです。

三省堂カフェは、日本学術会議北海道地区会議代表幹事の宇山さんによる開会の挨拶からはじまりましたた。宇山さんは、日本学術会議の役割と現状について参加者に向けて説明を行いました。

日本学術会議は76年の歴史を持ち、日本の科学者を内外に代表する機関として、学問と社会をつなぐ役割を担っています。具体的には、政府への提言活動や、さまざまな学問分野の成果を市民に届ける取り組みを行っており、北海道地区会議では「シンポジウム形式の学術講演会」と「サイエンスカフェ」という二つの形で市民向け活動を展開しています。

火星とその月の特徴と謎
〈画像提供:倉本圭さん〉

火星は地球の約半分の大きさを持つ惑星で、現在の表面は海が存在せず、ほとんどが砂漠状態となっています。しかし、衛星からの詳細な観測により、かつて川が流れていた痕跡が発見されており、これらは約40億年前に形成されたと推定されています。岩石と液体の水が相互作用した痕跡や塩の堆積物も確認されていることから、太古の火星は「水の惑星」であり、地球に似た環境を持っていた可能性が高いことが示唆されています。

火星が注目される最大の理由は、地球が水と大気を維持できた一方で、火星がそれらを失った経緯を理解することで、地球環境の成り立ちを再認識できる点にあります。さらに、かつて水環境があったことから、火星に生命が存在した可能性も考えられており、現在も多くの探査機が火星を調査しています。太陽系形成の過程では、太陽に近い内側の惑星(水星、金星、地球、火星)は主に岩石から形成され、外側の惑星は氷とガスを多く含んで形成されました。本来、内側の岩石惑星には水が少ないはずですが、地球や古代の火星に水が豊富にあった理由は大きな謎となっています。

〈画像提供:倉本圭さん〉

火星には「フォボス」と「ダイモス」という二つの衛星があります。地球の月が地球の直径の約1/4もある大きな衛星であるのに対し、火星の衛星は非常に小さく、フォボスは直径約27キロメートル程度です。フォボスは反射率が7%程度(日本人の黒髪と同程度)と非常に暗い色をしており、この特徴は小惑星「リュウグウ」と類似しています。リュウグウの分析から、このような暗い色の天体は水と有機物を含んでいることが確認されており、フォボスにも同様の成分が含まれている可能性が高いと考えられています。

〈画像提供:倉本圭さん〉
〈画像提供:倉本圭さん〉
〈画像提供:倉本圭さん〉

フォボスの起源については二つの主要な仮説があります。一つは「捕獲説」で、太古の時代に小惑星帯から飛来した天体が火星の重力に捕らえられたというものです。もう一つは「巨大衝突説」で、火星に巨大な天体が衝突し、その衝突で飛び散った破片が集まってフォボスになったというものです。この二つの仮説のどちらが正しいかを解明することは、火星の水の起源や太陽系初期の状態を理解する上で重要な手がかりとなります。

〈画像提供:倉本圭さん〉
〈巨⼤衝突の痕跡について語る倉本さん〉
MMXミッションの目的

MMX(Martian Moons eXploration)ミッションは、主に三つの重要な科学的目標を持っています。

〈画像提供:倉本圭さん〉

第一に、火星衛星の起源を解明することです。フォボスが捕獲された小惑星なのか、火星への巨大衝突によって形成されたのかを調査します。この問いに答えることで、火星に水や大気の材料がどのように供給されたのかという謎に迫ることができます。

第二に、太古の火星や衛星の形成過程を理解することです。フォボスのサンプルを分析することで、太陽系初期の状態や、水を含む天体がどのように内側の惑星系に運ばれたのかについての知見が得られると期待されています。

第三に、火星と衛星の進化のプロセスを調査することです。火星の大気は現在、地球の大気の約200分の1の薄さしかありませんが、かつてはより厚く、暖かい環境だったと考えられています。MMXは火星大気の逃げ方に関する新しいデータを取得することで、なぜ火星の大気が薄くなったのかという謎の解明に貢献します。

〈画像提供:倉本圭さん〉

さらに、MMXには予想外の発見の可能性も秘められています。フォボスは火星の近くを周回しているため、火星表面から放出された物質が堆積している可能性があります。フォボスの砂の約1000分の1が火星由来と推定されており、もし火星に微生物が存在した(あるいは存在する)なら、その遺体がフォボスのサンプルに含まれているかもしれません。このため、MMXは間接的に火星の生命の痕跡を初めて発見する可能性を持つミッションでもあるのです。

スケジュール

MMX計画は2015年頃から準備が始まり、プロジェクトチームが結成されました。基本設計審査を終え、現在は探査機の製作・試験および組み立てが進行中です。当初は2023年秋に打ち上げる予定でしたが、H3ロケットの開発遅延により2年延期されました。

現在の計画では、2026年10月に地球を出発し、約10〜11ヶ月かけて火星圏に向かいます。2027年10月頃にフォボスの周回を開始し、2029年前半にフォボスに2回着陸してサンプルを採取する予定です。2030年7月にはフォボスから離れ、火星のもう一つの衛星であるダイモスに接近します。2030年12月に火星圏を離脱し、約1年かけて地球に帰還します。2031年末にはサンプルを地球に持ち帰ることを目指しています。

打ち上げのタイミングは、地球と火星の位置関係が重要です。地球がより早く太陽の周りを回るため、地球の運動の勢いを借りて、より少ない燃料で火星に到達できるタイミングを選ぶ必要があります。また、フォボスが小さく重力も弱いため、探査機はフォボスと同じ周期で、少しずらした角度で火星の周りを回ることで、相対的にフォボスの周りを周回するという特殊な軌道を使用します。

探査機の構造と搭載機器

MMX探査機はJAXAが開発した惑星探査機の中でも最大級の大きさとなります。探査機は主に3つのモジュールから構成されています。

〈火星探査機のキャラクター。名前を募集中〉
  • 推進モジュール:火星到着時に大きな逆噴射を行い減速するためのモジュールで、大量の燃料を搭載しています。任務完了後は切り離されます。
  • 探査モジュール:さまざまな観測機器や着陸装置を搭載した本体部分です。
  • 帰還モジュール:サンプルを地球に持ち帰るためのカプセルです。
〈画像提供:倉本圭さん〉

探査機には多数の観測装置が搭載されています。特に重要なものとしては、以下の3つが挙げられます。

  • 「TENGOO(テング)」は高解像度の望遠カメラで、1ピクセルあたり10センチという解像度でフォボスの表面を撮影できます。これにより、着陸地点の詳細な地形や、フォボス表面の微細な特徴を観測することが可能になります。
  • 「OROCHI(ヤマタノオロチ)」は広角カメラで、さまざまな波長のフィルターを使って表面の鉱物組成を調査します。特定の波長では水を含む鉱物が暗く映るため、フォボス表面の水の分布を把握するのに役立ちます。
  • 「MSA」は質量分析器で、フォボスから放出される可能性のある水蒸気やイオンを検出します。フォボスの内部に氷が存在すれば、表面の割れ目から水蒸気が漏れ出している可能性があり、それを直接検出することを目指しています。

サンプル採取のために、2種類の装置が用意されています。コア管理式は筒状の装置で深部のサンプルを採取し、10グラム以上の取得を目標としています。気流式は窒素ガスを吹きつけてその反動で舞い上がった表面の粒子を吸引する装置で、宇宙環境の影響を受けた表面物質のサンプリングを行います。

サンプルリターンとその意義

MMXミッションの最も重要な側面の一つは、フォボスからのサンプルを地球に持ち帰ることです。このサンプルリターンによって、地球の最先端の分析技術を用いた詳細な調査が可能になります。

サンプル回収のプロセスは、はやぶさ2と同様にオーストラリアの砂漠地帯にカプセルを落下させる計画です。カプセルは精密に制御されて落下するよう設計されており、回収後は専用の施設で分析されます。

フォボスのサンプル分析の最大の意義は、その起源を解明することです。もしフォボスが捕獲された小惑星であれば、リュウグウのサンプル分析のように、水分子を含む鉱物が多く見つかると予想されます。一方、巨大衝突によって形成された場合は、衝突の高温で水が抜けた痕跡が見られるはずです。また、年代測定によって形成時期も特定でき、太陽系初期の状態についての重要な情報が得られます。

さらに、火星の生命探査の可能性です。現在までに約200個以上の火星由来の隕石が地球で発見されていますが、これらは火星の固い岩石部分が衝突によって放出されたものです。一方、微生物がいるとすれば地下30センチ程度の比較的浅い部分と考えられており、そうした場所の物質がフォボスに降り積もっている可能性があります。

〈画像提供:倉本圭さん〉

フォボスのサンプルには火星由来の物質が約1000分の1の割合で含まれると推定されており、もし火星に生命が存在した(あるいは存在する)なら、そのバクテリアの遺体をサンプル中に発見できる可能性があります。これは、MMXミッションが火星の生命を間接的に発見する可能性を秘めていることを意味しています。

サンプル分析は地球上の最先端の分析設備を用いて行われます。はやぶさ2のリュウグウサンプルの分析では、鉱物の詳細な組成図が作成され、水分子を含む鉱物の分布が明らかになりました。同様の分析をフォボスのサンプルに適用することで、火星の水の起源や太陽系初期の状態についての貴重な知見が得られると期待されています。

このように、MMXによるサンプルリターンは、単に火星の衛星の調査にとどまらず、太陽系の形成過程、惑星の水の起源、さらには地球外生命の可能性まで探る壮大な科学的挑戦なのです。2031年の地球帰還が実現すれば、太陽系科学に革命的な洞察をもたらす可能性があります。

質疑応答

参加者からは以下のような質問がありました。

〈参加者からの質問に回答する倉本さん〉

Q.ミッション失敗に備えた対策はありますか?

昔は同じものを三つとか作っていたんです。ボイジャーという探査機では、ボイジャー1号、2号がありますが、実は3号まで作ってあったんです。3号は地上に残しておいて、打ち上げた1号、2号に何か不具合が起きた時に、地上に残っている3号でテストをして、ここに命令すれば修理できるというようなことをやっていました。お金があった時代にそれができたんですが、今はお金がないので1機しか作っていません。失敗してしまうと、同じものを打ち上げるかどうかはその都度判断します。どうしてもやるべきだということになれば作り直しますが、技術の進歩により別の形がいいんじゃないかと判断されれば、違いうものになります。

Q.サンプルが回収できない場所に落ちる可能性はありますか?

基本的には心配ご無用です。ものすごくコントロールして落とします。カプセル自体に移動の機能があるわけではなく、地球に打ち込むときに精密に狙って落とすんです。数十キロぐらいの範囲のどこかには落ちるという感じです。そのため、広い砂漠があるオーストラリアが選ばれています。

Q.探査機の表面がギラギラ光っているのはなぜですか?

ギラギラしている理由は、金属を使っている部分が多いからです。金属は熱をよく伝える性質があるので、宇宙空間で太陽が当たっている場所から日陰の場所へと熱を均一にしたいという目的があります。金属をそのまま使っているとギラギラしているように見えます。また、一部を黒くすることもありますが、この場合は、冷えすぎないように熱を吸収できるようにしておこうという意図があります。いろいろ計算をして、ギラギラさせることもあるし、黒っぽいものを使うこともあります。探査機自体では温度管理がうまくできないので、なるべく温度を均一に保とうという工夫をしています。

Q.「火星と衛星の進化」とはどういう意味ですか?

生命の進化もありますが、もう一つは火星大気の進化についてです。MSAという装置は火星から飛び出す大気の粒子を捕まえることができます。火星の大気は現在、地球の大気の200分の1の薄さしかないのですが、昔はもっと厚かったと考えられています。それがなぜ薄くなってしまったのかは大きな謎なんです。MMXはその火星の大気の逃げ方について全く新しいデータを取ることになっていて、このデータを分析することで、どうして火星の大気が薄くなったのか、火星大気の進化がわかってきます。45億年間でどういうふうに薄くなってきたのかということがわかる、そういったことも含めて進化と言っています。

Q.火星の内部活動は現在もありますか?

場所によって違っています。火星の地図を見ると、北半球はかなり平坦で、クレーターが少なく、一部の地域は火山地形になっています。一方で、火山が全くないようなクレーターだらけの地域もあります。最近では火星でも地震(火星の地震は『火震』と呼ばれます)が起きていることがわかっていて、火星はまだ完全に『死んでいない』ということが明らかになっています。よく探せばもしかすると温泉のようなものもあるかもしれません。そういったところにはバクテリアが生き残っている可能性もあります。地磁気については、現在は地球のような立派な地磁気はありませんが、惑星が形成される時期には磁場があったことがわかています。

Q.プロジェクトには何人くらいの人が関わっていますか?

科学者だけで300人ぐらいいるんです。それに技術者も入れると、技術者は科学者の3倍ぐらいいるので、相当な人数になります。プロジェクトが進むにつれて人数が増えていき、ある程度ミッションが進むと人数が少し減ります。探査機を作っている人たちが、今まさに最終段階になっていて、打ち上げ後はその人たちは比較的暇になる一方、運用する人たちが忙しくなります。現在は探査に関わる全てのチームが動いている状態です。

Q.通信はどのように行われますか?

リレー衛星を使うことも考えたことはありますが、準備が大変なんです。基本的にはMMXから直接地球に向かって電波を送り、地上で受信します。ただし、日本の基地だけだと、火星が見えている時間は1日のうち8時間ぐらいしかないので、地球の裏側でも通信できるように、NASAやヨーロッパなどに協力を頼んで、ほぼ24時間通信できるようにしています。通信は結構大変です。

Q.試験段階ではどのようなことを行っていますか?

たとえば、電気試験というのがありますが、これは打ち上げから運用計画までの5年間の重要なポイントを全部通して再現するんです。全体としてうまく動作するかを確認するのですが、これは24時間体制で行われ、装置を作った先生方も全員参加します。

まとめ

三省堂カフェの締めくくりとして、宇山さんから挨拶がありました。倉本さんへの感謝を述べたあと、火星探査における国際競争について言及しました。

〈宇山さん〉

宇山さんは、「火星でもサンプルリターンミッションが進行中であり、もしかすると同じ年にMMXと火星からサンプルが戻ってくる可能性がある」と話しました。特にアメリカと中国はライバル関係にあり、両国とも最速で2031年というタイムラインを目指しているとのことでした。
このような国際的な競争がある中で、MMXプロジェクトが良質なサンプルを持ち帰ることへの期待を述べ、「2031年のニュースを楽しみにしていただければ」と締めくくりました。

〈画像提供:倉本圭さん〉

火星衛星探査計画MMXは、単なる火星の月の調査にとどまらず、太陽系の形成過程、惑星の水の起源、さらには地球外生命の可能性まで探る壮大なミッションです。2026年の打ち上げ、2031年の帰還というタイムラインで進行中であり、成功すれば太陽系科学に革命的な洞察をもたらす可能性があります。これらの探査計画が成功すれば、2030年代初頭は火星科学の大きな転換点となるかもしれません。

ご参加いただいたみなさん、倉本さん、ありがとうございました!

倉本さんの所属研究室はこちら

北海道大学 大学院理学院 宇宙理学専攻